1)腰椎変性すべり症の概要
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腰椎すべり症は大きく2種類
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分離すべり症:思春期(12–17歳)に発生しやすい。反復する腰椎伸展ストレスで分離→将来のすべり素因に。
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変性すべり症:加齢変化(椎間板・椎間関節・靱帯)の結果として生じる。女性にも多く、多くはL4 → 前方すべり。
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変性すべりは、**L4/5の変性(高さ低下・膨隆)+前方剪断力↑**が主因。椎間関節や黄色靱帯の変化も不安定化に関与。
2) 椎間板と負荷の考え方
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椎間板内圧は屈曲・座位で上がるが、椎間板は「圧縮には比較的強い」。
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一方、剪断(前方すべり)・捻転(回旋)には弱い。
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つまり、**過度な前弯(伸展位での剪断)**でも、**過度な後弯(屈曲で内圧↑)**でも悪化し得る。
→ どの姿勢・動きで痛むかを丁寧に仕分けることが重要。
3) 症状の特徴と鑑別のヒント
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椎間板性の痛み:腰背部中央の曖昧な面状痛。「この辺りが重い・ズキっとする」。圧痛は拾いにくい。
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椎間関節性:伸展・捻りで局所痛、該当レベルの圧痛あり。
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神経症状(しびれ・筋力低下・膀胱直腸障害)は要注意:早期に専門医評価へ。
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画像の変性=常に痛みの原因ではない。臨床所見で裏取りする。
4) リスク因子(臨床で見たいポイント)
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股関節伸展可動域↓(股関節が伸びないと、代償的に腰椎伸展が増えて剪断↑)
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腰仙移行部(L5/S1)・下位腰椎の硬さ(特定セグメントに伸展ストレス集中)
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DFL(ディープ・フロント・ライン)過緊張:大腰筋・腰方形筋・内転筋群の短縮
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体幹深層の低出力:腹横筋・多裂筋・骨盤底筋・横隔膜の協調不良
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姿勢・生活:反り腰作業、反復リーチでの腰からの反り、長時間座位後の不良立ち上がり
5) リハビリの基本方針(“整復”ではなく“再負荷設計”)
A. 痛みのコントロールと再発予防
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急性増悪期は伸展終末域・回旋の反復を回避。
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屈曲も長時間連続はNG(立ち直り動作を混ぜる)。こまめに姿勢切り替え。
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体幹ブレース感覚の再学習(腹圧=息を止めない軽いバルサルバ:吐きながら腹壁を360°広げる)。
B. 可動性の配分を戻す(“腰を動かし過ぎないための可動域”)
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股関節伸展の回復:
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大腿直筋・腸腰筋・大腰筋の低痛域ストレッチ(30–60秒×2–3)
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**殿部活性化(ヒップヒンジの獲得)**で「伸展は股関節から」へ再配線
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腰仙椎の軽いモビライゼーション:過可動レベルには入れ過ぎない。隣接セグメントの滑走性を整える目的で。
C. 安定性(コア)を積む
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腹横筋+多裂筋+横隔膜+骨盤底筋の協調を最優先。
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ドローインではなく“腹圧”:鼻から吸って腹壁を360°ふくらませ、吐きながら圧を保つ。
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デッドバグ/バードドッグ(小可動・反復少なめ)
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ヒップヒンジ→ブリッジ:殿筋主導で。腰で反らない。
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サイドプランク(膝付きから):側方支持で剪断制御を鍛える。
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原則:低負荷・高頻度・痛みゼロ域。フォーム破綻=即休止。
D. DFL過緊張の調整
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大腰筋・腰方形筋・内転筋群のソフトリリース+軽いストレッチ。
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目的は**“腰で反らずに立てる余白”**を作ること。
E. 日常動作の置き換え
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立ち上がり:**股関節外旋(ニーアウト)**で、骨盤前方移動→股関節伸展で立つ(腰で反らない)。
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物を持ち上げる:胸を張らず、みぞおち軽く引き込み+腹圧→ヒップヒンジ。
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座位:骨盤をやや前傾、30–45分に1回立ち直り。
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寝返り・起き上がり:腹圧→ログロールで回旋剪断を避ける。
6) やってはいけない例(代表)
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“腰を反らしてストレッチ”(痛気持ちいいは危険サイン)
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バックエクステンションの反復(剪断を増やす)
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回旋系クランチの反復(回旋剪断)
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痛みを我慢しての反復歩行/ラン(発痛動作の累積は変性を加速)
7) フローチャート(簡易)
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赤旗(強い神経症状・膀胱直腸障害・発熱・外傷)→医師へ。
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痛みの主因を伸展系/屈曲系に仮分類。
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股関節伸展とコア協調をまず整える。
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痛みゼロ域で生活動作の置換→漸進負荷。
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2–4週で日内変動の改善がなければプラン見直し。
よくある質問(Q&A)
Q1. すべった骨は運動で戻りますか?
A. 戻りません。目的は再びすべらせない負荷設計と痛みの自己管理です。
Q2. 反り腰ですが背筋トレはして良い?
A. まずは殿筋主導のヒップヒンジと腹圧コアを優先。反る系の背筋反復はNG。
Q3. ウォーキングは?
A. 痛みゼロの速度・距離で。腹圧+殿筋推進を意識し、痛みが出たら中止・再評価。
Q4. コルセットは?
A. 急性期や長時間移動など“一時的”には有効。ただし常用は深層筋抑制のリスク。並行してコア再学習を。
Q5. どのくらいで変化が出ますか?
A. 個人差がありますが、2–4週で「日中の持ち」「動作後の反応」が改善することが多いです。
まとめ
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変性すべり症は剪断と回旋に弱い腰を、股関節とコアで守る設計に変えるリハビリが本質。
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股関節伸展の可動性回復 → コア協調 → 生活動作の置換の順で、安全に漸進。
最終更新:2025-10-08


