仙腸関節の概要
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仙腸関節(SIJ)は仙骨×腸骨の平面関節。前方は前仙腸靱帯、後方は後仙腸靱帯で強固に連結。
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動きは微小だが滑液をもち“動的関節”。関節面は凹凸が噛み合い、**可動域は1–2mm/角度1–2°**程度。
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ニューテーション=仙骨前傾+腸骨後傾(関節を締める)、カウンターニューテーション=仙骨後傾+腸骨前傾(関節を緩める)。
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カウンターニューテーションは後仙腸靱帯がブレーキ。後仙腸靱帯と連結する多裂筋表層も間接的に関与。
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症状と痛みの分布
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典型は仙腸関節線上の殿部痛。
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放散痛:**大腿外側痛(約4割)/鼡径部痛(約2割)**が併発し得る。
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荷重(立脚)で増悪/跛行も。急性ぎっくり腰の一部は**仙骨が後傾位でロック(カウンターニューテーション)**して発症。
評価(臨床での当たりの付け方)
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誘発テスト
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Patrick(FABER):仰臥位、患側を胡座位にして膝を床方向へ。上方SIJにストレス→前仙腸靱帯/腸骨筋の圧痛を伴いやすい。
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Gaenslen:仰臥位、非患側股屈曲保持、患側をベッド外で伸展。下方SIJにストレス→後仙腸・仙結節靱帯の圧痛を伴いやすい。
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触診・圧痛:靱帯付着・仙腸関節裂隙に限局圧痛。
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マルアライメント:ASIS高低差/機能的下肢長差を確認(長い側=腸骨前傾/SIJカウンターニューテーションの目安)。
※下肢長差は“機能的差”のスクリーニング。最終判断は疼痛再現性と複合所見で。
よくある背景と関連因子
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股関節伸展・内旋制限:骨頭が臼蓋に潜れず骨盤前傾代償→SIJカウンターに偏りやすい。
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関与組織:**腸骨筋・大腿直筋(前方関節包)**の短縮。
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股屈曲拘縮:大殿筋が働きにくいのに筋緊張は高値、TFL・中殿筋前部も過緊張→腸脛靭帯の慢性硬化へ。
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性差・年齢
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女性(20–30代・産前産後):ホルモンで靱帯弛緩→不安定性型が多い。
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男性(40–70代):柔軟性低下・筋力低下。高齢ではSIJ OAで可動性消失し、逆にSIJ痛は減ることも。
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運動学の要点(何が締まり、何が緩む?)
ニューテーション(締める方向)
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促進:寛骨後傾筋群(外腹斜・大殿筋・ハム/外転筋後部)、仙骨前傾筋群(多裂・脊柱起立筋)
カウンターニューテーション(緩む方向)
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促進:寛骨前傾筋群(内腹斜・大腿直筋・TFL/外転筋前部・腸骨筋)
仙腸関節障害の多くはカウンター偏位。よってニューテーション方向を再学習し、多裂筋を“最優先”で使えるようにする。
リハビリ戦略(実践プロトコル)
1) 痛み期の方針
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荷重痛の回避:片脚立脚・長時間立位を制限。
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座位指導:骨盤後傾で増悪する例が多い→軽い前傾座位、ランバーサポート活用。長時間座位は定期的に立位でリセット。
2) 姿勢・運動再教育
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骨盤前方・後傾のコントロール練習(座位・四つ這い)。
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四つ這いで床を押し胸椎屈曲をしっかり出せるように(骨盤の過後傾代償を減らす)。
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胸郭—骨盤の協調:胸郭が動かないと骨盤で代償→SIJへ負担集中。
3) 多裂筋(特に腰多裂)を“使える状態”に
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Hand–Knee(四つ這いでの上下肢挙上):
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骨盤軽前傾を保持し、脊柱起立筋の過収縮を抑えつつ多裂にトルクを通す。
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10回×2–3セット/日。痛みのない可動域で。
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4) 伸張性・モビリティの回復
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股伸展モビリティ:腸骨筋・大腿直筋・前方関節包のリリース/ストレッチ。
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股内旋モビリティ:内旋制限は伸展時の骨頭インピードを招く→軽負荷で反復。
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TFL/腸脛靭帯の過緊張緩和:短縮は外側痛〜膝外側痛の温床。
5) 生活指導・装具
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重い物の挙上:骨盤前傾を保持、股関節主導で。
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産前産後:一時的に骨盤ベルトでSIJのマイクロモーションを抑制。
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長時間座位を避け、1時間毎に立位で骨盤前傾—中間位へ再セット。
簡易セルフチェック(目安)
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ASIS高低差/機能的下肢長差+Patrick/Gaenslenの疼痛再現が揃えばSIJ由来を強く示唆。
※画像だけでは決められません。症状再現性を最優先に。
よくある質問(Q&A)
Q1. 仙腸関節はほとんど動かないのに、なぜ痛む?
A. 微小でも靱帯・関節包の侵害受容器が豊富。“締め—緩み”の偏りや負荷集中で炎症・圧痛が生じます。
Q2. 腰の中央ではなく“片側のお尻”が痛い。椎間関節との違いは?
A. どちらも片側のことがあります。SIJは分節性の殿部痛+立脚時増悪が多く、Patrick/Gaenslenで再現しやすいのが目安。
Q3. ぎっくり腰の一部がSIJ由来って本当?
A. はい。仙骨後傾ロック(カウンター)で急性疼痛になる例があります。まずは荷重制限とニューテーション誘導が有効。
Q4. 産後の骨盤ベルトはいつまで必要?
A. **痛みと不安定性が落ち着くまでの“橋渡し”**として短期使用。多裂・殿筋群の再学習を並行し、段階的に卒業します。
Q5. 画像で“ズレ”と言われ不安です。治る?
A. 画像所見=痛みの原因とは限りません。機能(痛みの再現・姿勢/動作)を整えることで多くは保存的に改善します。
最終更新:2025-10-05






