電気刺激療法の治療効果と方法

電気刺激療法の効果について解説していきます。

電気刺激療法の歴史

Kleisらが1745年に電気蓄電器を開発したのを契機として、電気生理学の研究が始まりました。

その後、Duchenneが1855年に筋の正確な電気検査を行うための運動点を見いだし、骨格筋に対する電気刺激の効果についても報告しています。

1910年にTouseyは変性が顕著でない麻痺筋であれば随意運動の促通に電気刺激が利用できることを報告し、治療的電気刺激療法(TES)の概念が確立しました。

また、1965年にはMelzackらによってゲートコントロール理論が提唱され、経皮的末梢神経電気刺激療法(TENS)の概念が確立に至りました。

米国理学療法士協会(APTA)の定義

日本での理学療法とは、以下のように定義されています。

”身体に障害がある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること”

つまり、理学療法は大きく分けて『運動療法』と『物理療法』に分けられ、電気刺激療法や温熱療法、マッサージなどは物理(的刺激)療法に分類されます。

米国では物理療法をさらに3分野に分類しており、①電気刺激療法的物理療法、②狭義の物理療法、③力学的物理療法となります。

電気刺激療法の種類

  1. 経皮的電気刺激(TENS)
  2. 神経筋電気刺激(NMES)
  3. 筋電図バイオフィードバック治療
  4. 高電圧パルス療法
  5. 創傷治癒のための電気刺激療法
  6. 電気による薬物の経皮的浸透(イオントフォーレーシス)etc.

この記事では①と②を紹介していますが、電気刺激療法は浮腫の改善、創傷治癒、薬剤運搬促進などの効果もあります。

経皮的電気刺激療法(TENS)について

一般的に低周波治療というと、経皮的電気刺激療法(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)のことを指します。

鎮痛ために電気を使用したのは紀元前からであり、有痛性疾患に対してデンキナマズやシビレエイが発する電気刺激(300-400V)を使用していたことが紀元前2500年ごろの石材彫刻に記載されています。

電気刺激が痛みの治療として使えるという理論的根拠をはじめて示したのは、1965年にMelzackとWallによって紹介されたゲートコントロール理論です。

この理論を簡単に理解するには、下図をみるとわかりやすいのですが、太い神経を刺激すると細い神経から送られてくる痛みの信号を抑制できるという理屈です。

ゲートコントロール理論

太い神経とは「Aα」や「Aβ」、「Aγ」であり、細い神経とは「Aδ」や「B」、「C」になります。TENSでは皮膚のAβ(触覚)に刺激を与えて、痛みを緩和しています。

子供が転んだ際に皮膚をさすりながら、「痛いの痛いの飛んでいけ!」とおまじないをかけるのは、触覚を刺激することで痛みの伝達を抑制しているわけです。

分類 直径(μm) 役割
15(13-22) 筋・腱感覚,骨格筋運動
8 (8-13) 皮膚の触圧覚
8 (4-8) 錘内筋
3 (1-4) 皮膚温痛覚(体性痛)
B 3 (1-3) 交感神経節前線維
somatic C 0.5(0.2-1) 交感神経節後線維
dorsal root C 0.5(<1) 皮膚温痛覚(内臓痛)

