寛骨の傾きによる脚長差の発生について

身体のアライメント異常による脚長差において、寛骨の前傾や後傾は非常に重要なポイントのひとつです。

寛骨とは、腸骨・恥骨・坐骨の総称であり、それに仙骨と尾骨が加わることで骨盤と呼ばれることになります。

寛骨は左右に存在しているため、一方に前傾や後傾などの傾きが生じると、股関節の位置が偏位して脚長差を生み出します。

上の図は、寛骨の傾きと脚長差を表したものですが、座位(股関節屈曲位)では寛骨の前傾側の下肢が短く見えます。

反対に仰向け(股関節伸展位)では、寛骨の前傾側の下肢が長く見え、立位においても同様に前傾側が長くなっています。

寛骨の傾きによる左右差は見かけ上のものであり、構造的に骨の長さに左右差があるわけではないため、機能的脚長差と呼ばれます。

それでは、機能的脚長差が生じるとなにが問題かですが、基本的に仰向けや座位ではあまり日常生活に支障はきたしません。

問題が生じるのは立位であり、片脚のみで立つわけにはいきませんので、脚長差を修正するためにどこかを動かして調整する必要が出てきます。

正常であるなら、長い側の寛骨を後傾させて調整しますが、仙腸関節が動かないケースでは修正が困難となります。

仙骨が腸骨に対して前屈する可動域は約1.3度、後屈する可動域は約1.7度ほどといわれています。

仙腸関節が単純に拘縮などで動きづらい状態であるなら、仙腸関節モビライゼーションによって動きの改善が期待できます。

しかし、高齢者では仙腸関節がOA(変形性関節症)を起こしており、骨癒合してほとんど動きがない状態の場合も多いです。

寛骨の傾きで調整できない場合にどこで代償するかですが、それはそのヒトの運動パターンで変化します。

例えば、長い側の足関節(距骨下関節)を外反させるかもしれませんし、膝関節を屈曲させるかもしれません。

骨盤を側方傾斜させる場合もあるでしょうし、どこで代償をしているかを見極めることがそのヒトの身体を知るうえで重要な所見となります。

次に、そもそも寛骨がどうして非対称に傾いたのかについてですが、筋・筋膜のインバランスが根本にあります。

片側の腸腰筋や大腿直筋が短縮しているかもしれませんし、片側の筋膜が固くなっているかもしれません。

筋膜のつながりで問題となりやすいのはBFLとFFLであり、これらの斜めの連結が一側上肢と体側下肢を同期して動かします。

例えば、右寛骨が後傾している場合は、右大殿筋と左広背筋のラインが機能していない可能性が考えられます。

その修正エクササイズとしては、四つ這いでの右下肢と左上肢の挙上によるBFLのトレーニング必要となるわけです。

反対に、右寛骨が前傾している場合は、右長内転筋と左大胸筋と腹直筋鞘外側(外腹斜筋)のラインが機能していない可能性があります。

その修正エクササイズとしては、背臥位にて右膝の外側に左肘を当てるように体幹を右回旋させる体幹屈曲運動を行います。

筋膜の硬さが問題となっているケースでは、徒手的に筋膜リリースや筋膜マニピュレーションなどを加えて伸張性を改善します。

ここまでに説明したように、寛骨の傾き(仙腸関節障害を含む)は身体全体に悪影響を及ぼす場合があります。

そのため、修正が可能なようならアプローチすることが大切です。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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