EMGバイオフィードバック療法とリハビリテーションでの活用

概要と定義(かみ砕き版)

  • 定義(Basmajian):ふだん“感じ取れない”生理現象(筋電・関節角度・荷重など)を機器で目や耳でわかる信号に変換し、本人が自分で調整できるように学習する方法。

  • ゴール:機器あり → 機器なしへ。最終的に内的感覚だけで狙った運動を再現できること。


仕組み(フィードバックの考え方)

  • 初学習は**外部フィードバック(視覚/聴覚)を多めに → 反復で内部フィードバック(体性感覚)**へ移行。

  • キーボード入力の上達と同じで、見て→感じて→無意識化していく流れを、筋電図や荷重表示で再現します。


代表的デバイスと目的

種類 主な目的・使いどころ
筋電図(EMG) 筋再教育、随意弛緩(抑制)と筋力増強(促通)、タイミング改善
角度計/傾斜計 関節運動の到達角・速度の可視化、ROM拡大や運動制御
荷重センサー/圧力計 立位・歩行の左右荷重差是正、部分荷重練習
姿勢鏡/動画 姿勢調整、スキャプラコントロール、体幹アライメント
呼吸BF(呼吸数/胸腹運動) 過換気・不安のコントロール、呼吸筋再教育
脳波・皮膚電気反応 リラクゼーション、疼痛・ストレス反応のセルフコントロール

適応(抑制と促通)

抑制(過緊張を下げる)

  • 例:痙性斜頸、書痙、反射性筋スパズム、相反抑制障害での同時収縮 など

  • 目的:随意弛緩の獲得、共同運動の解体、痛みによる過緊張の低減

促通(弱い筋を働かせる)

  • 例:中枢神経麻痺・末梢神経損傷後、腱/神経移行術後の機能転換、関節疾患の廃用性筋力低下、骨盤底筋の尿失禁対策 など

  • 目的:筋出力アップ発火タイミング改善、動作課題への一般化


EMG-BFの実践プロトコル(例)

準備

  1. 目的設定:抑制か促通か/対象筋と姿位(代償が出にくい姿位を選択)

  2. 電極:皮膚前処理→筋腹に並列で貼付(クロストーク最小化)

  3. 閾値設定

    • 促通:**最大随意収縮(MVC)の30–60%**を目標域に

    • 抑制:安静EMGを把握し、それ以下を目標域に

セッション(10–20分×1–2セット)

  • 促通:5–10秒収縮/5–10秒休息 ×10–15回 → 休憩 → 姿勢や課題を変えてもう1セット

  • 抑制:呼吸合わせ(吸気でリラックス)しながら安静EMGを下げ続ける練習を1–2分×数本

  • 外部FBの漸減:連続表示 → 成功時のみ音 → 非提示

進行

  • 安静時ノイズ↓、立ち上がり時間↓、共同収縮↓を確認しながら、課題の複雑さ(閉鎖→開放課題)と姿勢難易度を段階的に上げる。

  • 最終は日常動作内での再現(歩行・階段・持ち上げ等)。


視覚 vs 聴覚のフィードバック

  • 研究報告では聴覚FBが優位とするものが比較的多い一方、視覚が適する患者もいます。

  • 実務は**「その人が反応しやすい方」から開始し、徐々にミックス→漸減**が◎。


メリットと限界・注意点

メリット

  • 安全・非侵襲、副作用が少ない/即時に指標が見える→動機づけ◎/家庭用小型EMGで在宅訓練も可

限界・注意

  • 理解・集中の困難があると効果が出にくい

  • クロストーク、皮膚インピーダンス、電極位置ズレでノイズが増える

  • 計測=機能ではない:数値だけに固執せず動作の質と一般化を最優先

  • 皮膚トラブル(貼付部のかぶれ)に注意


セッション設計テンプレ

  1. ベースライン計測(安静/最大)

  2. 単関節でパターン学習(外部FB多め)

  3. 姿勢変換・課題複雑化(閉鎖→開放)

  4. 日常課題へ一般化(外部FB漸減)

  5. ホームプログラム(1日5–10分×1–3回、簡易メモでセルフ記録)


よくある落とし穴と対策

落とし穴 ありがち 対策
電極位置の不適合 隣接筋の信号が混入 触診→筋腹直上、線維方向に並行、前処理を丁寧に
指標への過集中 数字は上がるが動作は改善せず 動作課題とセットで練習、外部FBを段階的に減らす
代償運動 体幹・肩で代償 固定・支持面を工夫、鏡や動画で姿勢もFB
成果頭打ち 同じ課題のやり込み 難易度調整(速度・不安定面・二重課題)で刺激を更新
継続性の低下 家ではやらない 超短時間課題に分割、成功体験を毎回可視化

ケース別の使い分け(さくっと例)

  • 脳卒中後の手背伸筋促通:手関節背屈EMG表示→握り込み代償を抑える課題でタイミング練習

  • 膝伸展抑制解除(痛み性スパズム):ハム弛緩EMGを下げつつ大腿四頭筋の立ち上がり改善

  • 骨盤底筋:内転筋や腹直筋へのクロストーク抑制を学習しつつ、骨盤底筋の単独収縮を可視化

  • 部分荷重歩行荷重センサーで%荷重を提示→許容量内で歩行練習


Q&A

Q1. どれくらいで機器なしでもできるようになりますか?
A. 週2–3回×2–6週間で「コツ」をつかむケースが多いですが、病態・目標により差があります。外部FBを早めに漸減するほど自立が進みます。

Q2. 禁忌はありますか?
A. 経皮電極の皮膚障害、重度の認知・注意障害で学習が成立しにくい場合は適応を慎重に。埋め込み機器周辺は施設基準に従ってください。

Q3. 視覚と聴覚、どちらを優先?
A. 反応が良い方から始めてOK。多くは聴覚FBに軍配という報告もありますが、個別最適化が原則です。

Q4. セット数や回数の目安は?
A. 促通なら5–10秒収縮/5–10秒休息 ×10–15回 ×1–2セットから。抑制は1–2分×数本を静かな環境で。

Q5. 在宅でもできますか?
A. 可能です。簡易EMG姿勢鏡/スマホ動画で代用可。短時間・高頻度で“毎日続けられる設計”に。

Q6. 痛みが強い患者でも使えますか?
A. 痛み性筋抑制の可視化や過緊張の弛緩に有効。痛みが強い日は抑制中心に切り替えます。

Q7. 成果の評価は?
A. EMG振幅/立ち上がり時間/共同収縮率に加え、ROM・疼痛尺度・機能テスト(例:10m歩行、握力)を併記して機能改善で評価します。

Q8. どの患者に向いていますか?
A. 目標が具体的反復学習ができる方に特に有効。小児・高齢でも、課題の単純化成功体験の設計で導入できます。


最終更新:2025-10-17