手指屈筋腱断裂の概要
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保存療法の適応は基本なし。断裂は端々縫合/腱移植などで修復。
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癒着リスクが全域で高い(腱鞘・滑車・皮膚との癒着)。ゾーンⅡはFDS/FDPが交差し最難治。
国際ゾーニング(簡略)
| 区分 | 範囲・ポイント |
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| Zone 1 | FDP付着以遠。FDP単独損傷。前進法後はDIP拘縮に注意。 |
| Zone 2 | A1滑車~FDS付着。腱鞘/滑車/FDS/FDPが関与。癒着最多。分離滑走の獲得が鍵。 |
| Zone 3 | 手根管遠位~A1。FDPから虫様筋起始。内在筋拘縮に留意。 |
| Zone 4 | 手根管内。多腱+神経・血管損傷が多い。密接→癒着多。 |
| Zone 5 | 手根管近位。近位断端の退縮が早い。表在で皮膚癒着も。 |
| T1–T3(母指) | T1:LPL(FPL)単独、近位断端の退縮が著明(紐状構造なし)。T2:A1~IP、T3:母指球。 |
腱治癒のタイムライン(危険期を把握)
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炎症期(~術後約10日):膠原ほぼなし。縫合糸頼みで脆弱。再断裂リスク最⾼(術後5–10日)。
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コラーゲン産生期(~3–4週):膠原増えるが抗張力は低い。過負荷で断裂しやすい。
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再構築期(~12週):線維が長軸配列へ。牽引耐性が徐々に改善。8–12週でも“完全”ではない。
術後リハビリ(フェーズ別プロトコル)
フェーズ1:安静期(0–3週)
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装具:背側ブロッキングスプリント(DBS)
例)手関節掌屈30–45°/MP屈曲50–70°/PIP・DIP伸展位 -
生活指導:手挙上位で浮腫コントロール、創部保護。
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運動:縫合部に張力をかけない肢位で周辺関節(肩肘前腕)ROM。指は他動のごく小振幅のみ(医師の許可範囲)。
フェーズ2:回復期(3–7週)
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装具:DBS継続(半シャーレ併用可)。
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方法(代表)
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早期自動伸展・他動屈曲法(=Duran/Kleinert系)
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指は自動伸展のみ、屈曲はゴム牽引/他動で小~中振幅、1日3–5セット×各10回。
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手関節の穏やかな屈伸、軽い把持(スポンジ)、blocking ex(各指の分節屈曲促通)。
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禁忌的肢位:手関節背屈+指屈曲の合成(縫合部張力↑)。
フェーズ3:積極期(7週~)
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装具:DBS段階的離脱。屈曲拘縮にはJoint Jack/背側アウトリガーなど夜間静的装具。
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運動:腱滑走(直線・フック・拳等のシークエンス)、ストレッチ、等尺→低負荷抵抗。
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ADL:軽作業から再開。痛み・腫脹が増す負荷は後退。
所見で進行を調整:術後3週で**自動屈曲ROMが“良すぎる”症例は癒着が薄く再断裂リスク↑**のことがあるため、屈曲自動の開始・強度を遅らせ、伸展中心の進行に切替。
背側装具(DBS)作製の実務メモ
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早期自動伸展・他動屈曲法:
W 30–45°F/MP 50–60°F/IP 0°。
爪甲リングやフック+ゴム牽引で**“脱力で屈曲位”**となる牽引量に設定。 -
早期自動伸展・自動屈曲法(慎重適応):
W 0–10°E/MP 50–70°F/IP 0°。日中は軽屈曲位を保つセットアップで自動屈曲はごく軽度から。 -
夜間:軽圧の包帯で指をDBSに固定し不意の屈曲を抑制。
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IP屈曲拘縮予防:MP屈曲位でPIP/DIPは他動伸展(ゾーンⅡ癒着対策)。
クリニカルパール
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むくみ・瘢痕対策:手挙上、圧迫、創治癒後は瘢痕モビライゼーションも併用。
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“合成運動”を避ける:手関節背屈+指屈曲や指屈曲強握+W背屈は張力急増。
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分離滑走:FDSとFDPの別々のパターン(フック vs ストレート)を早期から意識づけ。
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8–12週はまだ脆弱。筋力化は低負荷反復→段階増量で。
よくある質問(Q&A)
Q1. いつから動かしていい?
A. 多くの術式で**術後数日~1週以内に“保護下の小振幅”**を開始(医師指示)。自動屈曲は3–4週以降に段階導入が一般的です。
Q2. なぜゾーンⅡは難しい?
A. FDS/FDP交差+滑車密集で癒着しやすい。分離滑走の学習が機能回復の肝。
Q3. 再断裂のサインは?
A. 急な“力の抜け”/屈曲不能/疼痛の急変/腫脹増悪。即受診を。
Q4. 仕事復帰の目安は?
A. デスクワークで4–6週~、重量作業は12週以降が目安。個別に主治医と調整。
Q5. 装具はいつ外せる?
A. 多くは6–8週で日中段階的離脱、夜間はもう少し継続。拘縮・疼痛で調整。
Q6. 伸びない・曲がらない時は?
A. 腱滑走セット(直線/フック/拳)とblocking exを増やし、瘢痕の滑走を促進。オーバーストレッチ厳禁。
最終更新:2025-10-17
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