人工膝関節全置換術後(TKA)のリハビリ治療

人工膝関節全置換術の概要

TKA(Total Knee Arthroplasty)は、変形性膝関節症や関節リウマチなどで摩耗・変形した関節面を金属(合金)とポリエチレンで置き換え、痛みの軽減と機能回復をめざす手術です。
インプラントや術式の進歩により、20年以上の長期成績が期待できる症例も珍しくありません(活動量・骨質・アライメントで個人差あり)。

インプラントの構成(4パーツ)

全人工膝関節置換術|TKA

  • 大腿骨コンポーネント:大腿骨側の金属キャップ

  • 脛骨ベースプレート:脛骨側の金属台座

  • ポリエチレンインサート:軟骨・半月板の役割を担う衝撃吸収材

  • 膝蓋骨コンポーネント(症例により):膝蓋骨裏面のポリエチレン

設計は“制動性”の違いで数種類(CR/PS/CSなど)。靭帯温存の可否や骨変形の程度で選択されます。


代表的な合併症と予防

  • 深部静脈血栓症(DVT)/肺塞栓:TKA後は発生リスクが高め。
    早期離床・足関節ポンピング・弾性ストッキング/間欠的空気圧迫・抗凝固療法を組み合わせて予防。

  • 感染:創部の発赤・発熱・滲出に注意。

  • スティフネス(可動域制限)早期からの可動域練習疼痛管理が鍵。

  • インプラント不適合/不安定性:サイズ・アライメント・軟部組織バランスで最適化。


手術アプローチの要点(一般的な例)

  • 皮切は前内側(約10–12 cm)。

  • 内側膝蓋支帯・前方関節包へ到達し、膝蓋骨を外側へ反転して視野を確保。

  • 骨切り・軟部バランス調整後、試適→本固定
    (実際の切離・縫合範囲は術式・個体差で変わります)

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入院〜初期リハの流れ(目安)

  • 入院期間:おおむね2–4週(施設方針や術後経過で前後)。

  • 術翌日〜

    • 疼痛・腫脹管理(冷却・薬物療法)

    • 可動域練習:CPM+他動/自動介助で伸展~屈曲を徐々に拡大

    • 筋力:大腿四頭筋セッティング、殿筋・下腿筋の等尺収縮

    • 離床・歩行:平行棒→杖・歩行器へ段階的に

  • 日常生活動作(ADL):トイレ・更衣・階段の練習を並行

脱臼指導はTHAほど厳格ではありません。膝を“地面に強打しない/過度な捻りを避ける”など基本的注意で十分なことが多いです。


可動域と“癒着”への対応

  • TKAは構造上屈曲140°相当まで設計されますが、術前の拘縮・腫脹・痛みが回復を左右。

  • とくに膝蓋上包の癒着が屈曲制限の大きな要因。早期からの滑走確保(膝蓋骨モビライゼーション、穏やかな反復屈伸)が重要。

  • 皮膚〜皮下の瘢痕癒着も伸展/屈曲を阻害するため、創治癒後に瘢痕ケアを追加。


歩行・荷重の進め方(実践ヒント)

医師指示(骨質・固定性・疼痛)を最優先に、体重計を使ったバイオフィードバックで荷重感覚を学習。

  • 平行棒から開始歩行器/松葉杖T杖自立へ。

  • 目安(例):平行棒で部分荷重→杖で漸増→疼痛・腫脹の遷延がなければ数週で実用歩行へ。

  • 階段:上りは健側から、下りは術側から(上り“良い足先”、下り“悪い足先”の原則)。


術後の痛み:よくある原因と対処

  • 急性炎症・血腫:膝は股に比べて血液の吸収が遅く、熱感・腫脹・重だるさが長引きがち。
    自動介助の反復運動で血流改善、挙上・冷却で腫れを管理。

  • 軟部組織バランス/サイズ不整合:持続痛・違和感が強ければ主治医に早めに共有。調整で改善する場合あり。

  • 筋力低下・歩容の乱れ大腿四頭筋・殿筋の再教育と伸展位立脚の獲得で負荷分散。


退院後の自主トレ(例)

  • 毎日:膝蓋骨の優しいモビライゼーション、伸展保持(タオル足載せ)、自動介助屈伸(痛み0–3/10)

  • 筋力:クワッドセッティング→SLR→椅子立ち座り→軽いレッグプレス相当

  • 持久:平地歩行 → エアロバイク(サドル高め・低負荷)

  • 腫れ管理:運動後はアイシング+挙上


よくある質問(Q&A)

Q1. どれくらいで痛みは軽くなりますか?
個人差がありますが、多くは数週間で日常痛が軽減。腫脹は1–3か月続くことも。無理せず**“少しずつ毎日”**が近道です。

Q2. 正座や深いしゃがみ込みは可能?
インプラントは深屈曲に対応しますが、術前拘縮・瘢痕・腫れで制限されることが多いです。段階的に可動域を伸ばし、痛みが出ない範囲で。

Q3. どの杖をいつまで使えば良い?
疼痛・筋力・バランスで決めます。歩行がびっこにならないことを優先し、安全第一で段階的に軽量化します。

Q4. 血栓が心配…自分でできる対策は?
足首ポンピング・足趾グーパー・こまめな歩行、水分摂取、弾性ストッキングの正しい着用を継続。息切れ/胸痛/片脚の強い腫れが出たら至急受診

Q5. いつスポーツに戻れますか?
平地ウォーキング→バイク→水中歩行は早期からジョグ/ゴルフは多くが3–6か月で検討(主治医判断)。跳躍・接触競技は慎重に。


最終更新:2025-10-05