烏口肩峰靱帯(coraco-acromiall ligament)

烏口肩峰靱帯の概要

烏口肩峰靱帯

CALは同一肩甲骨上で烏口突起—肩峰を結ぶ靱帯です。烏口突起・肩峰・CALで構成される
烏口肩峰アーチは肩の“屋根”として上腕骨頭の過度な上方移動を抑える静的ストッパーの役割を担います。
関節包を直接補強する靱帯ではないため、他の包靱帯ほど肢位依存の張力変化は大きくありませんが、
腱板(とくに棘上筋)機能が低下した場面では上方動揺の二次的安定化因子として重要性が増します。
アーチ下面には肩峰下滑液包が広がり、腱板—CAL間の摩擦低減に寄与します。
機能的には、この空間と腱板面を合わせて「第二肩関節(functional joint)」と捉える説明も臨床で用いられます。

基本データ

項目 内容
起始 烏口突起の上外側面
停止 肩峰の前面
走行 烏口突起から肩峰前縁へ弓状に張る線維束。直下深部に棘上筋腱上腕二頭筋長頭腱が位置
緊張肢位 関節包靱帯のような一貫した肢位依存性は乏しく、静的アーチとしての制限が主体
弛緩肢位 同上
滑車(プーリー)様機能 CALが棘上筋腱を上方から押さえ、牽引ベクトルを関節窩方向へ変換求心力を高める(機能モデル)

病態の核:肩峰下インピンジメント

機械的要因

  • CALの肥厚・線維化、肩峰前下面の骨棘
  • アーチ先端の下方化、腱板機能低下に伴う上腕骨頭の上方偏位

運動学的要因

  • 肩甲骨上方回旋・後傾不足胸椎伸展低下
  • 後方関節包短縮(骨頭の前上方シフト)
  • 外旋不足のままの挙上

結果:棘上筋腱・肩峰下滑液包がCAL/肩峰下面に衝突し、ペインフルアークやROM制限。
炎症が続くとCAL肥厚→スペース狭小化の悪循環に陥りやすい。

臨床メモ:CALは同一骨内の骨点同士を結ぶ靱帯で、通常の「関節運動の制動」よりも
静的な屋根の役割が主体。加齢で硬化しやすく、腱板損傷肩では経過により硬化→変性で
相対的に軟化するフェーズも報告されます。

評価のヒント

  • 誘発テスト:Neer, Hawkins–Kennedyで肩峰下の圧迫痛を再現
  • 可動性:肩甲骨の上方回旋・後傾、胸椎伸展、肩関節外旋の出方
  • 軟部組織後方関節包のタイトネス、小胸筋・広背筋の短縮
  • 筋機能下部僧帽筋・前鋸筋の協調、棘上筋・棘下筋の発火
  • 画像:X線(骨棘・アーチ形状)/エコー(烏口突起—肩峰間の高エコー帯=CAL/直下に腱板・長頭腱)/MRI(滑液包炎、腱板病変、CAL肥厚)

触診の手順(実践)

  1. ランドマーク確認:背臥位。烏口突起上外側面肩峰前縁を触知
  2. 走行の想定:両ランドマークを直線で結ぶラインの直下をCAL走行とみなす
  3. バンド触知:ライン中央を上方から軽圧するとテント様の張りを触知しやすい
  4. 比較:靱帯がない周囲を同様に圧迫し、沈み込み感と対比
  5. 内側端の探索:中央から烏口突起縁に沿って内側へ指を進め、隙間の触感を得る
  6. 外側端の探索:中央から外側へスライドし、肩峰前縁の角張ったエッジを手掛かりに外側縁を推定
    薄い構造で直接同定は難度高。エコー併用が有用

介入(保存療法の要点)

1) 痛みのコントロール

  • 炎症期はペインフルアーク回避、就寝肢位(軽外転・軽前方挙上)を調整
  • 物理療法/必要に応じ医師の注射併用

2) スペースを「開く」運動戦略

  • 肩甲骨上方回旋・後傾促通:下部僧帽筋×前鋸筋(壁スライド、低負荷Yレイズ)
  • 胸椎伸展:椅子背・フォームローラーで誘導
  • 外旋ROM:タオルアシストやスティックで無痛域から開始

3) 衝突ドライバーの除去

  • 後方関節包ストレッチ(クロスボディ等)
  • 小胸筋/広背筋リリースで肩甲骨後傾・外転の妨げを解除

4) 腱板機能の再建

  • 低負荷高回数の外旋・下制コントロール(側臥位ER、軽負荷水平外転)
  • 求心位(上方偏位を抑えた挙上)を運動学習し、レンジ/負荷を段階拡大

5) 動作修正

  • 初期挙上での僧帽筋上部過活動を抑制
  • 反復オーバーヘッド動作の回数・フォームを最適化

外科的トピック(整理)

  • 鏡視下肩峰下除圧前方アクロミオプラスティCAL部分切離が併用されることがあるが、適応は慎重に。
  • 大断裂・不可修復腱板などでの過度なCAL切離前上方不安定(anterior escape)のリスク。
  • 肩鎖関節の慢性不安定では、CAL移行を用いた再建(Weaver–Dunn法/Neviaser変法など)の報告がある。

よくある質問(Q&A)

Q1. CALは鍛えられますか?
A. 靱帯自体はトレーニング対象ではありません。肩甲骨・胸椎・腱板の協調を整えて衝突を減らすのが本筋です。

Q2. 後方関節包ストレッチで前上方に鋭痛。続けてよい?
A. 鋭痛が出る角度・方向・力は中止。無痛域でベクトルと強度を調整して実施します。

Q3. Neer/Hawkins陽性=必ずインピンジメント?
A. いいえ。感度は高め・特異度は限定的。姿勢・可動性・筋機能・画像所見を合わせた総合判断が必要です。

Q4. どの運動から始める?
A. 痛みが強い時期は肩甲骨後傾・上方回旋促通(壁スライド/低負荷Y)穏やかな外旋
痛みが落ち着けば胸椎伸展も積極的に。

まとめ(臨床要点)

  • CAL=肩の屋根。腱板低下時の二次的上方安定化に寄与。
  • 機械×運動学的要因でアーチ下衝突が生じ、腱板・滑液包が障害されやすい。
  • 保存療法は痛み制御→スペース確保→ドライバー除去→腱板再建→動作修正を段階的に。
  • 外科は適応を厳格化。腱板断裂合併例でのCAL切離は不安定化リスクに留意。
  • 加齢で硬化しやすいが、腱板障害肩では経過で硬化→変性に伴う相対的軟化のフェーズを取り得る。

最終更新:2025-11-06