アキレス腱をストレッチしても足関節背屈制限が改善しない理由

要点サマリ

  • 「腱が短くなる」わけではない:不動後は腱そのものではなく、筋腱移行部で“直列の筋節数”が減少して実長が短くなる=機能的短縮が主因。

  • ケーラー脂肪体(=Kager脂肪体)がカギ:アキレス腱深部の脂肪体が滑走性の潤滑材/緩衝材。瘢痕化すると背屈制限と深部痛を助長。

  • 順序が大切:脂肪体の滑走回復 → 関節モビリティ → 最後にアキレス腱ストレッチ。順番を誤ると炎症・硬化の悪循環に。

ケーラー脂肪体


なぜ「短縮した」と感じるのか

  • 術後やギプス固定などの不動で、筋腱移行部の筋節(サルコメア)数が減少。結果として筋が**短い位置で“最適化”**され、背屈で突っ張る。

  • 腱自体はコラーゲン優位で長さ変化しにくい一方、剛性↑が起こることはある。臨床で感じる“短さ”の多くは筋側+滑走不全の合併。

ケーラー脂肪体の役割と悪循環

  • 位置:アキレス腱と長母趾屈筋腱の間隙を満たす脂肪体

  • 役割:①腱の滑走性向上 ②付着部への圧縮力緩和滑液包圧の調整

  • 不動/炎症 → 瘢痕化・線維化 → 摩擦↑ → 深部痛(自由神経終末) → さらに不動…というループに陥る。


施術の流れ(推奨プロトコル)

前提:熱感・発赤・著明な腫脹・断裂疑いがある場合はまず安静・医師評価

  1. 前処置(推奨)

    • 深部温熱(マイクロ波/超音波)で粘弾性を一時的に低下させ、徒手の効率を上げる。

  2. ケーラー脂肪体の滑走リリース(最優先)

    • 姿位:腹臥位、膝軽度屈曲、足関節軽度底屈で把持。

    • 操作:アキレス腱深部を母指と示指でつまみ横方向の微小シアを与える。

    • 上下の高さを少しずつ変えながら反復し、**“ざらつき”→“滑り”**へ質感変化を確認。痛みは中等度まで。

  3. 距腿関節・距骨下関節のモビライゼーション

    • 前後滑り・回内外の小振幅で関節包の抵抗を低減。

    • 腓腹筋/ヒラメ筋のトニックなガードが強ければ軽い等尺→遠心性で抑制。

  4. アキレス腱ストレッチ(脂肪体が緩んだ後に)

    • 壁立位カーフストレッチ:

      • 膝伸展位=腓腹筋、膝屈曲位=ヒラメ筋をそれぞれ狙う。

      • 痛み<ストレッチ感を守り、30–60秒×3–5回

    • セラピスト介助なら関節面を意識し、背屈の**代償(回内/外)**を抑える。

  5. 機能回復(再発予防)

    • 遠心性カーフレイズ(段差でゆっくり下ろす):10–15回×2–3セット/日、痛みが落ち着いてから。

    • 歩容練習:小股・踵接地を意識し、背屈終末域での“ズキッ”を避ける

    • 総負荷は10–20%ずつ漸増。活動後に反動痛が48h以上残る場合は戻す


注意点(レッドフラッグ/やり過ぎ防止)

  • 強い熱感・発赤・拍動痛:感染/急性炎症の疑い → 徒手強刺激は中止

  • 突然の“バチッ”・歩行不能:腱断裂疑い → 直ちに医師へ。

  • 初期は**“腫れるほどのストレッチ/歩行”は逆効果**。滑走→可動→伸張の順を徹底。


在宅セルフケア(患者指導用)

  • 温浴5–10分→軽い自己リリース→ストレッチの順。

  • フォームローラー/ボールで下腿後面をやさしくローリング(痛み5/10以下)。

  • アイシングは活動後に熱感があるときのみ10–15分。


よくあるQ&A

Q1. どのくらいで背屈が戻る?
A. 滑走が改善すれば即時に感触が軽くなる例も。可動域の定着は数日〜数週の反復が目安です。

Q2. まずストレッチから始めてはダメ?
A. **脂肪体が硬いままの伸張は摩擦↑**で悪化しやすい。先に滑走を出してからが安全・効率的です。

Q3. 痛みが出たら続けて良い?
A. 鋭い痛み/翌日まで残る痛みはやり過ぎサイン。強度と量を1段階下げて再開します。

Q4. どの筋を重点的に伸ばす?
A. 膝伸展位で腓腹筋、膝屈曲位でヒラメ筋。両者を分けると背屈エンドフィールが改善しやすいです。

Q5. 超音波は必須?
A. なくても実施可能ですが、深部温熱は滑走改善の立ち上がりを助けるため併用推奨です。


最終更新:2025-10-07