人工膝関節全置換術後のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。
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人工膝関節全置換術の概要
人工膝関節全置換術(TKA)は、摩耗した大腿骨や脛骨にかぶせ物をして、膝の痛みをとるための手術になります。
TKAの耐用年数は10〜20年といわれていましたが、近年では手術や素材の進歩もあり、20年以上は持つとされています。
人工膝関節について理解する
変形性膝関節症や関節リウマチなどによって、荷重面に摩耗や欠損が認められる場合に適応されるTKAですが、その構成要素は以下の四つになります。
- 大腿骨コンポートネント(大腿骨の関節面を構成する金属部分)
- 膝蓋骨コンポートネント(膝蓋骨の裏側に貼り付けて関節軟骨の代わりとなるポリエチレン部分)
- 脛骨ベースプレート(脛骨と関節面を構成する金属部分)
- ポリエチレンプレート(半月板や関節軟骨の代わりとなるポリエチレン部分)
手術による合併症
TKA術後の深部静脈血栓症(DVT)のリスクは非常に高く、発症頻度は20〜30%と報告されています。
とくにTKAは血栓が近位の脈で発生するため、発症すれば肺塞栓のリスクが高くなります。
DVTの発生予防には、早期離床や下肢自動運動、弾性ストッキングの着用や観血的空気亜圧迫法、抗凝固療法などが推奨されています。
TKAで切開される部位
一般的にTKAでは前内側から侵入していくことが一般的であり、皮膚の切開は10〜12㎝ほどです。
皮膚と脂肪層を切開したのち、内側膝蓋支帯を完全に切離し、次いで内側広筋の膝蓋骨付着部を腱膜板あたりまで縦に切開します。
膝蓋靭帯に付着する膝蓋下脂肪体を剥離し、さらに奥にある前方関節包を切離し、膝蓋骨を外側に脱臼させた状態で手術を開始していきます。
リハビリテーション
人工膝関節全置換術の入院期間は平均で3〜4週間です。
その間にCPMを用いた膝関節の可動域運動、筋力トレーニング、日常生活動作練習、歩行練習などを実施していきます。
脱臼防止に対する指導も実施しますが、THAと比較して脱臼リスクは非常に低いため、膝関節を地面に強くぶつける以外は問題ありません。
人工膝関節はその構造上から140度まで曲げることが可能ですが、曲げすぎて脱臼するということはまずないです。
歩行練習について
術後翌日より歩行練習は可能となりますが、通常は平行棒内から開始し、徐々に荷重量を増やしていきながらT杖に移行していきます。
荷重量に関しては、医師と相談しながらになりますが、基本的には疼痛のない範囲で実施していくことになります。
以下に、荷重練習の方法と荷重量の目安を記載します。
方法 | 荷重(目安) |
平行棒内 | 20% |
松葉杖 | 33% |
ロフストランド杖 | 67% |
Q杖 | 70% |
T杖 | 75% |
平行棒内の荷重(目安)は、つま先のみを接地した場合になります。
体重患者に荷重量を覚えてもらいながら練習していくことが推奨されるので、体重計を用いながら行うことが大切です。
術後の痛みの原因
術後の主な疼痛は炎症によるものですが、膝関節は股関節の置換術に比べて出血が吸収されにくく、炎症が長引く傾向にあります。
その場合、関節運動を自動介助にて繰り返すことにより血流が促進され、痛みや熱感が軽減します。
また、炎症が軽減しているにも関わらず痛みが持続する場合は、関節のマッチングが不良となっている可能性もあります。
私が以前に担当した患者では、サイズが少し大きすぎたようで、ひと回り小さいサイズに変更したら劇的に痛みが改善したというケースもありました。
癒着に対する治療
術後の問題となりやすいのが組織間の癒着です。
その中でも注意すべきは、①皮膚から皮下組織間の癒着、②膝蓋上包の癒着になります。
術後よりCPMにて積極的な可動域運動が行われるのは、それらの癒着を最小限に抑えて、屈曲可動域を十分に獲得するといった目的があります。
膝蓋上包は膝関節が伸展時には二重に折りたたまれて重なり合っているため、癒着が生じるとそれが開かなくなって重度の屈曲制限をきたします。