要点(まずここだけ)
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寛骨(腸骨・恥骨・坐骨)は左右にあり、一側の前傾/後傾が生じると股関節位置が偏位し、**見かけ上の脚長差(機能的脚長差)**が現れます。
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前傾側は、仰臥位(股伸展位)・立位で“長く”、**座位(股屈曲位)で“短く”**見えやすい(ロングシットテストの所見と整合)。
1) なぜ脚長差が“見かけ上”生じるのか
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前傾:同側寛骨が前下方へ回旋 → 股関節中心の相対位置が遠位化 → 仰臥位・立位で長く見える。
座位で股関節が屈曲すると、前傾側は短く見えやすい。 -
後傾:同側寛骨が後上方へ回旋 → 相対的に近位化 → 仰臥位・立位で短く見える(座位では長くなりやすい)。
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これは骨の実長差ではないため「機能的脚長差」。
2) どこで問題が起きるか(立位・歩行で顕在化)
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日常生活で支障が出やすいのは立位/歩行。
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立位で身体は左右差を埋める代償をとるため、個人により
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距骨下関節の回外/回内(踵骨アライメント変化)
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膝屈曲・過伸展
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骨盤側方傾斜や体幹側屈
などで調整。どこで代償しているかの観察が重要です。
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3) 仙腸関節(SIJ)の可動性について
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SIJは僅少ながら可動(前後屈・わずかな滑り)し、一般的に1–2°前後とされます(個体差あり)。
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拘縮や疼痛で動きが乏しい場合は、**モビライゼーション/MET(筋エネルギー法)**などで改善が見込めます。
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一方、高齢者では変性(OA様変化)により可動がきわめて小さい/実質的に動かないこともあるため、過度な矯正を避け、症状主導で計画します。
4) 評価の進め方(実践フロー)
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視診・ランドマーク:ASIS/PSIS高位差、腸骨稜高位、骨盤傾斜、体幹側屈。
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脚長差の機能評価:
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**仰臥位→座位(ロングシット)**での見え方の変化(前傾側=仰臥位長い/座位短い)。
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股・膝・足の代償(膝屈曲、距骨下関節内外反)。
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筋機能:腸腰筋・大腿直筋(前傾を助長)、ハムストリングス・大殿筋(後傾方向)、中殿筋(骨盤水平保持)。
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SIJ:痛み・圧痛、プロボケーションテスト(陽性でも単独で断定しない)。
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必要時:画像で構造的脚長差・変形などを除外。
5) なぜ傾く?(筋・筋膜のアンバランス)
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片側の腸腰筋・大腿直筋の短縮、反対側のハム・大殿筋の相対的低下、中殿筋弱化(骨盤水平保持不全)が典型。
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筋膜連結の視点では、BFL(Back Functional Line)/FFL(Front Functional Line)など斜走の機能ラインが乱れると、一側上肢—対側下肢の協調が崩れやすい(概念枠組みとして活用。個体差に留意)。
6) 介入(“緩める→使う→統合”の順)
A. 前傾が優位(仰臥位で長く、座位で短く見える側)
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抑制:同側腸腰筋・大腿直筋のトーンダウン/伸張、腹部圧の再学習。
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賦活:同側ハムストリングス・大殿筋で後傾方向のコントロール、中殿筋で骨盤水平保持。
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統合:ヒップヒンジ、ブリッジ(後傾→股伸展)、片脚立位でASISが前下方に落ちないラインを学習。
B. 後傾が優位(仰臥位で短く、座位で長く見える側)
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抑制:同側ハム・大殿筋の過活動を整える、腰背部過緊張の緩和。
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賦活:腸腰筋・大腿直筋の収縮学習(股屈曲・骨盤前傾方向)、腹横筋と呼吸で前後の協調性を改善。
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統合:ニーリフト、ステップアップで骨盤が過後傾に引き込まれない使い方を反復。
C. 機能ラインの再構築(例)
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右寛骨後傾が優位なら、右大殿筋—左広背筋(BFL)の協調低下を仮説 → 四つ這いで右下肢+左上肢挙上で対角線の連動を再学習。
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右寛骨前傾が優位なら、右長内転筋—左大胸筋—腹直筋鞘外側(外腹斜筋)(FFL系)の協調低下を仮説 → 仰臥位で右膝外側へ左肘を当てる体幹屈曲+右股内転抵抗などで斜走連結を再学習。
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※これらは仮説に基づく処方。疼痛・代償の出現を指標に微調整。
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D. SIJが硬い/疼痛性の場合
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モビライゼーション/METは痛みを誘発しない範囲で。高齢者で可動性が乏しい場合は、骨盤側方偏位の抑制・股/足のライン最適化など二次部位からの間接アプローチが現実的。
7) クリニカル・チェックリスト
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仰臥位↔座位での見かけの脚長変化(前傾側=仰臥位長い/座位短い)
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ASIS/PSIS/腸骨稜の高位差(写真記録◎)
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中殿筋機能(トレンデレンブルグ、片脚課題)
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股・膝・足の代償(膝屈曲、距骨下関節内外反)
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SIJの痛み・可動性、過度な矯正を避ける判断
よくあるQ&A
Q1. ロングシットテストの解釈が不安…
A. 仰臥位長い→座位短い=同側寛骨前傾が“目安”。単独で断定せず、ランドマーク・動作所見と複合判断を。
Q2. SIJはどこまで動きを出してよい?
A. 可動域は非常に小さい前提で、痛みなく僅かに。高齢者や変性例では無理に動きを求めず、周辺の筋機能と荷重線を優先。
Q3. どの筋から着手するのが効率的?
A. 多くのケースで中殿筋の賦活→寛骨コントロールが再現性高い。前傾優位なら腸腰筋・大腿直筋の抑制+大殿筋/ハム賦活を同日に行う。
Q4. 筋膜リリースは有効?
A. 疼痛・過緊張の緩和と可動化に有効なことが多いが、直後に目的方向へ“使う”(賦活・動作統合)までセットで。
Q5. いつ医療機関へ?
A. 安静時痛・夜間痛、神経症状、外傷歴、進行する構造的変形の疑いがあれば整形外科へ。
まとめ
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寛骨の前傾/後傾は機能的脚長差を生み、立位・歩行で代償が顕在化。
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介入は**“緩める→使う→統合”**:短縮筋の抑制→中殿筋などの賦活→荷重線と動作の再学習。
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SIJは小可動関節。過矯正を避け、症状主導と全体最適で攻める。
最終更新:2025-10-08


