腱板損傷で可動域が詰まるとき、多くは上腕骨頭(HH)の“中心化(centring)”が崩れているサインです。
力のつり合い(フォースカップル)でHHを関節窩中央に保つのは、三角筋+腱板(棘上・棘下・小円・肩甲下)と肩甲骨筋群。どこかに脱落・過緊張・短縮があると上方/前方/下方へ偏位します。
1) どの筋がどう偏位に影響するか
A. 腱板広範囲損傷(複数腱の断裂)
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起こること:外転で三角筋の上方成分が優位→HH上方偏位→すくめ挙上(shrug sign)、painful arc、最終域まで上がらない。
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背景:腱板の“引き留め(求心)”が弱いと、三角筋が骨頭を上方へ押し上げてしまう。
B. 棘上筋単独断裂
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起こること:求心力は低下するが、棘下筋+肩甲下筋の水平面カップルが残れば、三角筋による上方偏位はある程度抑制可能。
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臨床の肝:棘下筋の強化・促通がとくに有効(棘上と腱性連結が強い)。
C. 三角筋麻痺/著明な筋力低下
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起こること:HHは下方偏位しやすい。
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注意:この状態で棘下・小円(下方滑りを助長)を強く入れると下方亜脱臼を悪化させ得る。**支え(スリング/徒手支持)**を併用してから段階的に。
D. 前方偏位(頻度が高い)
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典型原因:
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大胸筋・小胸筋の過緊張/短縮
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後方関節包タイトネス(GIRD)
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外旋筋(棘下・小円)の過緊張
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肩甲下筋の収縮不全
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なぜ外旋筋過緊張で前方へ?
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GHは**凸(上腕骨頭)-凹(関節窩)**の関係。外旋(ER)では前方グライドが生じるため、ER優位+後方包タイト=前上方シフトを招きやすい。
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2) まず押さえる評価のポイント(簡潔)
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見た目:すくめ挙上、肩峰下スペースのつぶれ、上腕骨頭の前方触知感。
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痛みの弧(60–120°)・外旋での不安(前方偏位示唆)。
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可動域:水平内転・IRでの詰まり(後方包タイト)、ERでの不安(前方)。
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徒手:後方シフト(PA→APの補助)で挙上が軽くなるなら前方偏位関与を示唆。
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肩甲骨:上方回旋・後傾・外旋が出ているか(僧帽筋下部・前鋸筋の遅れはHH上方化を助長)。
3) 修正の優先順位(安全かつ実用)
① 空間づくり(受動要素の改善)
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後方関節包ストレッチ:クロスボディ・スリーパーは痛み0–2/10の範囲で静止20–30秒×3–5。
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小胸筋・大胸筋リリース/ストレッチ:肩甲骨前傾を戻し、肩峰下スペース確保。
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胸椎伸展モビリティ:フォームローラーで中部胸椎エクステンション。
② 中心化(フォースカップル再建)
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水平面カップル:棘下筋+肩甲下筋の同時等尺(タオルロール肘挟みでER/IR微収縮)。
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冠状面カップル:三角筋前部+棘上筋は、**タオル下での軽いスキャプション30–60°**から。
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肩甲骨筋:前鋸筋+僧帽筋下部(壁スライド・プッシュアッププラス・Yレイズ)。
③ 動作再学習(軌道の最適化)
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面内挙上(Scaption)+タオル肘はさみ+外旋バイアスでHH前上方滑りを抑制。
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“痛みゼロ~違和感軽微”で反復(10–15回×2–3)。
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挙上角が増えたら負荷を徐々に(重さよりフォーム優先)。
メモ:広範囲断裂や疑い強い症例は医師管理下で。急性期・明らかな徒手整復不能亜脱臼感は無理に運動負荷しない。
4) よくある落とし穴
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三角筋だけ鍛える → HH上方偏位が悪化(腱板求心が先)。
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外旋ばかり → 後方包タイト+前方滑りで前上方インピンジに。
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肩甲骨の遅れを放置 → 肩峰下スペースが出ず痛みの弧が残る。
Q&A
Q1. 棘上筋単独断裂でも挙上は改善しますか?
A. 可能です。棘下+肩甲下の協調で求心力を補い、肩甲骨の後傾・上方回旋を確保すれば機能的改善が見込めます。
Q2. 前方偏位のセルフ目安は?
A. 外旋やコッキング位での不安感/前方のつっかえ、後方包ストレッチで挙上が軽くなる等は前方シフトの示唆。
Q3. まず何から始める?
A. 小胸筋・後方包のケア → 棘下+肩甲下の等尺 → 肩甲骨筋の協調 → 低角度スキャプションの順が安全で再現性高いです。
Q4. 三角筋麻痺があるときの注意は?
A. 下方偏位リスク。徒手支持/スリングでHHを補助しつつ、腱板の等尺と肩甲骨筋から段階的に。
最終更新:2025-09-20



