心因性腰痛症のリハビリ治療

心因性腰痛症のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

心因性腰痛症の概要

身体に異常が認められず、心因的な問題以外に痛みの原因を説明できない場合を、心因性疼痛と呼びます。

心因性疼痛では、明確な損傷や炎症が存在せず、何ヶ月も続くような慢性的な腰痛を起こしているケースが多くを占めます。

また、生活環境について聴取していくと、仕事や家庭などの環境的なトラブルを抱えられている場合が多く見受けられます。

中には、うつ傾向などの精神症状をきたしている患者もおられますが、痛みでうつ傾向になったのか、うつ傾向で痛みを訴えているのかは区別する必要があります。

心気症について理解する

心因性疼痛の代表的な症状に心気症がありますが、これは身体に対する誤った解釈から、特定の動作に対して過剰な恐怖を感じることです。

慢性腰痛患者で多いのは、腰を反らせたら痛くなるや、椅子に腰掛けたら痛くなるなどの訴えが多いです。

このような歪んだ認知が形成されている場合は、認知そのものを変えていかないことには腰痛は完治していきません。

しかしながら、原因がないにも関わらず、実際にその動作を行うことで痛みが誘発される場合も多いため治療は難渋します。

慢性腰痛の原因はDLPFCにある

DLPFCとは、脳の神経細胞の興奮を鎮める指令を出す部位で、ここが衰えていると痛みの原因が解消されても痛みの回路の興奮が続くことになります。

DLPFCを鈍らせる原因として、心気症のように身体(腰)を動かすことに対して過剰な恐怖心を抱いている場合などがあります。

強い恐怖心は痛みの経路を興奮させることがわかっており、持続的な興奮でDLPFCに疲労感が蓄積されていき、過用症候群を招くことになります。

そうなると、DLPFCの機能は衰えて委縮してしまいます。

DLPFC|慢性腰痛の原因部位

心因性腰痛症の治療方法

心因性腰痛症に対する治療方法として、読書療法や映像療法、認知行動療法などの様々な治療法が提唱されています。

これらの治療目的は、間違った信号を出している脳に対して、本当は問題がないこと、もうすでに原因は取り除かれていることを伝えることです。

そうすることで、間違って送られていた信号が消えて、腰痛が改善してくるという理屈です。

認知行動療法について

認知というフィルターを変えるために作られた治療法が、認知行動療法になります。

認知行動療法を超わかりやすく説明すると、正しい知識を学んだり、成功体験を手に入れることで、問題となっている感情を変化させることです。

ちょっと文章にするとわかりづらいので、簡単に図にしてみました。

認知行動療法

図のフィルター部分を変化させることで、これまでと同じ出来事(イベント)にも関わらず、その後の考え方や行動がまったく違ってくるということですね。

つまりは、つらい感情を引き起こすのはつらいイベントではなく、頭の中にある認知というフィルターに原因があるということです。

心因性の痛みかを鑑別する

心因性腰痛症であるかを判別する方法として、以下に挙げられる腰痛症のどれにも該当しない場合に、疑ってみてもいいと考えられます。

非特異的腰痛症 特異的腰痛症
椎間板症 腰椎椎間板ヘルニア
椎間関節障害 腰部脊柱管狭窄症
仙腸関節炎 脊椎圧迫骨折
筋筋膜性腰痛症 神経由来(脊髄腫瘍,馬尾腫瘍)
ぎっくり腰 内臓由来(腎尿路系疾患,婦人科疾患)
心因性腰痛症 血管由来(腹部大動脈瘤,解離性大動脈瘤

しかしながら、心因性については明確な判断が非常に難しくもあります。

なぜなら、特定の動作ストレスで痛みが誘発されるため、椎間板症や椎間関節障害と見分けがつけられなくなるからです。

これは心因性腰痛症と動作ストレスが互いに密接な関わり合いを持っていることを意味しています。

心因性の痛みは疼痛閾値が関係している

また、疼痛閾値が下がることで、ストレスに対して過敏になっている可能性も考えられます。

なので、精神が安定することで痛みは改善しますし、動作ストレスをなくすことでも痛みは起きなくなります。

これらがどれだけの割合で存在しているかは患者によっても様々ですが、ここを詳しく見極めていき、より効果の高い治療法を選択することが必要になります。

”【疼痛閾値とは】痛みを引き起こすために必要な最小の刺激量を指す。閾値が上がることで痛みを感じにくく、閾値が下がることで痛みを感じやすくなる。

仕事における心理社会的因子も重要

また、職場における心理社会的因子が腰痛に影響を与えることも報告されています。その中でも、以下の5つは抑えておくべきポイントです。

心理的社会因子

腰痛と心理状態が強い相関関係をもつことはいくつも研究で報告されており、これらの問題に対して真摯に向き合うことは治療を行う上で極めて重要です。

しかしながら、腰痛があるからといって気軽に仕事を変えるわけにはいかないので、その環境の中でどのように腰痛をコントロールしていくかを考えることも治療家の役割だと思います。

まずは患者に仕事の影響を説明し、なるべく椎間板内圧が上昇しない姿勢を意識して仕事に取り組んでいただくことが大切です。

心理面と機能面の両方にアプローチする

臨床においても、片方だけに決めつけてアプローチせずに、どちらにも治療を施すことで最善の結果を得られる場合は多いです。

実際に高い効果を発揮している集中的な腰痛治療プログラムにおいても、認知部分の修正をはかる作業の合間に、運動課題を取り入れるように構成されています。

そうすることで、相乗効果が期待でき、高い治癒率を実現できているのだと考えられます。

また、もしも心理面の割合が大きい患者に対しては、抗うつ薬などの処方が高い効果を発揮しますので、薬物療法を併用しながら効果の度合いを判定していくことも大切です。

読書療法ができるお勧めの一冊

私がお勧めしたい一冊は、「脳で治す腰痛DVDブック」です。本書を薦めたい理由として、治療時間外でのアプローチが可能となるからです。

慢性腰痛者への認知行動療法が効果的であることは前述しましたが、実際にセラピストが施術できる時間は非常に限られたものです。

また、その時間内だけで認知の歪みにまでアプローチしていくことは困難です。

本書を活用することで、治療時間外に腰痛についての理解を深めていただくことにより、治療の相乗効果が得られると思います。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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