反射性交感神経ジストロフィーの概要
CRPS(complex regional pain syndrome)type I は、かつて**反射性交感神経ジストロフィー(RSD)**と呼ばれていた病態です 。これは、明らかな主要神経の損傷を伴わないにもかかわらず、損傷した組織の治癒過程とは不釣り合いなほどの激しい疼痛と、自律神経症状(腫脹、発汗、皮膚温異常など)が持続・遷延する疾患です 。 整形外科領域では、レントゲン上で点状の骨脱灰を伴うことからSudeck(ズデック)骨萎縮、脳卒中後の麻痺側上肢に生じるものは肩手症候群と呼ばれることもあります 。
原因と誘因:何が引き金になるのか
CRPSは、不完全な整復位や不必要な長期固定、あるいは過度な安静などが原因で引き起こされることがあります 。
- 外傷・医療行為: 橈骨遠位端骨折、脱臼、捻挫、打撲、ギプス固定、手術侵襲など 。
- 疾患関連: 脳血管障害(脳卒中)に続発するケースが多く、運動麻痺に伴う廃用や不適切なハンドリングがリスクとなります 。
- 神経学的機序: 末梢での炎症反応が持続することで、痛みの閾値が下がる「末梢性感作」が生じ、さらに脊髄や脳といった中枢神経レベルでの「中枢性感作」へと発展することで、軽微な刺激でも激痛を感じるアロディニアが生じます 。
病態の進行とステージ(Lankfordによる分類)
症状は時間の経過とともに、炎症性から栄養障害、そして廃用へと移行します。
| 時期 | 目安 | 主な所見 |
|---|---|---|
| 初期 | 0–3か月 | 強い疼痛・灼熱痛、アロディニア、発赤、発汗↑、腫脹、抜き打ち様骨萎縮 |
| 中期 | 3–9か月 | 痛みの広範化、硬い腫脹、関節拘縮、皮膚・爪・体毛変化、骨萎縮の均一化、筋萎縮 |
| 末期 | 9–24か月 | 拘縮進行、皮膚・爪の萎縮、患肢全体の廃用 |
診断の基準:Budapest基準と臨床徴候
診断は、臨床症状と診察時の徴候に基づいて行われます 。
- 感覚異常: 痛覚過敏、アロディニア(軽い接触で痛む) 。
- 血管運動障害: 皮膚温の左右差(1.1℃以上)、皮膚色の変化 。
- 発汗・浮腫異常: 浮腫、発汗の左右差 。
- 運動・栄養障害: 関節可動域制限、運動機能低下、皮膚・爪・毛の萎縮 。
※type Iは明らかな神経損傷がないことが条件です。神経損傷を伴う場合は type II(旧カウザルギー)に分類されます 。
リハビリテーション実践のガイドライン
リハビリの鉄則は「痛みの悪循環を断つ」ことです。過度な不動は中枢性感作を悪化させ、反対に無理な運動は炎症を再燃させます 。
① ポジショニングと浮腫管理
- 浮腫対策: 患肢の挙上が基本です 。特に手指の浮腫に対しては、組織間液をリンパ管へ戻すための**紐ラッピング法(string wrapping)**が有効な場合があります 。
- 廃用予防: 肩の内転・内旋拘縮を防ぐため、アームスリング等を適切に使いつつ、可能な限り自動運動を促します 。
② 物理療法の活用
- TENS(経皮的電気神経刺激): ゲートコントロール理論に基づき、疼痛緩和を目的として広く用いられます 。
- 交代浴: 血管の収縮・拡張を促し、自律神経機能の調整を図ります 。
③ 感覚再教育と脱感作(Desensitization)
- アロディニアを軽減するため、柔らかい布、ブラシ、米粒など、異なる質感の刺激に短時間ずつ慣れさせていく「脱感作訓練」を行います 。
④ 段階的イメージ運動(GMI)とミラーセラピー
痛みで動かせない時期には、脳内の運動マップを正常化するアプローチが重要です。
- ミラーセラピー(鏡療法): 鏡に映した健側の動きを患側の動きとして錯覚させることで、中枢性の痛みを抑制し、運動機能を改善させる効果が期待されています 。
- メンタルプラクティス: 実際に体を動かさずに、痛みなく動いている自分をイメージすることで、運動関連領野を賦活させます 。
予後と多職種連携
CRPSは長期化すると心理的な抑うつや不安が痛みを増強させる「恐怖回避モデル」に陥りやすくなります。そのため、理学療法士だけでなく、医師による薬物療法(ステロイドや神経障害性疼痛薬)、ペインクリニックでのブロック注射、臨床心理士による認知行動療法など、多職種による包括的なアプローチが欠かせません。
よくある質問(Q&A)
Q:リハビリで「痛みを我慢して動かす」のは正しいですか?
A: 不適切です。強い痛みを伴う強引な運動(積極的運動療法)は、炎症を悪化させ、脳の感作を強めてしまいます 。痛みを感じない、あるいは自制内(NRS 3〜4以下)の「愛護的な運動」を、頻回に行うことが推奨されます 。
Q:ミラーセラピーは本当に効きますか?
A: 慢性期のCRPS type I に対するミラーセラピーは、一般的な理学療法と比較して、疼痛軽減やADLの改善に有効であるというエビデンスが示されています 。
Q:不活動(動かさないこと)の何が悪いのですか?
A: 神経系が過敏になり(感作)、慢性痛へと発展するリスクが非常に高くなります 。痛みを回避するための不活動そのものが、中枢神経系の可塑的変化を引き起こし、病態を遷延させることが判明しています 。
最終更新:2026-06-02
