糖尿病のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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糖尿病の概要
糖尿病(diabetes mellitus:DM)は、インスリンの欠乏もしくは作用不全により、血糖値が病的に高い状態を指します。
厚生労働省の調査では、2013年時点で糖尿病有病者の割合は、男性16.2%、女性9.2%であり、50歳以降で割合が増えることが報告されています。
同調査では、HbA1c値が6.5%以上または糖尿病の治療を受けている人と定義しているので、潜在的には40歳以上の3人に1人が予備軍と考えられています。
HbA1cはグリコヘモグロビンのことで、赤血球の蛋白であるヘモグロビン(Hb)とブドウ糖が結合したものを言います。
結合する理由として、血管内の余分なブドウ糖は体内の蛋白と結合する性質があるため、HbA1cを測定することで血糖状態を確認することができます。
Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病
糖尿病はその原因から、Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病に分類されます。
Ⅰ型糖尿病では、自己免疫や遺伝因子の関与により、先天的にインスリン量が絶対的に不足している状態をいいます。
Ⅱ型糖尿病では、過剰な糖の摂取によりインスリンの働きが悪くなっている状態を指し、日本ではDMの95%以上がⅡ型に該当します。
そのため、従来はI型糖尿病は先天性(遺伝子異常)で、Ⅱ型糖尿病は後天性(生活習慣病)といわれてきました。
しかし現在では、Ⅱ型糖尿病も遺伝の影響が大きいとされており、一卵性双生児では100%にちかい発症一致率が報告されています。
なぜⅡ型糖尿病がこれほどまでに多いのかというと、そもそも日本人はインスリンの分泌能力が欧米人に比べて低いことに原因があります。
また、食事の欧米化に伴って糖質の摂取が急増し、さらに運動不足が重なって、社会問題となるまでに増加したのだと推察されます。
Ⅰ型とⅡ型の特徴比較
項目 | Ⅰ型 | Ⅱ型 |
発症年齢 | 小児,若者に多い | 中年以降に多い |
発病様式 | 急性,亜急性 | 緩徐,しばしば無症状 |
体型 | やせ型が多い | 発症前に多くは肥満 |
ケトアシドーシス | 起こりやすい | まれ |
血糖値の安定性 | しばしば不安定 | ふつうは安定 |
家族歴 | あり | 濃厚 |
ICA,GAD抗体 | しばしば陽性 | ふつう陰性 |
HLAの型との関係 | あり | なし |
自己免疫疾患合併 | しばしば | なし |
血中,尿中C-ペプチド | きわめて低い | 正常,低下または増加 |
インスリン治療 | 生存に不可欠 | 時に必要 |
Ⅱ型糖尿病は現代人の宿命か
ヒトが誕生した頃というのは、人類は飢餓との闘いといってもよい状況であり、現在のように食べ物がすぐに摂取できるような時代ではありませんでした。
そのため、糖質(カロリー)を多く含んでいる食べ物はとても貴重であり、それをいかにして体内で長く蓄えられるかを考えながら、人体は構成されてきました。
その証拠に血糖値を下げるホルモンはインスリンだけですが、血糖値を上げるホルモンはグルカゴン、成長ホルモン、ステロイドホルモン、カテコラミン、甲状腺ホルモンなどいくつも存在しています。
それが今では簡単に糖質を摂取できるようになり、インスリンのみでは対応することができなくなり、このような重篤な問題を起こすようになりました。
血糖値というのは、血液中のブドウ糖の量であり、インスリンが働くことでブドウ糖を貯蓄するように指示し、筋肉や肝臓、中性脂肪としてストックされます。
糖尿病になると痩せてしまうのは、体内に貯蓄することができずに尿として排泄され、足りないエネルギーは脂肪や筋肉を分解して作り出してしまうからです。
