温熱療法の治療効果と方法

温熱療法の効果について解説していきます。

温熱療法の歴史

温熱療法の原型とされている燃灼法は、いまから2000年以上前である紀元前のエジプトより実施されていました。

その方法は、動物の膀胱の袋に温水を入れ、坐骨神経痛や直腸の部分的炎症に使用されていました。

日本では古来より温泉を治療の一つの手段として利用してきており、現在でも各地に湯治場が存在し、我々の生活と密接な関わりを持っています。

温熱刺激による生体の生理学的影響

種類 内容
循環系 血流量の増加(血管拡張・血液の粘性低下)、酸素供給の増加
代謝系 代謝率(エネルギー消費)の上昇
神経系 交感神経の抑制、副交感神経の活性化、感覚神経伝導速度の増加、γ遠心性線維の活性低下
疼痛 疼痛閾値の上昇、筋スパズムの軽減

温熱効果①:疼痛の軽減

疼痛が軽減するメカニズムとしては、血流量の増加(発痛物質の除去)、筋スパズムの軽減、疼痛閾値の上昇、副交感神経の活性化が関与します。

筋温を42℃まで上昇させるとⅡ型筋紡錘遠心性線維とγ遠心性線維の発火率が下がり、ゴルジ腱受容器から出るⅠb型線維の発火率が上昇します。

こうした変化はα運動ニューロンの発火率を低下させ、結果として筋スパズムを軽減させる方向に寄与します。

ホットパックなどの表在性温熱刺激では筋温の上昇はあまり認められないため、Ⅰb型線維やⅡ型線維への影響は少ないと考えられます。

温熱効果②:神経筋活動の低下

筋力に対する温熱刺激の効果として、40〜43℃の渦流浴後では、大腿四頭筋の筋出力と筋持久力が低下したとの報告があります。

そのメカニズムについては前述した神経への影響と同様で、α運動ニューロンの活動低下に起因しています。

温熱効果③:組織の粘弾性の変化

外傷後の結合組織は炎症によって短縮をきたしやすく、結果として関節可動域を制限する要因になります。

短縮した結合組織に対して温熱刺激を実施し、組織の温度を上げるとその組織の伸展性が高まります。

伸展性が最大に高まるのは組織温度が40〜45℃に到達したときで、その状態で伸張刺激を加えることにより最大の効果を発揮できます。

浅層組織はホットパックで対応できますが、深層の筋肉や関節包には超音波などの深達性が高い温熱療法を選択します。

表在熱 深部熱
赤外線 極超短波
ホットパック 超短波
パラフィン浴 超音波
渦流浴

温熱療法の臨床的意思決定

臨床にて温熱療法を選択する場合は、①疼痛の緩和、②拘縮を改善するための事前アプローチがほとんどです。

とくに拘縮の改善については、原因部位がどこに存在するかで表在性温熱刺激を適応するか、深在性温熱刺激を適応するかが分かれます。

治療部位が表在で広範囲にわたる場合はホットパック、指先や足先などの末梢部で凹凸がある場合はパラフィン浴が効果的です。

治療部位が深部で広範囲にわたる場合は極超短波(マイクロ波)、限局している場合は超音波が効果的となります。

温熱療法の種類

①ホットパック

厚い木綿の布で覆われたシリカゲルパックを約80℃に設定された加温装置内で加熱し、それをタオルなどで覆って患部に20分ほど当てて使用します。

約10分の実施で皮膚温は10℃上昇、皮下1㎝で3℃上昇、それより深部への効果はほとんどありません。

適応は広範囲の浅部組織であり、頚部や腰背部に多用されます。

②パラフィン浴

自動調温式容器の中で50〜55℃に温められているパラフィンに、治療部位を6〜10回ほど繰り返して浸していきます。

その後に手をビニール袋などでくるんでから、さらに上からタオルで包み、治療部位を高く上げた状態で15分ほど温めます。

パラフィン浴が高温にもかかわらず熱さを感じにくいのは、水に比べて熱伝導速度が極めて小さく、皮膚の忍耐温度が高くなっているためです。

適応は四肢末梢部の浅部組織であり、輪郭が複雑な領域にうまく接触を保てるという長所があります。

とくに関節リウマチや外科系障害の手指に用いられます。

③極超短波療法(マイクロ波)

極超短波療法は、周波数2.45GHz、波長約12.5㎝の電磁波を利用した深部加熱を目的とした温熱療法です。

その仕組みは電子レンジとほぼ同じです。

極超短波のエネルギーの50%は皮膚で反射され、皮膚を通過した電磁波は組織の分子を振動させ、摩擦熱を起こして温めます。

ホットパックの深達性が約1㎝に対して、極超短波は約3〜4㎝であり、より深部まで温めることができる方法です。

適応は広範囲の深部組織であり、とくに肩関節や膝関節、腰部に多用されます。

④超音波療法(温熱効果)

超音波とは、人間の可聴範囲の限界である16kHz以上の周波数を持つ音波のことを指します。

超音波の吸収は伝播された組織の蛋白質の含有量に比例するため、膠原組織を多く含む骨や関節包などでよく吸収し、温度上昇が起こりやすくなります。

とくに関節包は関節拘縮を引き起こしている最大の原因部位であるため、拘縮部位に照射してから伸張操作を加えると効果的です。

⑤水治療法(温熱療法)

水治療法は運動療法と物理療法を組み合わせることにより、全身の組織温度を高め、効果的に障害部位の治癒を促す方法です。

温熱効果は、その水温や治療時間、治療部位の範囲、熱伝導率によって影響を受けるため、最適な温度を選択することが求められます。

温度
42°以上 39-42°
血管 収縮 拡張
血圧 上昇 低下
心拍数 増加 減少
緊張 低下
触覚 低下

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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