リハビリで筋力トレーニングを実施する機会は非常に多いですが、高齢者では筋肉痛を起こして動けなくなるといった事態に遭遇する場面も少なくありません。
そのため、今回は低負荷にも関わらず効果的に筋力を増強でき、かつ筋肥大を起こすこともできる方法について解説していきます。
筋肥大を起こさせるための負荷
筋肥大を起こすには最低でも1RM(1回しか上げられない重さ)の65%以上の負荷が必要とされています。
ただし、90%以上の高負荷では運動を何度も反復できずに必要量が確保できないため、65-90%の負荷で5-15回ほど反復することが最も効果的とされています。
量の確保が必要な理由として、筋肉内を低酸素状態に持っていくことで疲労を蓄積させ、筋線維を補修する筋サテライト細胞を活動させるためです。
筋サテライト細胞は筋線維から発せられる救援信号を感知し、その場にかけつけて筋線維を補修するようにベタベタと融合していきます。
この細胞は壊れた分よりもやや多めに補修作業をしてくれますので、それが結果的に筋線維を太くすることにつながります。
%1RM | RM | 主な効果 |
100 | 1 | 筋力 |
95 | 2 | |
93 | 3 | |
90 | 4 | |
87 | 5 | 筋肥大 |
85 | 6 | |
80 | 8 | |
77 | 9 | |
75 | 10-12 | |
70 | 12-15 | |
67 | 15-18 | |
65 | 18-20 | 筋持久力 |
60 | 20-25 | |
50 | 30~ |
低負荷で筋肥大を起こす方法
効果的に筋肥大を起こす方法として、筋肉内の血流を制限して酸素不足にする方法があります。その代表が加圧トレーニングです。
方法として、上腕又は大腿の基部を圧力センサーを内蔵した特別なベルトで加圧し、動脈流をゆるく抑え、静脈流を強く阻止するように調整します。
そうすることで効率的に酸素不足を起こすことができ、1RMの40%ほどの負荷で筋肥大を起こすことができるようになります。
通常のトレーニングでは、50%以下の負荷では筋肥大はまず起こることはありませんので、これはきわめて効果的な手段といえます。
実施する上での注意点として、負荷を大きくすると筋収縮のポンプ作用で血液が流れてしまい、かえって加圧の効果が薄れてしまうことになります。
必要なのはあくまで血流を阻害して低酸素状態を作ることであり、筋肉に高負荷だと勘違いさせて筋サテライト細胞に救援を送ることが重要です。
道具を使用せずに酸素不足を起こす方法
加圧トレーニングには道具を必要としますが、道具がなくても効果的に酸素不足にする方法があります。それが石井直方教授が提唱するスロトレです。
スロトレを簡単に説明すると、筋肉に常に力が入った状態を作ることにより、筋肉内の血流を制限させて低酸素状態を作り出す方法です。
例えば、ダンベルを持って肘関節の屈伸運動をする場合は、肘を伸ばしきらず、また肘を曲げすぎないようにして実施するようにします。
そうすることで筋肉が常に収縮した状態となり、筋肉は激しい運動をしたと錯覚してしまい、筋サテライト細胞に救援信号を送ります。
そして駆け付けた筋サテライト細胞は壊れてもいないのに指示通りに補修作業をしてくれて、筋肥大が起こるといったメカニズムになります。
この方法のメリットは、筋肉に高負荷をかけずに実施できるため、高齢者などはとくに翌日の筋肉痛で動けなくなるといったリスクが抑えられることにあります。
高齢者にお勧めの方法はスクワット
スロトレはあらゆる運動に応用が可能ですが、とくにお勧めなのはスクワットです。下肢全体に負荷をかけることができ、ノンロックの方法も簡単だからです。
ノンロックとは関節を伸ばしきらない(または曲げきらない)ことで、筋肉を常に収縮した状態を作り出すための方法です。
スクワットの場合は膝を伸ばしきらずに反復するだけなので、高齢者も容易に理解しやすいかと思います。
具体的な方法として、3秒間かけてゆっくりと腰を下ろしていき、3秒間かけてゆっくりと膝を伸ばしていきます。(もちろん完全には伸ばさない範囲で)
負荷の基準としては、反復回数が5-10回ほどで下肢がだるくなり、継続が難しくなる程度が目安になります。
インターバルを置きながら4セットほど実施し、週三日のトレーニングを継続していくことで劇的な効果が期待できます。
正しく行えている場合は、筋肉が熱く張るような感覚が得られ、効果的なトレーニングができたという実感が湧きます。
無理をしすぎるとスロトレと言えども筋肉痛を起こす場合がありますが、高齢者の場合は徐々に負荷量を上げていきながら実施してみてください。
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