維持期/寝たきりのリハビリ治療|エンド・オブ・ライフケア

寝たきり状態とは

寝たきり状態になる原因の多くは、脳卒中認知症です。ここでの「寝たきり」とは、自力で食事摂取ができず、経管栄養で発語もない状態を指します。

『終末期リハビリテーション』(大田氏)では以下のように定義されています。

「加齢や障害の進行のため、自分の力で身の保全が難しく、かつ生命の存在が危ぶまれる人々に対して、最後まで人間らしくあるよう医療、看護、介護とともに行うリハビリテーション活動」

提供されるサービスは、清潔保持のための介助や、不動による苦痛の軽減などが中心となります。


老健施設でのリハビリ頻度は適切か?

老人保健施設(老健)では、週2回・1回20分のリハビリが義務付けられています。これは歩行可能な方にはある程度有効ですが、寝たきりの方には適していません。

実際に必要な頻度

  • 関節可動域を維持するには、1日に3〜4回、最大可動域まで動かす必要があります。

  • さらにそれを朝・昼・晩に3セット行うのが理想です。

  • よって「週2回20分」は寝たきり患者には不十分です。


関節可動域は本当に保てるのか?

実際の臨床経験から言うと、毎日リハビリを行っても関節可動域を完全に保つことは不可能です。

  • 脳損傷や萎縮による筋緊張亢進 → 拘縮はほぼ確実に起こる

  • 緊張が低い部位 → リハビリをしなくても保たれることが多い

つまり「拘縮しない部位はしない」「拘縮する部位は必ずする」と考えるべきです。


拘縮が起こりやすい部位

拘縮の起こりやすさには部位差があります。以下は代表例です。

  • 筋緊張が亢進しやすい筋肉:内転筋、下腿三頭筋、ハムストリングス、上腕二頭筋、大胸筋、胸鎖乳突筋

  • 低下しやすい筋肉:大腰筋、大殿筋、大腿四頭筋、肩甲帯周囲筋、抗重力筋

可動域制限が生じやすい関節(順位付き)

  1. 体幹:側屈・後屈・回旋・前屈(脊柱起立筋群)

  2. 頚部:側屈・後屈・前屈・回旋(胸鎖乳突筋、斜角筋群)

  3. 股関節:内旋・外転・伸展(梨状筋、内転筋群、腸腰筋)

  4. 足関節:背屈(下腿三頭筋)

  5. 手関節:掌屈(手関節背屈筋)

  6. 肩関節:外転・屈曲・外旋(大胸筋、大円筋、小円筋)

  7. 肘関節:伸展(上腕二頭筋)

  8. 膝関節:伸展(ハムストリングス)


筋緊張亢進へのアプローチ

代表的な方法は以下の通りです。

  • 物理療法:温熱、寒冷、電気刺激

  • 運動療法:関節可動域運動、拮抗筋強化、分離運動

  • 装具療法:拘縮予防、伸張反射抑制

  • 薬物療法:ブロック注射、筋弛緩薬

  • 手術療法:腱延長術、神経切除術

  • 姿勢保持:ポジショニング

  • 生活指導:疼痛・ストレス軽減、悪習慣の除去

上記はあくまで例であり、現実に寝たきりの患者さんに実施できるのはポジショニングと関節可動域運動のみです
無理にストレッチをかけるのは逆効果であり、緊張を和らげる肢位でゆっくり動かすことが大切です。


拘縮以外に起こる問題

寝たきりでは以下の合併症が進行します。

  • 骨粗鬆化:骨密度低下により骨折リスク増大

  • 皮膚の脆弱化:摩擦や衝撃で容易に損傷

  • 循環障害と褥瘡:長時間の不動が要因

  • 呼吸・消化機能の低下

これらを防ぐために、体位変換や肺理学療法が欠かせません。


維持期リハビリの意義を再考する

寝たきり患者に対して「関節を動かすだけのリハビリ」に本当に意味があるのかは疑問です。

  • 拘縮は必ず起こる

  • 痛みを伴う可能性がある

  • 多くの高齢者は「寝たきりになってまで長生きしたくない」と考えている

こうした現実を踏まえ、延命よりも穏やかな最期を意識したケアが求められます。


日本と海外の違い

スウェーデンでは、胃瘻や点滴といった延命治療を行わない方針が一般的です。
これは「延命治療こそ人権侵害」と考えられているためです。

結果として、寝たきり高齢者の数は日本よりも少なく、健康寿命を重視した制度設計になっています。


穏やかな最期を迎えるために

大切なのは、事務的な関節運動よりも清潔・整容・尊厳を守るケアです。

  • 衣服や髪型を整える

  • 面会に来た家族が「安心できる姿」を見られるようにする

  • 穏やかで dignified(尊厳ある)最期を迎えられるようサポートする


よくある質問(Q&A)

Q. 寝たきり患者にリハビリは必要ですか?

A. 必要です。ただし目的は「歩行回復」ではなく、苦痛の軽減や生活の質(QOL)の維持にあります。関節可動域運動やポジショニングを通じて、拘縮や褥瘡、呼吸・消化機能の低下をできるだけ予防することが大切です。


Q. 関節拘縮はリハビリで防げますか?

A. 完全には防げません。脳損傷や認知症などで筋緊張が高まると、どんなに介入しても拘縮は必ず進行します。予防効果があるのは一部の部位に限られ、**「拘縮しやすい部位を遅らせる」**ことが現実的な目標です。


Q. リハビリの頻度はどれくらいが理想ですか?

A. 寝たきり患者の場合、1日3〜4回×朝昼晩の3セットが理想とされます。老健施設の「週2回・20分」では不十分です。現場では、少量頻回で関節をゆっくり動かすことが推奨されます。


Q. ストレッチは有効ですか?

A. 強引なストレッチは逆効果です。筋緊張をさらに高め、痛みや拒否反応につながることがあります。ポジショニングで緊張を和らげた状態で、優しくマイルドに動かすことが効果的です。


Q. 拘縮以外に注意すべき問題は?

A. 骨粗鬆化、皮膚脆弱化、循環障害、褥瘡、呼吸機能・消化機能の低下などがあります。とくに褥瘡と骨折は患者の苦痛を増やし、生命予後に直結するため注意が必要です。


Q. 維持期のリハビリに意味はあるのでしょうか?

A. 「延命のためのリハビリ」には否定的な意見もあります。ただし、生活の質を整え、家族に穏やかな姿を見てもらうためのケアは大きな意味があります。単なる関節運動ではなく、尊厳を守るリハビリが重要です。


Q. 海外では寝たきり高齢者は少ないのですか?

A. はい。スウェーデンなどでは、延命治療(胃瘻・点滴)を基本的に行わないため、寝たきり高齢者の数が少ないのが特徴です。延命よりも「人間らしい最期」を重視する文化的背景があります。


最終更新:2025-09-08