烏口腕筋の概要
烏口腕筋は上腕内側の深層に位置し、近位部で上腕二頭筋短頭腱と癒合して共同腱として烏口突起に付着します。主作用は肩関節の屈曲・水平内転・内転ですが、いずれもトルク貢献度はさほど大きくありません。
最大屈曲位ではベクトル変化により伸展方向に寄与し、外転・外旋位では上腕骨頭を前方から支持して関節安定化に貢献します。深層筋らしく、運動より安定化が臨床的キーポイントです。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 筋皮神経 |
| 髄節 | C5–C7 ※筋腹を貫通 |
| 起始 | 肩甲骨 烏口突起(上腕二頭筋短頭と共同腱) |
| 停止 | 上腕骨 内側面・骨幹部中央付近(三角筋粗面のやや内側下方) |
| 栄養血管 | 上腕動脈 |
| 主な動作 | 肩屈曲・内転・水平内転の補助/肩関節前方安定化 |
| 筋体積 | 約80 ㎤ |
| 筋線維長 | 約4.6 cm |
機能の位置づけ(肩屈曲における貢献)
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主動作:三角筋前部、大胸筋鎖骨部
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補助:上腕二頭筋(特に短頭)、烏口腕筋
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肩甲帯協調:前鋸筋・僧帽筋は肩甲帯の上方回旋・後傾で屈曲を支援(GH関節の屈曲トルクではなくスキャプラ制御)
触診方法

- 準備位:肩関節60°外転・軽度外旋、肘は屈曲位。
- 収縮誘導:この肢位から肩関節内転方向に等尺性収縮を誘導し、停止部付近で収縮隆起を触知。
- 鑑別の鍵:同じく烏口突起に付着する上腕二頭筋短頭・小胸筋の代償を極力抑える。
- 触知範囲:有効触診は上腕骨近位1/2まで。それより遠位は上腕筋に移行。
- 短頭との鑑別:腹側の細い筋線維=短頭、背側の太い筋線維=烏口腕筋が目安。
ストレッチ

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姿位:肘屈曲で壁に手掌。肩は軽伸展+外転+外旋。
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動作:体幹を前方へ軽く移し、肩の水平外転をゆっくり増やす。
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負荷:20–30秒 × 2–3回、しびれや鋭痛が出たら中止(筋皮神経に配慮)。
トリガーポイント(TP)

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主訴:肩前部(三角筋前部付近)/上腕後面・内側/時に手背まで。活動性TPでは中指先まで連れることも。
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誘発:腕を後方へ引く・頭上に上げる・体側へ強く引きつけると痛み増悪。
臨床での着眼点
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烏口突起部痛(coracoid pain):烏口突起炎・付着部障害。上方(靱帯)か下方(烏口腕筋/小胸筋/二頭筋短頭)かで介入点を絞る。

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反復性前方不安定症/手術:
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Bristow–Latarjet:烏口突起(烏口腕筋・二頭筋短頭付着)を前下方へ移植し前方安定化。
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Boychev:烏口突起を肩甲下筋下方へ通して再建するバリエーション。
→ 外転・外旋位での前方支持の理論背景になる。
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筋皮神経絞扼:烏口腕筋を貫通するため、過緊張で肘屈曲力低下や前腕外側の知覚異常。結帯動作での伸張時痛はヒント。

よくある質問(Q&A)
Q1. 烏口腕筋が硬いと何が起こる?
A. 肩前方の違和感や前腕外側のしびれ(筋皮神経絞扼)を訴えることがあります。結帯動作や外転位の伸張痛が手掛かり。
Q2. 触診で二頭筋短頭と混同します。コツは?
A. 60°外転+軽外旋+肘屈曲で等尺内転をかけ、停止部近傍の背側・太い索状を狙う。腹側の細い収縮は短頭のことが多い。
Q3. トレーニングは必要?
A. 直接の筋力強化より、スキャプラ制御とGH前方安定化の協調(大胸筋鎖骨部・前鋸筋とのタイミング)を整える方が実用的です。
最終更新:2025-10-11