糖尿病の特徴
- 遺伝因子と環境因子により発症する
- インスリンの作用不足に基づく持続性高血糖と糖認容力低下を示す
- 症状憎悪によりケトアシドーシスや非ケトン性昏睡をきたす
- 三大合併症として網膜症、腎症、神経症をきたす
臨床症状
血液中の糖は腎臓の糸球体で一旦濾過され、その後に細尿管で再吸収されます。しかし、血糖が腎臓の糖排泄閾値を超えると再吸収されなくなります。
糖排泄閾値は通常180 mg/dほどであり、尿糖が出現していないようなら血糖値はそれより低いと判断することが可能です。
ただし、ヒトによっては閾値が低い場合もありますので、その際は糖尿病ではなく、腎性尿糖と呼ばれます。
過剰な糖を排泄するために多尿となるため、脱水をきたしやすく、それを防ぐために口渇や多飲といった症状が現れます。
糖が体内から排出されてしまうとエネルギー源がなくなるので、代わりに脂肪や筋肉を分解してエネルギーに変換してしまい、体重減少が起こるようになります。
また、エネルギーが不足することによって体力が減少し、疲労を感じやすい状態になっていきます。
Ⅰ型糖尿病の場合は、脂肪分解亢進により血中遊離脂肪酸が増加し、肝臓におけるケトン体生成が高まり、ケトアシドーシスをきたします。
その結果、急な口渇や多尿、嘔吐、腹痛、意識障害などが出現します。
合併症の手がかり
障害 | 初期症状 | 末期症状 |
網膜症 | 視力障害,眼精疲労 | 失明 |
腎症 | 浮腫,貧血症状,怠惰感, | 腎不全 |
神経症 | しびれ,疼痛,便秘 | 感覚鈍麻 |
足病変 | 水疱,潰瘍 | 壊疽,切断 |
糖尿病の治療目標
糖尿病は現在でも、その病因や発症機序について完全には解明されていません。
したがって完治することはなく、生体内におけるインスリン作用不足によって起こる糖尿病性代謝異常を可能な限り正常に近づけることが治療目標になります。
そのためには適切な糖尿病コントロールが不可欠であり、不快な自覚症状を解消し、慢性合併症の発現や進展を予防していく必要があります。
糖尿病の治療は大きく分けて、①食事療法、②運動療法、③薬物療法の三つから構成されます。
食事療法
糖尿病の食事制限はめまぐるしく変化しており、近年ではカロリー無制限の糖質制限食が最も糖尿病患者の血糖管理をよくするとの報告も出ています。
また、血液中の脂質が高値を示している患者では、脂質を制限するとかえって備蓄しようと身体が反応するため、値が改善しにくいことが報告されています。
そのため、食事の脂質比率が高いほど、逆に血中の中性脂肪が下がりやすくなることがわかっています。
血糖値を上げるのは糖質だけであり、タンパク質や脂質、食物繊維はむしろ血糖値を抑制する方向に働きます。
このことから、ご飯やパンなどの糖質が多い食べ物を摂取する際は、ほかの食べ物を同時に摂取することが望まれます。
運動療法
Ⅰ型糖尿病の場合は、血糖コントロールが問題ない状態であれば、特に運動制限を設ける必要はなく、インスリン療法や捕食の調整によって運動は可能です。
運動療法の血糖コントロールに対する長期的な効果についてはまだ不明ですが、心血管系疾患のリスク因子を低下させ、生活の質を改善させることがわかっています。
合併症を伴う患者への運動について、しばしば議論に挙がりますが、進行した合併症のある患者に対しても、日常生活における身体活動量を可能な限り低下させないことが推奨されています。
Ⅱ型糖尿病の場合は、糖尿病治療において運動療法は非常に効果的な手段であると考えられています。
調査によると、有酸素運動とレジスタンス運動は共に血糖コントロールに有効であることが報告されています。
また、運動により心肺機能の改善、脂質代謝の改善、血圧低下、インスリン感受性の増加が認められています。
運動の頻度は、できれば毎日、少なくとも週に3-5回、中等度負荷の有酸素運動を20-60分間ほど行うことが推奨されています。