後十字靭帯の概要
後十字靭帯(PCL)は、「大腿骨内側顆の外側面」から「脛骨の後顆間区」にかけて付着する強靭な関節内靱帯です 。 膝関節内には2本の靱帯が交差して十字に見えることから、前方を前十字靭帯(ACL)、後方を後十字靭帯と名付けられました。 後十字靭帯は全長が約38〜40mm、横径(幅)が約13〜15mmであり、前十字靭帯の約2倍の強度と太さを持っています 。
機能的には前内側線維束(ALB)と後内側線維束(PMB)の2つに分けられます 。 脛骨の後方への落ち込み(偏移)を強力に制動するほか、膝関節の過伸展や大腿骨に対する脛骨の過内旋を制御する役割も担っています 。
後十字靱帯損傷について
PCL損傷はACL損傷に比べて発生頻度が非常に低く、靭帯が太く強靭なため完全断裂よりも部分断裂をきたしやすい傾向にあります 。 PCLの単独損傷は少なく(約30%)、他の靱帯や半月板損傷など複合的な損傷を伴うことが多い(約70%)とされています 。しかし、単独損傷あるいは完全断裂(グレードIII)以外の場合は、基本的に保存療法が第一選択となります 。 主な受傷機転は、スポーツ活動中の転倒や交通事故などで膝関節屈曲位の状態で脛骨近位前面(すねの上部)を地面やダッシュボードに強打し、**脛骨に前方から後方へ向かう大きな外力が加わること(ダッシュボードインジャリー)**です 。その他、過伸展や過屈曲、回旋を強制されることでも生じます 。
後十字靭帯の緊張肢位
PCLを構成する前内側線維束は膝関節の屈曲に伴って緊張が増大し、後内側線維束は伸展位で緊張して屈曲に伴い弛緩します 。靱帯全体としてみると、膝関節の屈曲運動に伴って緊張が高まる構造になっています 。 PCL損傷膝では、仰向けで寝た際に脛骨が後方に落ち込む**「サギング現象(sagging)」**が生じます 。 歩行時の立脚中期など、脛骨を後方へ移動させるような前進運動の際に膝の不安定感を生じることがあります 。また、後外側回旋不安定性(PLRI)などを合併していると、膝関節伸展の最終域で不安定感や疼痛が発生することもあります 。 PCLを切離した場合は、脛骨の後方移動距離が膝関節60〜90度屈曲位で約3倍になるとされています。
検査方法
- **サギング徴候(posterior sagging):**仰臥位で膝関節を90度屈曲し、足底をベッドにつけてリラックスさせます。このとき、重力によって脛骨上端が下方に落ち込んでいるかを確認します。
- **グラビティーテスト(gravity sagging):**仰臥位で股関節と膝関節を90度屈曲位に保持し、下腿の重力による後方への落ち込みを評価します。
- **後方引き出しテスト(posterior drawer test):**仰臥位で膝関節を90度屈曲位とし、下腿近位部を把持して後方へ押し込み、動揺をみます。注意点として、すでにサギングが生じて脛骨が後方に落ち込んでいる状態から前方に引き出すと、前十字靭帯損傷時の前方動揺と錯覚する危険性があるため、開始時の脛骨粗面の位置を必ず確認する必要があります。
禁忌・NG動作
PCLの修復過程において、靭帯が緩んだ状態で治癒してしまう**「組織延長(elongation)」を防ぐことが極めて重要**です。
- 早期からのハムストリングス高負荷(膝屈曲抵抗): ハムストリングスの収縮は脛骨を後方へ引き出す作用があるため、早期からの過度な負荷や自動収縮は避けるべきです。
- 深いしゃがみ込み(深屈曲): 深い膝関節屈曲はPCLの緊張を高めるため、制限を設ける必要があります。
- 屈曲深角度での大腿四頭筋の収縮: 膝関節60度以上の屈曲位での大腿四頭筋の収縮は、脛骨と膝蓋骨の位置関係から脛骨を後方にシフトさせる作用が生じる危険があるため注意を要します。
- 疼痛・腫脹が翌日まで増悪する負荷は段階を下げる(目安0–2/10)。
関節可動域運動と筋力トレーニング
関節可動域運動を行う際は、膝窩にタオルを当てて脛骨の後方への落ち込みを物理的にブロックしながら行うことが有効です。 脛骨の後方動揺を制動し関節を安定させる筋肉として、大腿四頭筋の強化が不可欠です。大腿四頭筋の収縮は脛骨を前方に引き出す作用があるため、PCLを弛緩させ安全に実施できます 。 受傷・術後早期から大腿四頭筋セッティング(Quadriceps setting)や下肢伸展挙上(SLR)を実施し、大腿四頭筋の萎縮を防ぐことが重要です 。 階段で膝の不安定感(ガクガクするなど)を訴える患者では、脛骨の落ち込みを防いだ状態での昇段練習などが有効となります。また、内側・後外側支持機構の破綻などによる回旋不安定性が合併していないか常に確認しながら運動療法を進めることが大切です 。

保存療法ロードマップ
|
時期の目安*
|
目的
|
やること
|
避けること(禁忌寄り)
|
|---|---|---|---|
|
0–2週
|
炎症コントロール/脛骨後方偏位の抑制
|
RICE処置、大腿四頭筋セッティング、SLR(膝伸展位)
|
深い膝屈曲、ハムストリングスの収縮・負荷
|
|
2–6週
|
四頭筋強化・可動域の安全な拡大
|
ミニスクワット(0–45°目安)、自転車エルゴ軽負荷、タオル当てROM
|
開放鎖での膝屈曲抵抗、屈曲60°以上での大腿四頭筋への強負荷
|
|
6–12週
|
機能的安定性・動作再学習
|
ステップアップ/降段練習(後方偏位を作らないキュー)、バランス(片脚立位→不安定面)
|
痛み・腫脹が翌日残る負荷の急増
|
|
3–6か月
|
競技動作への移行
|
直線ラン→変向→ジャンプ着地トレーニング
|
膝が抜ける感覚があるのに全力動作
|
最終更新:2026-08-05





