上腕二頭筋腱断裂のリハビリ治療

上腕二頭筋腱断裂の概要

上腕二頭筋

  • 上腕二頭筋は長頭(関節上結節)と短頭(烏口突起)から起こり、橈骨粗面前腕筋膜に停止します。

  • 起始側が切れると近位腱断裂(多くは長頭腱)、停止側が切れると遠位腱断裂

  • 断裂直後から上腕の“力こぶ”が下方に移動するPopeye徴候が典型。視診で見落としにくい所見です。

上腕二頭筋腱断裂

引用元:古東整形外科内科

断裂しても生活できる?

  • 長頭腱(近位)断裂:痛みは数週で軽快。肘屈曲・前腕回外の筋力は約10–20%低下に留まることが多く、高齢者や活動量が低い場合は保存療法が選択されます。

  • 遠位腱断裂:肘屈曲で40%超、回外で50%超の筋力低下+持久力低下を生じやすく、原則手術適応。頻度はまれ(近位に比べ極少数)。


術後リハビリの標準的な流れ(遠位修復の一例)

※医師の指示・縫合法で前後します。痛みや腫脹がある日は無理をしないこと。

0–1週:直後期

  • 固定:シーネで回外・肘90°屈曲(腱を弛める肢位)。

  • 管理:常時アイシング、浮腫管理。

  • 運動:指・手関節・肩関節の患部外可動運動、軽いパンピング

2–4週:固定除去移行期

  • 固定:日中のみシーネ。リハ時は外す。

  • 可動域:肘の自動介助→自動。痛みが出ない範囲で漸増。

  • 筋力:肘屈曲・回外の等尺性から開始、徐々に等張性へ。

  • ポイント:はじめは回内位で屈曲(上腕二頭筋負荷を抑える)→中間位→回外位へ段階的に。

5–10週:運動期

  • 可動域:必要に応じて他動運動を追加し末端まで回復。

  • 筋力:壁押し腕立て・バルーンプレス等の自重負荷を漸増。

  • ケア:リハ後アイシング。

8–12週:復帰準備~復帰

  • 競技特異的ドリルを軽負荷から再開。

  • 目安:肘屈曲筋力・握力が健側比80%以上、痛み・腫脹なしで日常強度の課題完遂。

  • 完全復帰の目安:術後約12週(作業・競技内容で調整)。


シーネ固定のコツ

  • 肩の大振りな屈曲・外転でも腱張力が上がるため肩の使い過ぎに注意

  • 就寝時は前腕回外・肘90°屈曲を保ちやすい姿勢づくり(枕やタオルで支持)。


保存療法(主に近位・長頭腱断裂)

  • 痛みの管理(アイシング・短期間の安静→早期から肩・肘の痛みない範囲の可動域)。

  • 代償となる上腕筋・腕橈骨筋・回外筋を中心に段階的筋力強化

  • 見た目の左右差(力こぶの位置)は残るが、日常生活は多くが自立可能


鑑別・評価のヒント

  • 視診・触診に加え、フックテスト(遠位腱)やスピードテスト/ヤーガソン(長頭腱機能)で補助。

  • 断裂の程度や再付着部の状態把握に超音波MRIが有用。


よくある質問(Q&A)

Q1. 断裂は自然にくっつきますか?
A. 近位長頭は機能的に代償されやすい一方、解剖学的な再付着は基本的に期待しにくいです。遠位は機能損失が大きく、早期手術が推奨されます。

Q2. いつから筋トレできますか?
A. 目安は2~4週で等尺性5週以降で軽い等張性/自重8週以降で競技特異的。必ず主治医の許可と痛みの反応で調整します。

Q3. 仕事復帰の目安は?
A. 事務等は数週、重量物の取り扱い・上肢酷使は12週以降を目安に段階復帰。安全第一で。

Q4. 断裂の予防は?
A. 肘屈曲・回外の急激な高負荷や、デッドリフト/引き動作時の回外位での急牽引を避ける。十分なウォームアップと握力補助具の活用も有効です。


最終更新:2025-10-05