膝蓋骨骨折のリハビリ治療

膝蓋骨骨折のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。

膝蓋骨骨折の概要

膝蓋骨骨折の多くは、交通事故や転倒した際に地面に強く膝のお皿をぶつけることで受傷します。

膝蓋骨骨折の9割以上は粉砕骨折または横骨折が占めています。

膝蓋骨には大腿四頭筋の強力な膝蓋腱が付着しているため、収縮によって骨折部が離開してしまう可能性が高い場所です。

そのため、ほとんどの場合は手術によって固定する方法が選択されます。

受傷原因の頻度

順位 原因 割合
1 交通事故 40%
2 転倒 30%
3 転落 10%
4 スポーツ 10%

画像検査

診断は単純X線写真で可能ですが、正面や側面からでは骨折線がほとんど確認できません。

なので、下記のように軸写撮影をすることで骨折部を確認していきます。

正面 側面 軸写
膝蓋骨々折,レントゲン,単純X線写真 膝蓋骨骨折,レントゲン,単純X線写真,側面 膝蓋骨々折,レントゲン,軸写

引用元:古東整形外科・内科

治療方法の選択

膝蓋骨骨折の治療は、保存療法と手術療法に分けられます。

保存療法では、大腿から下腿にかけてのギプスやニーブレイスを使用し、一カ月は膝関節伸展位に固定します。

伸展位に保持する理由は、大腿四頭筋の張力によって骨折部が離開しないようにするためです。

手術療法では、転位がある骨片を細い針金を用いて連結させていき、ピンにて固定します。

膝蓋骨は離開しやすい部位ですので、手術によって強固に結びつけることにより、術後早期より歩行が可能となります。

そのため、外科的治療を実施した場合はリハビリ期間は短くなり、早期の復帰が可能となります。

膝蓋骨骨折|手術|ワイヤー固定

手術の合併症として、術後に鋼線が脱転することがあり、軟部組織に干渉して炎症や疼痛を引き起こすことがあります。

痛みが強い場合や固定力を失っていると判断された場合は、再手術に至るケースもあります。

膝蓋骨の転位が残存していると膝蓋大腿関節に加わる圧が変化し、変性を引き起こしてしまうため、膝蓋大腿関節痛の原因となります。

膝蓋骨骨折の予後(n=27,18カ月後)

以下の表は、膝蓋骨骨折後の患者を6カ月以上経過観察できた27症例(保存12例,手術15例)について検討を行 った結果です。

  • 整形外科と災害外科Vol.38より引用
  保存例 手術例
ROM 正常 11 6
制限20°未満 1 9
制限20°以上 0 0
疼痛 なし 8 13
軽度 4 2
著明 0 0
跛行 なし 11 12
軽度 1 3
著明 0 0
正坐位 可能 11 6
不可 1 9

治療成績は保存例が良好で、手術例では半数以上に可動域制限が残る結果となっています。

その理由として、保存例の方が転移などが少なく、軽度な症例が多かったことが理由として挙げられます。

受傷後は膝蓋靭帯が短縮する

受傷後の後遺症として、「膝蓋靭帯の短縮」が起こります。

しかし、膝蓋骨長径と膝蓋靱帯長の和は患側と健側で差がない場合も多く、膝蓋靱帯の短縮分だけ膝蓋骨長径が延びて代償しています。

この発生機序には、膝蓋支帯の肥厚や瘢痕化などが影響していると考えられています。

リハビリテーション

膝蓋骨骨折のリハビリは、保存療法と手術療法で大きく流れが異なります。

以下に、一般的な治療の流れを記載しますが、具体的な時期などについては担当医に確認しながら進めていきます。

  保存療法 手術後
受傷-4週目
関節 ROMexは非実施 屈曲0-45度
筋力 周囲筋トレーニングのみ ハムストリングス強化
荷重 荷重exは非実施 伸展位ロックで全荷重可
その他 足関節の底背屈ex、寒冷療法、EMS 膝蓋骨モビライゼーション、寒冷療法、EMS
4-6週目
関節 屈曲0-60度の範囲で開始 屈曲0-60度
筋力 大腿四頭筋強化(SLR推奨) 大腿四頭筋強化(SLR推奨)
荷重 伸展位ロックで荷重可 伸展位ロックで歩行可
6-8週目
関節 屈曲0-90度 屈曲0-90度
筋力 範囲内での低負荷な運動可 範囲内でのOKC及びCKCexが可
荷重 装具着用での全荷重歩行練習が可 膝関節0-30度の範囲で全荷重可
8-12週目
関節 屈曲Full 屈曲Full
筋力 全可動域内での筋力強化が可 全可動域内での筋力強化が可
荷重 膝関節0-90度の範囲で全荷重可 膝関節0-90度の範囲で全荷重可

大腿四頭筋の筋力強化の開始時期

担当医の判断による部分が大きいですが、術後で固定している状態であるなら大腿四頭筋のセッティングは早期より可能です。

SLR運動は負荷がやや高いので、術後4週以降より開始される場合が多いです。

スクワットのような高負荷トレーニングは徐々に屈曲範囲を拡げていくようにし、疼痛のない範囲で実施していきます。

スポーツ復帰について

スポーツ復帰の時期については、関節可動域制限がなくなり、筋力が健側の80%以上に達した時点が復帰可能なレベルと考えられます。

復帰前に、そのスポーツにおける特異的動作などを練習し、問題がないかの確認を行うとようにします。

治療成績が不良となるケース

治療成績不良例は合併損傷を伴うものが多く、治療後の関節面の段差が顕著である場合が多いです。

レントゲンを確認した場合に、関節面が綺麗に整復できている症例に関しては、関節可動域制限をきたすことなく治癒していきます。

これには粉砕の程度や手術の出来などが大きく関与しているため、リハビリの方法が悪くて制限が残ったとは考えにくいです。

なので、治療を行っていく場合は拘縮に対してナーバスになりすぎず、できる範囲で取り組むことも大切です。


他の記事も読んでみる

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme