脊柱側弯症の術後リハビリテーション

要点3行

  • 脊柱側弯症は冠状面の弯曲+矢状面の変化+椎体回旋の“3D変形”。評価はCobb角と**骨成熟度(例:リッサーサイン)**が軸。

  • 治療は経過観察/装具/手術(矯正固定術)を年齢・Cobb角・進行性で選択。装具は進行抑制に有効性が示される。

  • 手術後リハは呼吸離床体幹機能の再獲得を段階的に。激しい運動は原則1年回避、軽運動は目安術後6か月頃から。


1) 脊柱側弯症の基礎知識

脊柱側弯症

  • 定義:正面(冠状面)で脊柱が側方へ弯曲。多くは**特発性(原因不明)**で、学童期〜思春期に発見されやすい。

  • 三つのカーブ:上位胸椎カーブ・主胸椎カーブ・腰椎カーブ。

  • 三次元変形

    • 冠状面:側方弯曲

    • 矢状面:胸椎後弯/腰椎前弯の乱れ

    • 回旋:胸郭のリブハンプ(前屈で顕著)として現れる

回旋:胸郭のリブハンプ

評価のキホン

  • Cobb角:終椎(上端・下端椎)の終板に引いた接線の交角。

  • 骨成熟度リッサーサイン(腸骨稜骨端核の出現度合い)、初潮の時期などで成長残存を推定。

  • 学校検診:視診・前屈テスト(リブハンプ)・モアレ法→疑い例はX線で確定診断。

Cobb角


2) 治療方針の選び方(目安)

状況 代表的な方針
Cobb角 ≤20° かつ進行性なし 経過観察(定期フォロー)
20–30°(〜45°) で進行傾向、成長残存あり 装具療法(進行抑制のエビデンスあり)
45–50°超、著明な後弯/体幹バランス不良、成長後も進行懸念 矯正固定術を検討

メモ:体操プログラム/脊椎マニピュレーション/筋電気刺激は、進行抑制の有効性が一貫して支持されていません。姿勢指導や体力維持は補助として。


3) 矯正固定術の概要

脊柱側弯症の「矯正固定術」

目的:金属インプラント(スクリュー・フック・ロッド等)で変形を三次元的に矯正して固定し、骨癒合を得る。
ゴール:成長後もバランス良く安定し、進行防止・疼痛の最小化・肺機能の保持

アプローチと固定範囲

  • 後方法(標準):正中切開→椎弓根スクリュー等で強固に把持し、ロッドで回旋を含め立体矯正

  • 前方法:胸腰椎・腰椎の一部シングルカーブ等に選択。前方解離+プレート/スクリュー+ロッド。

  • 固定下端(LIV):将来の腰椎変性を抑えるため、可能ならL3以上を目標に計画(症例により異なる)。

主な合併症と対策

  • 神経障害(脊髄・神経根):術中は脊髄モニタリングで兆候を監視。

  • 感染/DVT/呼吸合併症(無気肺・胸水):予防的呼吸理学療法、早期離床、周術期管理。

  • インプラント関連:折損・ゆるみ等→長期フォローで監視。


4) 周術期の理学療法(PT)フロー

術前(プレハブ)

  • 肺機能評価(側弯が強いと胸郭コンプライアンス低下や肺活量低下があり得る)。

  • 呼吸練習:横隔膜呼吸/胸式呼吸(上部・下部)/口すぼめ呼吸、排痰の自己管理リハを事前に練習

  • 体幹ストレッチ姿勢教育(過度な痛み誘発は避ける)。

術直後〜ベッド上

  • 痛みコントロール+呼吸ケア最優先。無気肺・低換気の予防に深呼吸・インセンティブスパイロメータ

  • **体位変換/ログロール(軸回旋回避)**の練習。

  • 装具:前方法では硬性コルセットを要することあり。後方法は原則不要のことが多い。

離床・移動期

  • 全身状態が整い次第、端座位→立位→歩行へ段階的に。

  • ADL(更衣・トイレ・洗面)の自立を目指す。過度の前屈・捻りは回避。

退院後〜外来期

  • 通学・日常復帰:多くは早期に可。

  • 運動

    • 〜6か月:ウォーキング等の軽運動を徐々に再開。

    • 〜1年:柔軟体操・器械体操・接触競技など高負荷は回避

  • ホームプログラム(例)

    • 1日数回の横隔膜呼吸(各5分)

    • 肩甲帯・股関節の可動エクサ(痛みなし範囲)

    • 等尺性体幹収縮姿勢保持練習(軸を意識)

低年齢例は発育に伴う変形の新生や呼吸・神経合併の可能性があるため、長期フォロー必須


5) 観察ポイント(臨床・学校検診での目安)

  • 肩の高さ差、ウエストラインの左右差、肩甲骨突出

  • 前屈でのリブハンプ(胸郭の隆起)

  • 体幹の軸ずれ(頭部-骨盤の縦軸)


6) よくある質問(Q&A)

Q1. 手術の絶対的な基準は?
A. 一般にCobb角45–50°超や、成長残存+進行性、著しい体幹バランス不良/後弯が検討材料です。最終判断は専門医の総合評価で行います。

Q2. 装具はどれくらい効果がありますか?
A. 成長期の進行抑制に有効性が示されています。適切な装着時間とフィットが結果を左右します。

Q3. 手術後、いつから運動できますか?
A. 個人差はありますが、軽い有酸素(歩行・軽いラン)を術後約6か月から、高負荷の体幹ひねり・柔軟体操は原則1年回避が目安です。

Q4. 呼吸リハは何をしますか?
A. 横隔膜呼吸・胸式呼吸・口すぼめ呼吸・排痰手技を段階的に。術前から練習しておくと術後がスムーズです。

Q5. 固定すると腰の動きは悪くなりますか?
A. 固定範囲が広いほど可動性は制限されます。将来の負担を抑えるため、固定下端を可能ならL3以上に設定するなど、可動域温存とのバランスを図ります。

Q6. 手術のリスクは?
A. 神経障害、感染、DVT、呼吸合併症、インプラントトラブルなど。多職種で予防策とモニタリングを行います。

Q7. 体操や整体で治りますか?
A. 姿勢・体力維持は大切ですが、進行抑制の根拠は装具>体操・操作です。進行性かどうかを見極め、適切な時期に装具・手術を検討します。


用語ミニメモ

  • Cobb角:側弯の角度評価の基本指標。

  • リッサーサイン:腸骨稜骨端核の成熟度評価。成長残存の目安。

  • リブハンプ:胸郭の隆起。前屈で目立つ。回旋変形の鏡。