温熱療法の治療効果と方法

温熱療法の歴史

  • 紀元前エジプトの燃灼法が原型。温水を袋に入れて坐骨神経痛や直腸炎へ応用。

  • 日本では古来より温泉・湯治が治療文化として根付く。


温熱刺激がもたらす生理学的影響

種類 主な内容
循環系 末梢血管拡張 → 血流増加、血液粘性低下、酸素供給↑
代謝系 代謝率↑(エネルギー消費↑)
神経系 交感↓・副交感↑、感覚神経伝導速度↑、γ遠心性線維の活動低下
疼痛 疼痛閾値↑、筋スパズム↓

温熱効果の要点

① 疼痛の軽減

  • 血流改善(発痛物質のクリアランス)+副交感活性化疼痛閾値上昇

  • 筋温を**〜42℃**まで上げると、Ⅱ型/γ遠心性線維の発火率↓、Ⅰb線維↑ → α運動ニューロン活動が抑制され、筋スパズムが減少

  • **表在熱(例:ホットパック)**は深部筋温の上昇が小さく、Ⅰb/Ⅱ型線維への直接影響は限定的。

② 神経筋活動の低下

  • 40–43℃の温浴後に筋出力・持久力の一過性低下が報告あり。

  • 試合直前の高強度パフォーマンス目的では“温めすぎ”注意。痛み軽減・可動性改善が主目的のときに。

③ 組織の粘弾性変化(ROMアップ)

  • 短縮した結合組織は40–45℃で伸展性が最大化

  • “温め→すぐ伸ばす”(同じセット内でストレッチ/関節モビライゼーション)で効果が最も出やすい。

  • 浅層=表在熱/深層=深部熱の使い分けが鍵。


表在熱と深部熱の使い分け(意思決定マップ)

目的/条件 推奨モダリティ ねらい
広い・浅い痛み/筋緊張 ホットパック 鎮痛・リラクセーション
末梢・複雑形状(手指・足趾) パラフィン浴 均一な表在加温
広い・深い関節/筋(肩・膝・腰) 極超短波(マイクロ波) 3–4cm深部までの加温
限局・深部(関節包・腱付着部など) 超音波(温熱設定) コラーゲン組織の選択的加温
全身温め+運動 水治療法(温浴・渦流浴) 循環促進+運動併用

モダリティ別まとめ(パラメータの目安つき)

① ホットパック(表在熱)

  • 設定:水槽70–75℃(施設差あり)、タオル6–8枚相当で覆い15–20分

  • 到達:皮下**〜1cm**で数℃上昇(深部効果は限定的)。

  • 適応:頸・腰背など広範囲の浅部

  • TIP:終了直後にストレッチ/徒手で可動域を稼ぐ。

② パラフィン浴(表在熱)

  • 設定50–55℃、患部を6–10回ディップ→ビニール+タオル包帯で10–20分

  • 適応:手指など末梢・凹凸形状。RA術後の拘縮手に○。

  • 備考:熱伝導が緩やかで高温でも耐えやすいが、皮膚状態は必ずチェック。

③ 極超短波(マイクロ波:深部熱)

  • 特徴2.45GHzの電磁波。3–4cm深部まで加温。

  • 適応:肩・膝・腰など広い深部

  • 注意金属・インプラント・装具上からは避けるペースメーカー近傍禁忌

④ 超音波(温熱設定)

  • 周波数1MHz(深部2–5cm)、3MHz(浅部1–2cm)

  • 出力目安:連続(サーマル)0.8–1.5 W/cm²5–10分(部位・機器で調整)

  • 適応関節包・腱付着など限局深部。

  • TIP照射直後に伸張(“温めてすぐ伸ばす”)。

⑤ 水治療法(温熱)

  • 温度39–42℃(血管拡張・リラクセーション)。42℃超は血管収縮・心拍↑に注意。

  • 渦流浴:末梢循環↑・清掃性も◎。

  • 備考:運動療法と組み合わせやすく全身温感+ROMに有利。


安全性/禁忌・注意(超重要)

共通の禁忌・注意

  • 急性炎症/発赤・腫脹・熱感が強い局所

  • 出血傾向、血栓性静脈炎・DVT直後

  • 知覚鈍麻/循環障害(糖尿病性ニューロパチーなど)

  • 悪性腫瘍部位、活動性感染/開放創

  • 妊娠中の腹部・骨盤部(深部熱は避ける)

  • 小児・高齢者・皮膚脆弱:低温やけどリスクに注意

機器特有

  • マイクロ波/短波ペースメーカー等電子機器近傍は禁忌。金属・プレート部位は反射・ホットスポットに注意。

  • 超音波骨隆起直上は熱集中しやすい。成長線・妊娠子宮・眼球・脊髄近接部は避ける。


クリニカルTips(使い方のコツ)

  • 温めて→すぐ動かす:温熱後5–10分が“伸びやすい窓”

  • 運動前の高温長時間は避ける:一過性に**筋出力↓**があり得る。痛み軽減と可動性確保が目的ならOK。

  • ホームケア:入浴(38–40℃)後に軽いストレッチが安全。知覚低下・皮膚疾患があれば自宅温罨法は指導の上で。

  • 冷却との使い分け腫れ・熱感の強い急性期はまず冷却。温熱は亜急性〜慢性期で。


よくある質問(FAQ)

Q. どれくらいの頻度で行えば良い?
A. 慢性痛や拘縮なら週2–3回+ホームケア(入浴後ストレッチ)。反応を見て2–4週で再評価。

Q. 試合前に温めるのはアリ?
A. 軽い温め+動的ウォームアップは有益。ただし高温・長時間は瞬発出力↓の恐れ。競技前は短時間・低~中等度に。

Q. ホットパックで火傷が心配…
A. 層数(6–8枚)・時間(15–20分)・こまめな皮膚確認。知覚低下・高齢者は短時間・薄温で開始。


最終更新:2025-10-15