仙腸関節(SIJ)の概要
仙腸関節は仙骨と腸骨による平面関節であり、前方の前仙腸靱帯および後方の後仙腸靱帯によって強固に連結されています 。
- 動的関節としての特性: わずかな可動性(距離1–2mm/角度1–2°程度)を有し、歩行時の体幹重量と床反力の負担を分散させる緩衝作用を担っています 。
- 締まりと緩みのポジション:
- ニューテーション(うなずき運動): 仙骨前屈+腸骨後回旋。関節面が適合し、安定性が高まる「締まりの位置(CPP)」です 。
- カウンターニューテーション(起き上がり運動): 仙骨後屈+腸骨前回旋。関節が緩む「緩みの位置(LPP)」であり、後仙腸靱帯がこの動きを制限するブレーキとなります 。後仙腸靱帯と連結する多裂筋表層線維も間接的に関与します 。
症状と痛みの分布
典型的な症状は、仙腸関節線上(特にPSIS付近)の局所的な殿部痛です 。
- 関連痛の広がり: 仙腸関節由来の痛みは分節的に現れ、大腿外側(約4割)や鼡径部(約2割)、あるいは下腿まで痛みが走ることが報告されています 。
- 増悪因子: 片脚立脚や歩行などの荷重動作、階段昇降、長時間の立位・座位で増悪しやすいのが特徴です 。
- 急性転帰(ぎっくり腰): 急性腰痛の一部は、仙骨が後傾位(カウンターニューテーション方向)でロックされることで発症すると考えられています 。
臨床的評価(当たりの付け方)
画像診断(X線、CT、MRI)では微小な不適合を捉えることが難しいため、症状の再現性を確認する徒手テストが優先されます 。
- 疼痛誘発テスト:
- Patrick (FABER): 股関節の開排強制により、上方および前方の靱帯・関節包にストレスを加えます 。
- Gaenslen: 股関節伸展により、下方および後方の靱帯(後仙腸・仙結節靱帯)へストレスを加えます 。
- その他: Thigh thrust(大腿部への長軸圧迫)やCompression(骨盤圧迫)など、3つ以上が陽性であればSIJ由来の可能性が高いとされます 。
- マルアライメントの確認: ASISの高低差や機能的下肢長差を確認します。仰臥位で足が長く見える側は、腸骨が前方回旋(カウンターニューテーション偏位)している目安となります 。 圧痛点の触診: PSIS、長後仙腸靱帯、仙結節靱帯、腸骨筋などの付着部に限局した圧痛を認めます 。
仙腸関節の不安定性や機能不全は、隣接する股関節や体幹の機能不全を伴う「スパイラル(連鎖)」として現れます 。
- 股関節の可動域制限: 股関節の伸展・内旋制限は、歩行時に腸骨の前方回旋を強要し、SIJを緩みの位置(カウンターニューテーション)へ偏位させます 。
- 関与組織の短縮: **腸骨筋、大腿直筋、大腿筋膜張筋(TFL)**の過緊張は、骨盤の前傾(腸骨前回旋)を助長し、関節の不適合を招きます 。
- 筋出力の低下: 大殿筋や多裂筋(特に腰部多裂筋)の筋力低下・活動遅延は、関節を締める力(force closure)を弱め、不安定性の原因となります 。
1) 疼痛緩和と姿勢修正
- 荷重負荷の管理: 痛みがある時期は、片脚立脚や長時間の立位を制限し、剪断力を減らします 。
- 座位姿勢の是正: 骨盤が後傾し、腰椎が後弯する「仙骨座り」はSIJに最大級の負担をかけます。坐骨で体重を受け、腰椎の生理的前弯を保つ「良肢位」での座位を徹底します 。
2) 多裂筋と大殿筋の再教育
- Hand–Knee(四つ這い運動): 四つ這いでの上下肢挙上は、脊柱起立筋の過活動を抑えながら、深層の多裂筋を活性化し、仙骨を安定したニューテーション方向へ誘導するのに有効です 。
3) 柔軟性とモビリティの回復
- 股関節伸展モビリティ: 腸骨筋や大腿直筋、前方関節包をリリース・ストレッチし、骨盤の前方回旋ストレスを軽減します 。
- 股関節内旋モビリティ: 内旋制限は歩行時の適合性を損なうため、低負荷での反復運動により滑走性を改善します 。
4) 生活指導と補助具
- 動作指導: 重い物を持ち上げる際は、腰椎を曲げず、股関節主導(ヒップヒンジ)で行い、仙腸関節をCPP(締まりの位置)に保ちます 。
- 装具療法: 不安定性が強い場合や産前産後には、**骨盤ベルト(SIJベルト)**を使用してマイクロモーションを抑制し、痛みを緩和します。これは筋機能が回復するまでの「橋渡し」として活用します 。
よくある質問(Q&A)
Q. 仙腸関節はほとんど動かないのに、なぜ痛む?
A. 可動域は微小ですが、靱帯や関節包には侵害受容器(痛みを感じるセンサー)が豊富に分布しています。関節の“ズレ”や不適合が生じると、これらの組織に過度な伸張・剪断ストレスがかかり、鋭い痛みが生じます 。
Q2. 片側のお尻が痛い。椎間関節との違いは?
A. SIJ由来はPSIS(上後腸骨棘)付近を「指一点」で示せる局所痛(one point indication)が特徴です 。椎間関節由来はPatrickなどの誘発テストで痛みが再現しにくい傾向があります 。
Q3. ぎっくり腰の一部がSIJ由来って本当?
A. はい。仙骨が後傾位でロックされる機能障害(カウンターニューテーション偏位)が急性の強い痛みを引き起こすことがあります 。この場合、徒手的な位置修正や適切な運動療法が劇的に効果を示すことがあります 。
Q4. 産後の骨盤ベルトはいつまで必要?
A. 靱帯の弛緩による不安定性が落ち着き、多裂筋や腹横筋、大殿筋などの「筋肉による安定化機能(force closure)」が再獲得されるまでを目安とします 。
Q5. 画像で“ズレ”と言われ不安です。治る?
A. 骨自体の変形ではなく、多くは「機能的な位置異常」です。周囲の筋肉のバランスを整え、正しい動作パターンを再学習することで、保存的に改善する可能性が非常に高い疾患です 。
最終更新:2026-04-14






