上腕二頭筋腱断裂のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
上腕二頭筋腱断裂の概要
上腕二頭筋は長頭と短頭から構成される二頭筋であり、長頭は肩甲骨の関節上結節より、短頭は肩甲骨の烏口突起先端より起始します。
上腕前面の表層を下行しながら、橈骨粗面と前腕筋膜に停止します。
上腕二頭筋の起始部が断裂した場合を近位腱断裂、停止部が断裂した場合を遠位腱断裂と呼びます。
断裂した場合は、肘を屈曲した際に健側とは明らかに違った「力こぶ」ができるので、まず見落とすことはありません。
断裂した状態では引っ張られる作用がないため、力こぶは重力に逆らえずに下の方に落ちていきます。
引用元:古東整形外科内科 |
断裂していても生活できる
近位腱(長頭腱)の完全断裂では、受傷時は痛みが出て不自由さがありますが、徐々に痛みは薄れていき、日常生活なら問題なく過ごせるようになります。
長頭腱は断裂しても、肘関節の屈曲と回外の筋力は10-20%ほど消失する程度なので、高齢者では保存療法を選択する場合も多いです。
それに対し、遠位腱の断裂では長頭と短頭が障害されるので、肘関節の屈曲で40%、回外では50%以上もの筋力低下をきたします。
また、筋持久力に至っては更なる低下を生じてしまいます。そのため、遠位腱断裂の場合は全例で手術適応となります。
遠位腱が断裂するケースは非常に稀で、全体の30例に1例程度です。
リハビリテーション
1.術直後(0-1週) | |
筋力強化 | パンピング運動、患部外運動 |
患部固定 | シーネ固定 |
物理療法 | 常時アイシング |
2.固定除去移行期(2-4週) | |
筋力強化 | 等尺性運動、等張性運動 |
関節運動 | 肘関節自動介助運動・自動運動 |
患部固定 | 日中シーネ固定 |
物理療法 | 渦流浴 |
3.運動期(5-10週) | |
筋力強化 | ウォールプッシュアップ、バルーン運動 |
関節運動 | 肘関節他動運動 |
物理療法 | アイシング(リハビリ後) |
シーネ固定の方法
手術後は、修復した腱に負担をかけないように上腕二頭筋が緩む短縮位(前腕回外・肘関節屈曲90度位)でシーネ固定を行います。
術後の1-2週までは終日固定とし、2-4週までは日中固定とします。5週より完全除去となりますが、状態によっては前後する場合もあります。
あくまで上腕二頭筋腱に負担をかけないことが目的なので、肩関節の屈曲なども負担をかける要因となるので注意します。
運動療法の流れについて
術後2週からは、リハビリ時のみはシーネ固定を除去し、肘関節の自動介助運動や等尺性屈曲運動を用いて拘縮の予防や改善を図ります。
徐々に可動範囲を拡げていきながら、筋力トレーニングも等尺性収縮から等張性収縮へ、さらに抵抗運動へと負荷を上げていきます。
前腕回内位にて肘関節を屈曲することで上腕二頭筋の収縮を抑えることもできますので、段階に合わせながら徐々に中間位、回外位へと移行します。
スポーツ復帰時期について
修復腱の癒合は術後5週ほど完了しますので、そこからは他動運動による関節可動域拡大を図り、筋力トレーニングも自重を利用していきます。
負荷としては、まずは壁に両手を付いて実施する腕立て伏せを実施、徐々に上体の角度を倒していき、負荷を高めるようにします。
最終的には通常の床に手をついた腕立て伏せが行えるレベルを目指していきます。
術後8-10週よりスポーツの特異的動作を練習していき、徐々に負荷を高めていきながら状態を確認していきます。
完全復帰は術後12週を目安とし、具体的な数値としては肘関節屈曲や握力が健側比で80%以上に回復していることを目標にします。