現在では、家庭用の低周波治療器が普及することになり、自宅でも簡単に使用することができるようになりました。

前述したように、TENSは主に疼痛の緩和に対して用いられる方法であり、その持続効果はあまり長くありませんので、定期的な実施が必要となります。

神経筋電気刺激療法(NMES)について

1961年、Libersonは脳卒中片麻痺患者の足関節背屈を得る目的を前脛骨筋を電気で刺激し、歩容の改善を図ろうとしたことが始まりです。

それ以来、脊髄損傷などの中枢性麻痺、下垂足などの末梢性麻痺、廃用性萎縮、筋力トレーニングの補助としても用いられるようになりました。

経皮的電気刺激(TENS)は筋収縮を出すのではなく鎮痛させることが目的なので、痛みのある部位に貼り付けることが特徴です。

厳密に書くと痛みの発生部位と同じデルマトーム(C5領域に痛みがあるならC5領域の近位に貼る)に貼るほうがより効果的となります。

それに対して神経筋電気刺激(NMES)は筋収縮を出すことが目的なので、収縮させたい筋肉の運動点に貼り付けることが必要となり、治療には一定の知識が必要となります。

TENSとNMESの違いについて解説

通常、低周波は皮膚抵抗により20-30%しか皮下に浸透せず、通過した電気は皮下3-5㎜で大半が拡散し、残りの僅かな電流が深部を通過します。

周波数が高くなるほどに皮膚抵抗が低下していき、低周波(1,000Hz以下)より中周波が、中周波より高周波(10,000Hz以上)が深部まで刺激を与えられます。

また、治療器から流す電流量によっても刺激の程度は変化し、皮膚抵抗が高い状態で電流量を上げると皮膚が痛くなり、場合によっては火傷を起こします。

TENSでは皮膚への触覚刺激を目的としているため、あまり深部まで刺激を与える必要はなく、筋収縮がない範囲の周波数と電流量で実施していきます。

それに対してNMESは深部の筋肉の収縮を促す必要があるため、周波数を高めたり、電流量を上げて深部まで到達する電気刺激を増やす必要があります。

しかし実際は、NMESは50Hz以下に設定される場合が多く(TENSは約150Hz)、理由としては周波数が高いと激しい筋収縮(強縮)を起こすことが挙げられます。

電気を深部に届かせる方法

単純に50Hz以下の周波数で刺激しても電気が深部に届くことはほとんどありませんが、それを実現させたのが「干渉電流刺激」になります。

干渉電流刺激とは、異なる周波数を持った2種類の電流を交差させると干渉が起こり、新しい周波数の電流が発振される原理を利用しています。

具体的に書くと、周波数が「4,000Hzの中周波」と「3,900Hzの中周波」を干渉させることにより、その差分の100Hzで刺激する方法です。

この方法のメリットは、皮膚抵抗が少ない中周波を利用することができるのでピリピリ感が少なく、低い周波数を深部まで届かせることができます。

神経筋電気刺激療法の設定

効果的にNMESを実施するためには、筋肉の状態によって周波数や刺激休止期などの設定を変える必要があります。

正常(非変性)なら前述したように50Hz以上でも構いませんが、変性している場合は20Hz以下に設定することが大切です。

非変性 不完全変性 完全変性
波形 何でもよい 蓄電器放電型または矩形波およびその変調波 同左
電流強度 気持ちよく耐えうる最大量 同左 同左
通電期間 1ms以下 5-10ms 50ms以上
電流方向 刺激導子は陰極 同左 同左
刺激休止期 5-20ms 5-100ms 100-200ms
周波数 50-200Hz 5-10Hz 10-20Hz

筋力トレーニングとの相乗効果

近年では、スポーツ選手の筋力トレーニングの補助として電気刺激療法が用いられるようになりました。

前述したように正常な筋肉の強化には、周波数50Hzの矩形波を使用しますが、この周波数は筋肉が活動する際、運動ニューロンの発射頻度を高める効果があるとされています。

また、2,500Hzでは筋肉の運動終板が刺激され、最大限の等尺性収縮(強縮)が得られるとの報告もあります。

この中周波電流を使用した方法をロシアンカレントと呼び、ロシア人のヤコブ・コッツ氏によって紹介されたことから名付けられました。

脱神経筋(変性筋)に対する効果

筋肉は、それを支配している末梢神経が損傷されると急速に萎縮および変性していき、その反応は損傷後から4週間が最も著しいとされています。

神経が回復するまでの間、この脱神経萎縮をできるだけ抑制するために神経筋電気刺激療法が選択されます。

また、治療対象となる筋肉に意識を集中し、自動運動または自動介助運動を併用することで筋収縮を促通することも有用です。

ただし、脱神経筋の萎縮を遅らせたり、収縮を促通させる効果はあっても、神経の再生そのものを促進させる効果はありません。

脱神経筋に対して電気刺激を加えているつもりでも、実際は周囲の正常な筋肉のみが収縮している場合が多々あります。

それは脱神経筋は収縮しにくい状態にあることが原因として挙げられます。

なので、パッドの位置を微調整し、効果的に収縮が得られるポジション(運動点)を見つけることが重要となります。

筋収縮が出現しないからといって電流を強くしたり、刺激時間を長くすると患者の苦痛が増してしまうので注意してください。

運動点について

筋内には神経が豊富に分布し、電流刺激による筋収縮が他の部位と比較してよく誘発される部位があり、それを運動点(motor point)といいます。

運動点は治療対象となる筋肉の収縮を効果的に促すための刺激点として用いられており、以下のような分布を示しています。

①前面からみた運動点

前面からみた運動点/胸鎖乳突筋、大胸筋、上腕二頭筋、外腹斜筋、腹直筋、長橈側手根屈筋、円回内筋、浅指屈筋、母指球筋、小指球筋、外側広筋、大腿直筋、内側広筋、前脛骨筋、長指伸筋

②側面からみた運動点

側面からみた運動点/三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根枝筋、外側広筋、前脛骨筋、ヒラメ筋

③後面からみた運動点

後面からみた運動点/僧帽筋、三角筋、上腕三頭筋、広背筋、尺側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋、腓腹筋、ヒラメ筋

電気刺激療法の禁忌

臨床で最も注意すべき禁忌は「ペースメーカー」を装着している場合です。

電気刺激によって心拍を変えるおそれがあるので、使用前には必ず確認が必要となります。

また、重篤な不整脈や心疾患なども心臓からの電気刺激を妨げるリスクがあるために禁忌です。

その他として、静脈内に血栓がある場合は筋収縮により心臓の血管に血栓がとんで、心筋梗塞を起こす場合があるため使用すべきではありません。

電流を流すパッドを皮膚上に貼付する必要があるため、健康な皮膚以外には使用を避けるようにしてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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