肘関節の構造と関節可動域について解説していきます。
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肘関節の概要
肘関節は、①腕尺関節、②腕橈関節の二つの関節から構成される複合関節です。これらの関節は1つの関節包に包まれ、合わせて肘関節と呼ばれます。
①腕尺関節 | 上腕滑車と尺骨滑車切痕で構成する蝶番関節で、肘関節の屈曲・伸展に作用する |
②腕橈関節 | 上腕骨小頭と橈骨頭窩で構成する球関節で、肘関節の屈曲・伸展、前腕の回内・回外に作用する |
③近位橈尺関節 | 尺骨頭関節環状面と橈骨尺骨切痕で構成する車軸関節で、前腕の回内・回外に作用する |
肘関節の可動域と測定方法
運動方向 | 参考角度 | 基本軸 | 移動軸 | 参考図 |
屈曲 | 145 | 上腕骨 | 橈骨 | |
伸展 | 5 | |||
回内 | 90 | 上腕骨 | 手指を伸展した手掌面 | |
回外 | 90 |
肘関節の屈曲・伸展の測定で、前腕の回外位がとれない場合は、測定時の前腕の肢位を記録しておきます。
回内では肩関節の外転と内旋、回外では肩関節の内転と外旋の代償運動が起こらないように注意が必要です。
手指の屈曲拘縮などによって手指伸展が不可能な場合は、移動軸を「橈骨と尺骨の茎状突起を結ぶ線に平行で前腕遠位端背側面(回内)または掌側面(回外)」にして測定します。
関節の動きに作用する筋肉(貢献度順)
方向 | 筋肉 |
屈曲 | 上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、円回内筋、橈側手根屈筋、短橈側手根伸筋 |
伸展 | 上腕三頭筋、肘筋 |
回内 | 円回内筋、方形回内筋、橈側手根屈筋 |
回外 | 上腕二頭筋、回外筋、長母指外転筋、長母指伸筋 |
肘関節に付着している靭帯
肘関節に付着している靱帯は、①内側側副靭帯、②外側側副靭帯、③橈骨輪状靱帯、④方形靭帯の四つがあります。
1.前方から見た肘関節周囲の靱帯 |
2.後方から見た肘関節周囲の靱帯 |
内側側副靭帯
肘の内側側副靭帯(Ulnar collateral ligament of elbow joint)は、①前車斜走線維、②後斜走線維、③横走線維に分けられます。
肘関節伸展時には前斜走線維の前方部分が、屈曲時には前斜走線維の後方部分と後斜走線維が主に外反運動を制動しています。
投球時に大きな負荷がかかるため、野球の投手に損傷者が多いとされています。
起始 | 【前部】上腕骨の内側上顆の前面 |
【後部】上腕骨の内側上顆の下後面 | |
【横部】肘頭 | |
停止 | 【前部】尺骨の鈎状突起 |
【後部】尺骨肘頭の内側縁 | |
【横部】鉤状突起 | |
機能 | 腕尺関節の安定、外反運動の制動 |
外側側副靭帯
上腕骨外側上顆から起こり、前後の2つに分けられます。腕尺関節は骨性で支持性の高い関節ですが、内外の両側からの側副靭帯によって、さらなる安定性を与えられています。
この靭帯は橈骨輪状靭帯に癒合しており、この靭帯が短縮すると、肘関節の全運動域において一定の運動制限を引き起こします。
起始 | 【前部】上腕骨の外側上顆 |
【後部】上腕骨の外側上顆 | |
停止 | 【前部】尺骨の滑車切痕から鉤状突起 |
【後部】尺骨の橈骨切痕後縁から回外筋稜 | |
機能 | 腕橈関節の安定、内反運動の制動 |
橈骨輪状靭帯
橈骨輪状靭帯(Anular ligament of radius)は、撓骨頭を囲む靱帯です。幼児では、肘を急激に引っ張り上げたときに撓骨頭が撓骨輪状靱帯から外れ、亜脱臼となるケースがあります。
これを肘内障と呼びます。関節腔に向かう内面は軟骨性となり、上頭尺関節の関節窩の一部となります。外面は関節包と固く結びつきます。
起始 | 尺骨の橈骨切痕の前縁 |
停止 | 尺骨の橈骨切痕の後縁(橈骨頭を包む) |
機能 | 橈骨頭を尺骨の橈骨切痕に固定する(上橈尺関節の固定) |
方形靭帯
方形靱帯(Quadrate ligament)は、尺骨の橈骨切痕の下縁と橈骨頚とを結ぶ線維束をいい、上橈尺関節の下界をつくる滑膜を下から支える役割を持っています。
起始 | 尺骨の橈骨切痕の下縁 |
停止 | 橈骨頚 |
機能 | 近位橈尺関節の安定化 |
肘角について
肘関節は、伸展位で回外すると前額面上で約15度外反しています(生理的外反)。これを肘角と呼びます。
肘関節を伸展した状態で物を運ぶとき、この肘角があるおかげで物が大腿部に当たらなくてすむので、運搬角と呼ばれる場合もあります。
このアライメントが崩れ、過剰な外反となった場合を外反肘(30度以上)、反対に過少となった場合を内反肘(5度以下)と呼びます。
外反肘 | 内反肘 |
肘内障の概要
親子で手をつないで歩いているとき、子供がつまずいて親が転ばないように手を引っ張った際に、子供が肘を痛がり上肢を動かさなくなることがあります。
これは、輪状靭帯から橈骨頭が亜脱臼した可能性が考えられ、これを肘内障と呼んでいます。通常、簡単に整復することができ、障害を残すことはほとんどないとされています。
正常 | 肘内障 |
引用元:日本整形外科学会