閉塞性動脈硬化症のリハビリ治療

閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis obliterans:ASO)のリハビリ治療について解説していきます。

閉塞性動脈硬化症の概要

血管の閉塞性疾患は、急性閉塞性疾患と慢性閉塞性疾患に大別することができ、閉塞性動脈硬化症(ASO)は後者に属しています。

慢性閉塞性疾患の原因には、ASO以外にも閉塞性血栓血管炎(バージャー病)、膝窩動脈捕捉症候群、動脈瘤の血栓性閉塞などがあります。

1970年頃まではバージャー病が全体の60%以上を占めていましたが、そこから急激に減少していき、現在ではASOが90%程度を占めるようになっています。

日本では70歳以上の約2-10%に発生し、50歳以上の男性に好発します。喫煙や高血圧、糖尿病、脂質異常症などのリスクファクターを有している場合が多いです。

動脈硬化が起きやすい血管として、腹部大動脈や四肢への主幹動脈(腸骨動脈、大腿動脈など)が挙げられます。

糖尿病患者や透析患者では通常よりも下腿病変を合併しやすい傾向にあり、それが下肢切断に至る一因となっています。

Fontaineの重症度分類

慢性閉塞性疾患の分類には、Fontaineの重症度分類が用いられます。はじめは冷感やしびれ感から発症し、徐々に動きを制限していきます。

重症度 状態 
Ⅰ度 無症状もしくは冷感やしびれ感
Ⅱ度 間歇性跛行
Ⅲ度 安静時の疼痛
Ⅳ度 潰瘍や壊死

脊柱管狭窄症との鑑別

ASOでは間欠性跛行(Ⅱ度)が出現してから受診するケースが多いですが、その場合は脊柱管狭窄症との鑑別が重要となります。

脊柱管狭窄症は神経圧迫性であり、患者は腰を曲げることで神経の圧迫が解除されるため、押し車などを利用すると歩行距離が大幅に伸びます。

また、エアロバイクなどでペダルをこぐ動作に関しても苦がなく実施できます。これらの症状が認められる場合は狭窄症の可能性が非常に高いです。

確定診断には血圧脈波検査装置を用いたABIが有効で、閉塞性動脈病変に対する感度(95%以上)と特異度(100%)が非常に高いことが報告されています。

動脈の触知も有効で、足背動脈や後脛骨動脈の拍動の強弱や有無をみて、問題があるようなら血管性(ASO)であることが推察できます。

足背動脈は健常者でも10%で欠損するため、後脛骨動脈の触知のほうが臨床的には重要な所見となります。

Buerger病との鑑別

バージャー病の原因については不明ですが、50歳以下で喫煙習慣のある男性に好発することが報告されています。

病態は慢性閉塞性の全層性血管炎であり、四肢の小動脈および小静脈、皮下静脈にも血栓性閉塞を生じます。

ASOとの鑑別として、より末梢の動脈閉塞をきたすことが多く、指趾末端の潰瘍の発生率が高い、上肢の症状、足底の跛行、遊走性静脈炎等が特徴です。

急性閉塞した場合

急性に動脈閉塞をきたす理由として、大きい血管で生じた血栓等が剥がれて飛んでいき、末梢の細い血管を詰まらせることが主な原因となります。

下肢の動脈が急激に閉塞した場合は、以下の6つの症状が発生します。それらの頭文字をとって「6P」とも呼ばれています。

  1. 疼痛(pain)
  2. 脈拍消失(pulselessness)
  3. 蒼白(paleness)
  4. 知覚鈍麻(paresthesia)
  5. 運動麻痺(paralysis)
  6. 虚脱(prostration)

急性動脈閉塞は症状も急激であり、四肢の場合は壊死して切断に至る場合も多いです。

虚血の可逆性をみていくためにも、動脈拍動の有無、知覚や疼痛の程度、筋力の低下などは確認しておく必要があります。

血管について理解する

動脈は心臓から身体の末梢部に送り出される血管で、静脈は身体の末梢部から心臓に戻ってくる血管になります。

動脈は心臓から勢いよく送り出される血液に対応するため、厚く弾力性に富んだ構造を持っており、中でも大動脈と呼ばれる血管はとても丈夫です。

左心室を出た大動脈は一度上行し、そこから大きくカーブを描いて大動脈弓を作り、下行して骨盤上方にて左右の総腸骨動脈に分岐します。

動脈が硬化すると弾性に乏しくなってしまいますので、血管が破れたり、血流が悪くなるといった問題が起こります。

動脈が末梢部までいき、酸素や栄養を供給したあとは静脈に移りますが、静脈の血流はすでに勢いを失っており、血圧は低い状態となっています。

血液を心臓まで戻すためには、胸郭や右心房の拡張に伴う吸い上げ効果、下肢筋の収縮に伴うポンプ作用を利用することになります。

そのため、心臓が弱くなっていたり、下肢の筋肉が萎縮していると心臓まで戻ることができずに足先で浮腫を起こしてしまいます。

閉塞性動脈硬化症の手術療法

観血的手術は大きく分けて、肢切断を行う場合と血行再建術(バイパス手術や血管内手術)を行う場合のふたつがあります。

欧米では肢切断を第一選択としていますが、やはり切断を簡単に受け入れるのは難しく、日本では最初に血行再建術を検討する場合が多いです。

バイパス手術では、閉塞している血管の前後を自身の血管(大伏在静脈)や人工血管をつなぐことにより、新しい血液の道を作ります。

血管内手術はカテーテル治療とも呼ばれ、低侵襲手術の代表であり、局所麻酔をかけて切らずに手術することができます。

方法として、閉塞している血管までガイドワイヤーを通過させ、辿り着いたらバルーンを拡張させて血管を開き、その状態が維持できるようにステントを留置します。

血行再建術の適応は、QOLの改善や健康寿命の延長効果等の側面から考える必要があり、現段階では絶対的適応があるわけではありません。

運動療法の効果

末梢閉塞性動脈疾患のガイドラインを参考にすると、ASOの間歇性跛行に対するリハビリ治療として、監視下運動療法がエビデンスレベルAとしています。

とくにトレッドミルやトラック歩行が有効で、負荷量は跛行に伴う疼痛が中等度になれば安静にし、痛みがとれたら歩くといった動作を繰り返します。

トレッドミルでは跛行症状が5分以内に生じる速度と傾斜に設定し、跛行が発生してからも運動を持続し、中等度の痛みになるまでは継続します。

理由として、跛行出現時はまだ最適な負荷が得られておらず、十分な運動効果を発揮できないことがわかっているからです。

過度の疲労や下肢痛に注意しながら、中等度の跛行痛を生じることなく10分以上の歩行が可能となったら、トレッドミルの傾斜や速度を増加していきます。

頻度は週3回、1回の運動時間が30-50分ほどに設定します。初回は35分ほどにし、徐々に5分ずつ増やして延長していきます。

積極的歩行で改善するメカニズムとして、内皮機能及び骨格筋での代謝順応性の改善、バイパス路の形成などが関与しています。


他の記事も読んでみる

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme