人工膝関節全置換術後(TKA)のリハビリ治療

人工膝関節全置換術の概要

人工膝関節全置換術(TKA: Total Knee Arthroplasty)は、変形性膝関節症(KOA)、関節リウマチ(RA)、大腿骨顆部特発性骨壊死などによって破壊・変形した関節面を、金属やポリエチレン製のインプラントで置き換える手術です 。痛みの劇的な軽減と、歩行能力を含む日常生活動作(ADL)の回復を目的としています 。


インプラントの構成と設計

インプラントは通常、以下の4つのパーツで構成されます 。

  1. 大腿骨コンポーネント: 大腿骨遠位端を覆う金属製のキャップ。
  2. 脛骨ベースプレート: 脛骨近位端に固定される金属製の台座。
  3. ポリエチレンインサート: 大腿骨と脛骨の間で軟骨や半月板の役割を果たす衝撃吸収材。
  4. 膝蓋骨コンポーネント: 膝蓋骨の裏面に設置されるポリエチレン(症例により選択)。

全人工膝関節置換術|TKA

また、靱帯の温存状況や制動性の違いにより、以下のようなタイプが選択されます 。

  • CR型(後十字靱帯温存型): 自身の後十字靱帯(PCL)を温存し、より生理的な動きを再現する。
  • PS型(後十字靱帯代用型): PCLを切除し、インプラントのカム機構で前後安定性を確保する。
  • 拘束型: 靱帯の機能が著しく損なわれている場合や、再置換術などで使用される安定性の高いタイプ 。

手術アプローチと軟部組織への影響

一般的な皮膚切開は膝前面に約10~12cm行われます 。代表的な進入法として、内側広筋を一部切開する内側膝蓋切開(parapatellar approach)subvastus approachなどがあります 。

手術では病巣部を露出するために軟部組織を深層まで展開するため、術後1週間程度は炎症が活発であり、適切な**RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)**による腫脹管理が極めて重要となります 。

代表的な合併症と予防対策

  • 深部静脈血栓症(DVT)および肺塞栓症(PTE): 下肢の手術後はリスクが非常に高く、早期離床、足関節ポンピング運動、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法の併用が強く推奨されます 。
  • 感染(SSI): 術後30日以内(インプラントがある場合は90日以内)に起こる細菌感染に注意が必要です 。
  • インプラントの弛み・摩耗: 長期的な課題であり、ポリエチレンの摩耗粉が骨吸収を引き起こす「弛み」の原因となることがあります 。

入院〜初期リハビリテーションの進め方

現在のリハビリは、廃用症候群を防ぎ早期退院を可能にするため、術後早期からの離床と荷重が一般的です 。

  • 術後~数日: 痛みや腫れを管理しつつ、ベッドサイドでのクアドセッティング(大腿四頭筋の等尺性収縮)や足関節運動を開始します 。
  • 可動域練習: 持続的多動運動器(CPM)や、セラピストによる他動・自動介助運動を行い、伸展および屈曲可動域を段階的に拡大します 。
  • 筋力強化: 大腿四頭筋だけでなく、殿筋群や下腿筋の訓練も並行します。漸増的な抵抗運動が筋力回復に有効です 。
  • 歩行練習: 平行棒内での歩行から開始し、歩行器、杖、独歩へと進めます 。

脱臼指導はTHAほど厳格ではありません。膝を“地面に強打しない/過度な捻りを避ける”など基本的注意で十分なことが多いです。


可動域制限と「癒着」への対応

TKA後の可動域獲得を阻害する最大の要因の一つは、組織の**「癒着」**です 。

  • 膝蓋上包の滑走不全: 膝蓋上包は膝屈曲時に折りたたまれる構造ですが、ここが癒着すると著しい屈曲制限が生じます 。早期からの膝蓋骨モビライゼーションが重要です。
  • 皮膚・皮下組織の瘢痕: 術創部の皮膚が深層の組織と癒着すると、膝を曲げる際の皮膚の伸びが制限され、痛みや突っ張り感の原因となります 。創部周辺の皮膚を優しく動かすケアが効果的です。


術後の痛みと歩行のヒント

  • 痛みの原因: 急性期の炎症、血腫のほか、内側膝蓋下枝(伏在神経の分枝)の損傷による知覚異常やピリピリ感が生じることがあります 。また、後内側支持機構の柔軟性が低いと、伸展時の膝裏の痛みにつながります 。
  • 荷重感覚の学習: 体重計を用いて、術側にどれくらい荷重できているかを視覚的に確認する練習(バイオフィードバック)が実用的です。
  • 階段昇降: **「上りは良い足(健側)から、下りは悪い足(術側)から」**という原則を守ることで、膝への負担を最小限に抑えられます。
  • 足関節の影響: 長期間膝が曲がっていた患者は足関節の可動域も低下していることが多く、TKA後に足首が硬いと歩行に支障が出るため、足首の柔軟性チェックも欠かせません 。

退院後の自主トレーニング例

退院後も**「少しずつ毎日」**継続することが、20年以上の長期成績を維持する鍵となります 。

  • 毎日: 膝蓋骨のセルフモビライゼーション、タオル潰し運動(伸展保持)、痛みが出ない範囲での屈伸 。
  • 筋力: 椅子からの立ち座り、横向きでの脚上げ(外転筋訓練) 。
  • 持久力: 平地ウォーキング、サドルを高めに設定したエアロバイク(低負荷) 。
  • ケア: 運動後に熱感や腫れがある場合は、15〜20分程度のアイシングと挙上を行います 。

よくある質問(Q&A)

Q. 正座はできますか?
A.インプラントの設計上は深屈曲が可能ですが、術前の拘縮や術後の瘢痕の状態に左右されます 。無理な深屈曲はインプラントへの負荷を高めるため、主治医と相談しながら段階的に進めてください。

Q. スポーツ復帰の目安は?
A.ウォーキングや水泳は早期から可能ですが、ゴルフやジョギングは3〜6か月以降が目安です。跳躍や激しい接触を伴うスポーツは、インプラントの摩耗や破損のリスクがあるため慎重な判断が必要です 。


最終更新:2026-04-16