寒冷療法の効果について解説していきます。
寒冷療法の歴史
紀元前ギリシャより行われてきた治療の手段であり、急性外傷による腫脹や痛みに対して、氷や冷水などを使用したのが始まりです。
本格的に使用されてきたのは1950年代からで、1965年にLehmkahlは寒冷療法が筋紡錘活動を低下させ、痙性の抑制につながることを報告しています。
現在では、炎症の急性期、筋スパズムの軽減、鋭利痛(Aδ感覚線維)の抑制、即時的な筋の促通、運動後の疲労回復などで用いられています。
寒冷刺激による生体の生理学的影響
種類 | 内容 | ||
循環系 | 血流量の減少(血管収縮・血液の粘性上昇)、酸素供給の減少 | ||
代謝系 | 代謝率(エネルギー消費)の低下 | ||
神経系 | 神経伝導速度の低下(γ運動神経・Aδ感覚線維)、α運動線維の活動促進 | ||
疼痛 | 疼痛閾値の上昇、痙性・筋スパズムの軽減 |
冷却効果①:炎症の軽減
捻挫などの急性外傷により局所に炎症(疼痛)が発生した場合は、RICE処置を行うことが推奨されています。
RICE処置とは、局所安静(rest)、冷却(ice)、圧迫(compression)、挙上(elevation)のことを指します。
ヒトは43℃以上の温熱刺激を侵害刺激(疼痛)として受容されるため、炎症の急性期は寒冷刺激にて組織温を低下させることで疼痛を軽減できます。
また、寒冷刺激は神経線維(γ運動線維とAδ感覚線維)の伝導速度を低下させるため、筋スパズムの軽減と鋭利痛の減少が起こります。
C感覚線維(鈍痛)は寒冷刺激の影響が少ないため、鈍い痛み(二次痛)に対してはあまり効果が期待できません。
冷却効果②:神経筋活動の促通
急激な皮膚への寒冷刺激(クリッカーやコールドパック)は、α運動線維の活動を促進させ、一時的に筋出力を高めます。
例えば、膝関節伸展のセッティングを行う際、内側広筋の収縮がうまくできない患者では、冷却することで収縮を促通できます。
寒冷療法の種類
①アイスパック
アイスパックの材料はシリカ塩を特殊処理したゲル剤であり、これを冷凍庫などの冷却器で冷やしてからタオルなどに巻いて使用します。
長所としては、準備が簡単であり、広範囲に使用できることです。
②寒冷部分浴
寒冷部分浴の適用は上下肢の末梢部で、上肢では肘より末梢部、下肢では膝より末梢部に使用します。
筋スパズムの軽減が目的の場合は20分間、疼痛の軽減が目的の場合は20秒間浸しては取り出してを繰り返し、局所の充血が確認できたら終了とします。
長所としては、指先などの細かい関節部を冷やすのに適しています。
③クリッカー(アイスマッサージ)
臨床でよく使用されるアイスマッサージは、クリッカーを用いて治療部位を軽く圧迫する方法です。
回しながら擦り込むように実施していき、使用時間は通常5分ほどで局部の感覚が鈍麻したら終了とします。
神経筋活動の促進にも適しており、収縮が弱い筋肉に対してアイスマッサージを実施し、収縮運動を反復してもらいます。
長所としては、適用中に治療領域を観察することができ、小さくて不整な領域にも使用できることです。
④冷却スプレー(塩化エチルスプレー)
スポーツ現場(試合中)で打撲があった部位に対して、局所冷却(除痛)を目的として使用されます。
急性疼痛に塩化エチルスプレーをしようすることにより、約70%に疼痛の解消と関節可動域の改善を認めたとの報告もあります。
治療部位から30㎝の距離をおいて近づけたり離したりしながら噴射し、部位の皮膚が白くなる手前で終了します。
長所としては、超急性期に使用できることです。
多発性硬化症の症状管理
多発性硬化症患者の症状は、暖かい環境や活動時に生じる全身的な加温により憎悪することになります。
そのような患者に対しては全身の冷却がよく反応し、電気生理学的な計測値と臨床的な症状と機能の改善をもたらすとされています。
近年では冷却機能のある上衣は冷却機能のない上衣と比較して、疲労、筋力、姿勢安定性の改善をもたらすことが示されています。