多発性筋炎/皮膚筋炎のリハビリ治療

多発性筋炎、皮膚筋炎のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

多発性筋炎/皮膚筋炎の概要

多発性筋炎(polymyositis:PM)/皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は、骨格筋の炎症性変化を主体とする慢性炎症性疾患で、自己免疫疾患と考えられています。

主に体幹・四肢近位筋の対称性の筋委縮、筋力低下が出現します。特徴的な皮膚症状を伴う場合を皮膚筋炎と呼んでいます。

PM/DMの好発年齢

男女比は1:3で女性に多く、15歳以下で3%、60歳以上で25%となっており、中年に発症することが多いとされています。

膠原病の中では、関節リウマチや全身性エリテマトーデスに次いで多く、日本での受傷者数は17,000人となっています。(2009年度)

遺伝病ではありませんが、自己免疫体質は遺伝しやすいとされており、親子で発症するケースもみられています。

PM/DMの症状

症状は、筋力低下や筋委縮に加えて、筋痛、浮腫性紅斑、色素沈着または脱失、レイノー現象、心症状、間質性肺炎、関節炎、悪性腫瘍が出現します。

また、その他の膠原病との重複症候や合併・随伴症状などの所見が出現する場合もあります。

合併症として発生する心病変や肺病変は、死因の70%以上を占める原因となるため、運動中の不整脈には注意を払う必要があります。

多発性筋炎の病態

多発性筋炎では、各筋線維の太さが大小不同となり、変性・壊死・再生像がみられます。また、間質や血管周囲にリンパ球を主とする炎症性細胞浸潤が認められます。

筋線維の萎縮・破壊に伴い、前角細胞が支配する筋線維の絶対数の減少と支配している個々の筋線維が委縮し1つの運動単位が小さくなり、運動単位の単収縮で出力される筋力が低下します。また筋電図の振幅も低下します。

 多発性筋炎 皮膚筋炎 
多発性筋炎 皮膚筋炎
主にCD8+T細胞が筋線維に浸潤。筋線維細胞を直接傷害する。 主にCD4+T細胞が血管周囲に浸潤。筋線維細胞を間接的に傷害する。

引用画像(1)

PM/DMの診断基準

厚生労働省が提示した分類(1992年)

項目
1 皮膚症状: ヘリオトロープ疹 or ゴットロン徴候 or 四肢伸側の軽度隆起性の紫紅色紅斑
2 上肢または下肢の近位筋の筋力低下
3 筋肉の自発痛または把握痛
4 CKまたはALD上昇
5 筋電図の筋原性変化
6 関節炎・関節痛
7 全身性炎症(発熱, CRP, ESR)
8 抗Jo1抗体
9 筋生検(Degeneration, cell infiltration)

※皮膚筋炎の場合は、「1」に加えて2から9の項目中4つ以上該当すること。多発性筋炎の場合、2から9の項目中4つ以上該当すること。

鑑別として、感染による筋炎、薬剤や内分泌異常に基づくミオパチー、筋ジストロフィー、先天性筋疾患との区別が必要。

Bohan & Peterの診断基準

項目
1 四肢近位筋、頚部屈筋の対称性筋力低下
2 筋原性酵素上昇(CK. ALD, AST, ALT, LDH)
3 定型的筋電図所見
i) polyphasic, short, small, motor unit potentials
ii) fibrillation, positive sharp waves, increased insertional irritability
iii) bizarre high frequency, repetitive discharge
4 定型的組織所見:筋線維の変性、壊死、萎縮、再生、炎症細胞浸潤
5 定型的皮膚症状:ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候、関節伸側の落屑性紅斑

※確定診断は4項目以上(皮膚筋炎は5を含む)、疑いは3項目以上、示唆は2項目以上。

多発性筋炎/皮膚筋炎の治療方法

主な治療は薬物療法になります。薬物療法では、ステロイドや免疫抑制薬を中心に使用し、血漿交換療法などを状態に応じて実施します。

ステロイドは第一選択薬であり、重症例には3日間点滴静注するステロイドパルス療法が行われる場合もあります。また、難治性の筋炎、再燃性筋炎に対しては、γグロブリン大量静注療法が適応されます。

治療期間は長期にわたり、急性期、回復期、慢性期に大別されます。そのため、薬物療法とともにリハビリテーションが適応されます。

多発性筋炎に対する評価方法

  1. MMT(徒手筋力検査)
  2. 関節可動域テスト
  3. 日常生活動作検査
  4. 心機能/呼吸機能 etc.

リハビリテーション

筋力強化

筋萎縮が主な病態ですので、進行を遅らせるためにも残存筋の強化は必要です。しかし、過度な負荷は症状を悪化させるため、少量頻回が原則です。

負筋出力の状態が運動量の指標となるので、運動中、後、翌日など頻回に筋力を測定し、疲労の残らない範囲で実施します。

また、CK値が基準値以下に安定してから徐々に負荷強度は漸増させていきます。遠心性収縮は過負荷になりやすいため禁忌とされます。

持久力トレーニング

症状の進行に伴う活動性の低下により、体力は徐々に落ちていきます。体力の低下は生活動作を制限するため、持久力の強化も必須です。

方法として、ウォーキングやエアロバイクなどの低負荷で実施できる練習を中心に行い、最大酸素摂取量の60%の運動強度で週3-5回、1日15-30分で実施します。

関節可動域運動

炎症が強い時期は、過度なストレッチが筋障害を引き起こす場合もあるため、愛護的に実施していくように注意します。

急性期では可動域の維持、回復期では可動域の改善を目的に行います。長期安静が必要な症例では、足底板などを用いて尖足の防止をはかります。

呼吸機能の維持・向上

胸郭の可動域が低下して拘束性障害が発生している場合は、胸郭のROMも加えて実施していきます。

予後まで考慮して、腹式呼吸を獲得しておくことも有用です。腹部をより意識するため、腹部抵抗での呼吸運動などを取り入れます。

生活指導

急性期のCK値が高い時期は安静が原則ですので、CK値の低下に合わせながら徐々に生活範囲を拡大していくように調整します。

必要に応じて補助具や自助具を利用して、疲労感の少ない日常生活活動をデザインしていくことも大切です。

物理療法

筋痛や筋緊張に対してホットパックなどの温熱療法が適用されます。また、筋の線維化や石灰化に対して超音波療法が有効な場合もあります。

引用画像

  1. 大阪大学大学院医学研究科

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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