人工膝関節全置換術の概要
インプラントの構成(4パーツ)
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大腿骨コンポーネント:大腿骨側の金属キャップ
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脛骨ベースプレート:脛骨側の金属台座
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ポリエチレンインサート:軟骨・半月板の役割を担う衝撃吸収材
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膝蓋骨コンポーネント(症例により):膝蓋骨裏面のポリエチレン
設計は“制動性”の違いで数種類(CR/PS/CSなど)。靭帯温存の可否や骨変形の程度で選択されます。
代表的な合併症と予防
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深部静脈血栓症(DVT)/肺塞栓:TKA後は発生リスクが高め。
早期離床・足関節ポンピング・弾性ストッキング/間欠的空気圧迫・抗凝固療法を組み合わせて予防。 -
感染:創部の発赤・発熱・滲出に注意。
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スティフネス(可動域制限):早期からの可動域練習と疼痛管理が鍵。
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インプラント不適合/不安定性:サイズ・アライメント・軟部組織バランスで最適化。
手術アプローチの要点(一般的な例)
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皮切は前内側(約10–12 cm)。
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内側膝蓋支帯・前方関節包へ到達し、膝蓋骨を外側へ反転して視野を確保。
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骨切り・軟部バランス調整後、試適→本固定。
(実際の切離・縫合範囲は術式・個体差で変わります)
入院〜初期リハの流れ(目安)
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入院期間:おおむね2–4週(施設方針や術後経過で前後)。
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術翌日〜:
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疼痛・腫脹管理(冷却・薬物療法)
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可動域練習:CPM+他動/自動介助で伸展~屈曲を徐々に拡大
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筋力:大腿四頭筋セッティング、殿筋・下腿筋の等尺収縮
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離床・歩行:平行棒→杖・歩行器へ段階的に
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日常生活動作(ADL):トイレ・更衣・階段の練習を並行
脱臼指導はTHAほど厳格ではありません。膝を“地面に強打しない/過度な捻りを避ける”など基本的注意で十分なことが多いです。
可動域と“癒着”への対応
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TKAは構造上屈曲140°相当まで設計されますが、術前の拘縮・腫脹・痛みが回復を左右。
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とくに膝蓋上包の癒着が屈曲制限の大きな要因。早期からの滑走確保(膝蓋骨モビライゼーション、穏やかな反復屈伸)が重要。
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皮膚〜皮下の瘢痕癒着も伸展/屈曲を阻害するため、創治癒後に瘢痕ケアを追加。
歩行・荷重の進め方(実践ヒント)
医師指示(骨質・固定性・疼痛)を最優先に、体重計を使ったバイオフィードバックで荷重感覚を学習。
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平行棒から開始→歩行器/松葉杖→T杖→自立へ。
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目安(例):平行棒で部分荷重→杖で漸増→疼痛・腫脹の遷延がなければ数週で実用歩行へ。
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階段:上りは健側から、下りは術側から(上り“良い足先”、下り“悪い足先”の原則)。
術後の痛み:よくある原因と対処
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急性炎症・血腫:膝は股に比べて血液の吸収が遅く、熱感・腫脹・重だるさが長引きがち。
→ 自動介助の反復運動で血流改善、挙上・冷却で腫れを管理。 -
軟部組織バランス/サイズ不整合:持続痛・違和感が強ければ主治医に早めに共有。調整で改善する場合あり。
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筋力低下・歩容の乱れ:大腿四頭筋・殿筋の再教育と伸展位立脚の獲得で負荷分散。
退院後の自主トレ(例)
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毎日:膝蓋骨の優しいモビライゼーション、伸展保持(タオル足載せ)、自動介助屈伸(痛み0–3/10)
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筋力:クワッドセッティング→SLR→椅子立ち座り→軽いレッグプレス相当
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持久:平地歩行 → エアロバイク(サドル高め・低負荷)
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腫れ管理:運動後はアイシング+挙上
よくある質問(Q&A)
Q1. どれくらいで痛みは軽くなりますか?
個人差がありますが、多くは数週間で日常痛が軽減。腫脹は1–3か月続くことも。無理せず**“少しずつ毎日”**が近道です。
Q2. 正座や深いしゃがみ込みは可能?
インプラントは深屈曲に対応しますが、術前拘縮・瘢痕・腫れで制限されることが多いです。段階的に可動域を伸ばし、痛みが出ない範囲で。
Q3. どの杖をいつまで使えば良い?
疼痛・筋力・バランスで決めます。歩行がびっこにならないことを優先し、安全第一で段階的に軽量化します。
Q4. 血栓が心配…自分でできる対策は?
足首ポンピング・足趾グーパー・こまめな歩行、水分摂取、弾性ストッキングの正しい着用を継続。息切れ/胸痛/片脚の強い腫れが出たら至急受診。
Q5. いつスポーツに戻れますか?
平地ウォーキング→バイク→水中歩行は早期から。ジョグ/ゴルフは多くが3–6か月で検討(主治医判断)。跳躍・接触競技は慎重に。
最終更新:2025-10-05


