要点サマリ
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「腱が短くなる」わけではない:不動後は腱そのものではなく、筋腱移行部で“直列の筋節数”が減少して実長が短くなる=機能的短縮が主因。
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ケーラー脂肪体(=Kager脂肪体)がカギ:アキレス腱深部の脂肪体が滑走性の潤滑材/緩衝材。瘢痕化すると背屈制限と深部痛を助長。
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順序が大切:脂肪体の滑走回復 → 関節モビリティ → 最後にアキレス腱ストレッチ。順番を誤ると炎症・硬化の悪循環に。
なぜ「短縮した」と感じるのか
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術後やギプス固定などの不動で、筋腱移行部の筋節(サルコメア)数が減少。結果として筋が**短い位置で“最適化”**され、背屈で突っ張る。
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腱自体はコラーゲン優位で長さ変化しにくい一方、剛性↑が起こることはある。臨床で感じる“短さ”の多くは筋側+滑走不全の合併。
ケーラー脂肪体の役割と悪循環
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位置:アキレス腱と長母趾屈筋腱の間隙を満たす脂肪体。
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役割:①腱の滑走性向上 ②付着部への圧縮力緩和 ③滑液包圧の調整。
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不動/炎症 → 瘢痕化・線維化 → 摩擦↑ → 深部痛(自由神経終末) → さらに不動…というループに陥る。
施術の流れ(推奨プロトコル)
前提:熱感・発赤・著明な腫脹・断裂疑いがある場合はまず安静・医師評価。
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前処置(推奨)
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深部温熱(マイクロ波/超音波)で粘弾性を一時的に低下させ、徒手の効率を上げる。
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ケーラー脂肪体の滑走リリース(最優先)
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姿位:腹臥位、膝軽度屈曲、足関節軽度底屈で把持。
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操作:アキレス腱深部を母指と示指でつまみ、横方向の微小シアを与える。
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上下の高さを少しずつ変えながら反復し、**“ざらつき”→“滑り”**へ質感変化を確認。痛みは中等度まで。
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距腿関節・距骨下関節のモビライゼーション
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前後滑り・回内外の小振幅で関節包の抵抗を低減。
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腓腹筋/ヒラメ筋のトニックなガードが強ければ軽い等尺→遠心性で抑制。
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アキレス腱ストレッチ(脂肪体が緩んだ後に)
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壁立位カーフストレッチ:
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膝伸展位=腓腹筋、膝屈曲位=ヒラメ筋をそれぞれ狙う。
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痛み<ストレッチ感を守り、30–60秒×3–5回。
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セラピスト介助なら関節面を意識し、背屈の**代償(回内/外)**を抑える。
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機能回復(再発予防)
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遠心性カーフレイズ(段差でゆっくり下ろす):10–15回×2–3セット/日、痛みが落ち着いてから。
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歩容練習:小股・踵接地を意識し、背屈終末域での“ズキッ”を避ける。
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総負荷は10–20%ずつ漸増。活動後に反動痛が48h以上残る場合は戻す。
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注意点(レッドフラッグ/やり過ぎ防止)
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強い熱感・発赤・拍動痛:感染/急性炎症の疑い → 徒手強刺激は中止。
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突然の“バチッ”・歩行不能:腱断裂疑い → 直ちに医師へ。
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初期は**“腫れるほどのストレッチ/歩行”は逆効果**。滑走→可動→伸張の順を徹底。
在宅セルフケア(患者指導用)
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温浴5–10分→軽い自己リリース→ストレッチの順。
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フォームローラー/ボールで下腿後面をやさしくローリング(痛み5/10以下)。
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アイシングは活動後に熱感があるときのみ10–15分。
よくあるQ&A
Q1. どのくらいで背屈が戻る?
A. 滑走が改善すれば即時に感触が軽くなる例も。可動域の定着は数日〜数週の反復が目安です。
Q2. まずストレッチから始めてはダメ?
A. **脂肪体が硬いままの伸張は摩擦↑**で悪化しやすい。先に滑走を出してからが安全・効率的です。
Q3. 痛みが出たら続けて良い?
A. 鋭い痛み/翌日まで残る痛みはやり過ぎサイン。強度と量を1段階下げて再開します。
Q4. どの筋を重点的に伸ばす?
A. 膝伸展位で腓腹筋、膝屈曲位でヒラメ筋。両者を分けると背屈エンドフィールが改善しやすいです。
Q5. 超音波は必須?
A. なくても実施可能ですが、深部温熱は滑走改善の立ち上がりを助けるため併用推奨です。
最終更新:2025-10-07
