触圧覚刺激法と痛覚刺激法の違いについて解説

触圧覚刺激法とは

皮膚表面を軽く・ゆっくり擦る(軽擦)ことで、皮膚の触圧覚受容器を刺激し、痛みの軽減と筋緊張の低下を狙う手技です。
筋線維を強く圧さないので揉み返しのリスクが低いのが特長。一般的な“深揉みマッサージ”とは目的も標的も異なります。


作用機序(3つの柱)

  • ゲートコントロール理論
     皮膚のAβ求心線維(触圧覚)を刺激 → 脊髄後角の抑制性介在ニューロンが働き、**Aδ/C線維(痛み)**の伝達をブロック。結果、痛みが和らぎます。

ゲートコントロール理論

  • 自律神経の調整(交感神経↓/副交感神経↑)
     穏やかな触刺激は心拍や呼吸を落ち着かせ、過緊張・不安・睡眠障害にも良い方向に働きやすいです(実施環境の静けさ・呼吸合わせが増強因子)。

  • 筋緊張低下(α運動ニューロン活動↓)
     皮膚入力は脊髄レベルで筋緊張調整に関与し、αMN出力が抑えられて錘外筋トーンが下がる→こわばりの緩和へ。※「αMN抑制で筋が弛む」が正確です。

Ⅰb線維を興奮させて緊張を抑える

※神経線維の役割メモ
:触圧覚(本手技の主ターゲット)
Aδ/C:痛み・温度(強刺激で興奮しやすい)
Aα(Ia/Ib):固有感覚/運動系、:筋紡錘調節(いずれも主に運動系)


触圧覚刺激と深部マッサージの違い(要点)

触圧覚刺激(軽擦) 深部マッサージ(痛覚・筋紡錘狙い)
主標的 皮膚・表層受容器(Aβ) 筋・腱・筋膜(Aδ/Cも動員しやすい)
ねらい 痛みの“ゲート”遮断、自律神経調整、筋トーン↓ トリガーポイント、循環促進、可動性↑
強さ ごく軽圧(皮膚がすべる程度) 中〜強圧(個別適応)
リスク 低い(過敏例は刺激量に注意) 揉み返し・疼痛増悪のリスクあり

痛覚刺激(強圧)で得られる効果と注意

  • 内因性オピオイド系:PAG〜RVM経由の鎮痛回路が働き一時的に痛みが下がる。

  • 下行性抑制:橋青斑核(ノルアドレナリン)、縫線核(セロトニン)からの抑制。

  • CPM(旧DNIC)“痛みで痛みを抑える”拮抗作用。
    注意:強刺激は筋損傷→揉み返し
    強刺激依存中枢感作の誘発リスク。急性炎症や高刺激性の患者には不適。


こんな時に向いています(適応と禁忌)

適応

  • 急性期〜亜急性で刺激性が高い痛み/筋攣縮・こわばり

  • ストレス高・不眠・自律神経の乱れを伴う痛み

  • 高齢者・抗凝固中・皮下出血しやすい人など強揉みが不向きなケース

避ける/配慮

  • 皮膚疾患・感染・創傷・熱傷部位、明らかな浮腫・血栓疑い

  • 触覚アロディニア(触れるだけで痛む)は極軽刺激か別手段へ

  • 感覚鈍麻(熱傷・外傷の危険)/悪性腫瘍部位は専門判断


実施プロトコル(臨床/セルフ共通)

  • 体位・環境:楽な姿勢、静かな環境、ゆっくり鼻呼吸

  • 圧の目安:皮膚が“すべる”程度(皮丘がわずかに動く、皮膚が白くならない)。

  • 方向:痛部位の周囲から広く→局所へ。遠位→近位、末梢→中枢の順も有効。

  • テンポ1〜2Hz(毎秒1〜2往復)、30〜60秒/部位 × 2〜3セット

  • 評価:前後で痛み(NRS)・可動域・筋トーンを確認。痛み≦3/10を基準に負荷調整。

  • 併用:軽擦で鎮痛→関節モビライゼーション・ストレッチアクティブエクササイズの順が効率的。


ミニFAQ(よくある質問)

Q1. どれくらいの強さが正解?
A. **“羽ペン〜切手”**くらいの軽圧。痛気持ちいいは不要。心地よさと脱力が目安。

Q2. 何分やればいい?
A. 1部位30〜60秒を数セット。全体で5〜10分から。やり過ぎは逆効果になり得ます。

Q3. 自宅でやってもよい?
A. 可。入浴後や就寝前に呼吸合わせで行うと自律神経面の効果が出やすいです。

Q4. 揉み返しは出る?
A. 原理的に出にくい手技です。赤み・強い痛みが出るなら強すぎです。

Q5. 触れるだけで痛い人は?
A. 超微弱刺激(手を置くだけ→衣服越し軽擦→直皮膚)と段階化。別経路(温熱・呼吸法)を先に用いるのも◎。

Q6. 子どもや高齢者でも安全?
A. はい。とても軽い刺激で行えば安全性は高いです(禁忌部位は遵守)。


最終更新:2025-09-21