心不全や心筋梗塞のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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心疾患の概要
心疾患とは心臓に起こる病気の総称です。そのうちの約8割を占めるのが虚血性心疾患で、心臓へ血液を送る冠動脈の血流障害によって起こります。
虚血性心疾患には狭心症や心筋梗塞などが含まれ、米国では死因の第1位が心疾患であり、その割合は30%を占めています。
日本でも食生活の欧米化によって心疾患は増加傾向にあり、死因の割合は20%で悪性新生物(がん)についで第2位となっています。
冠動脈について理解する
冠動脈は心臓を出てすぐの上行大動脈から最初に分岐する動脈であり、左冠動脈と右冠動脈のふたつがあります。
中枢動脈の定義は冠動脈までであり、それ以降の胸部大動脈や腹部大動脈などは末梢動脈と定義されます。
心臓を動かし続けるためには大量の酸素が必要なため、肺で酸素を取り入れて、心臓から出た直後の冠動脈から心臓は血液を供給しています。
通常、動脈と静脈は一対なので同じ名前の動静脈が存在しますが、冠動脈から移行する静脈は細かく分岐した血管が心臓壁を走行するだけで主要血管はありません。
冠動脈が動脈硬化などで狭小化や閉塞をきたすと心臓への酸素供給が滞り、心筋虚血が起こり、狭心症や心筋梗塞といった症状が起こります。
動脈硬化を起こす危険因子として、①高血圧、②脂質異常症、③喫煙、④糖尿病、⑤肥満などが挙げられます。
心臓のしくみと働き
心臓は左右の心房(上部)と左右の心室(下部)を持っており、体循環と肺循環に血液を送り出す強力なポンプの役割があります。
順路として、①右心房➡②右心室➡③肺動脈➡④肺(ガス交換)➡⑤肺静脈➡⑥左心房➡⑦左心室➡⑧大動脈➡⑨全身各組織➡⑩大静脈➡①に戻るとなります。
①から⑤までを肺循環、⑥から⑩①までを体循環と呼びます。そのため、右側の心房室は静脈血が、左側の心房室は動脈血で満たされています。
心疾患の症状について
心疾患の中でもとくに多いのが狭心症ですが、冠動脈が一時的に閉塞することで起こり、心筋への酸素供給が少しの間滞るので、胸痛や胸部圧迫感を起こします。
胸の痛み以外にも、左肩や背中に痛みを感じたり、不整脈として発生する場合もあります。狭心症は心筋梗塞の前兆症状としても現れるので適切な治療を要します。
心筋梗塞とは、冠動脈が完全に閉塞してしまった状態であり、心筋の酸素供給が失われるために壊死を起こし、発症者の約3割は死に至ります。
症状は胸部痛に加えて、肺循環も障害するために酸素供給が行われず、呼吸困難や意識消失などの状態に陥ります。
その他の心不全に関しては、どこに問題があるかで症状も変わってきますが、左右で特徴的な症状を呈します。
左心不全がある場合は、全身へ血液を送り出すための高圧力が発揮できないため、血圧低下やチアノーゼ(末梢まで血液がいかない)が起こります。
血液を送り出す量が減るために回数でカバー(頻脈)したり、酸素供給が十分にできずに易疲労感や呼吸困難、意識消失などを起こします。
右心不全の場合は、末梢まで行き渡った血液を吸い上げる効果が失われるため、全身性の浮腫、胸水・腹水貯留などが起こります。
心疾患の運動処方について
心疾患に対する運動処方では、①運動の種類、②強度、③時間、④頻度、⑤注意事項を定めてから実施していきます。
強度は、運動負荷試験で得た最大酸素消費量から適切な活動の範囲で処方されますが、実測できない場合は予測最大心拍数(220-年齢)から処方されます。
運動負荷試験の目的として、運動を継続して実施するにはエネルギーを回復するための「酸素」が必要になります。
ヒトと酸素の関係は自動車とガソリンの関係に似ており、この量を知ることによってどれだけの運動が可能であるかを推測することができます。
心疾患がある場合は全身の酸素供給量が落ちていますので、運動能力が低下してしまい、易疲労感や呼吸困難を訴えることになります。
運動負荷試験では、全身の酸素を消費することで心臓の仕事量を上げて、その限界値(最大酸素摂取量)を推察することができます。
実施上の禁忌として、酸素量を減らしたり、心筋に負担をかけることでリスクが増す場合は実施できません。(心筋梗塞急性期、不安定狭心症、急性心筋炎・心膜炎など)
また、心室頻拍などの重症不整脈、薬物中毒(ジギタリス,キニジン,βブロッカーなど)、心臓以外の運動不可の理由がある場合も禁忌となります。
運動負荷試験について
最大試験(maximal test)では、被験者が疲労の極みに達したときに最大の酸素摂取を示すので、その際の最大心拍数を実測します。
方法は、①階段昇降、②エアロバイク、③トレッドミルを使用する場合があり、それぞれの長所や短所を考慮して決定します。
方法 | 特徴 | |
階段昇降 | 長所 | 簡単に実施可能であること |
短所 | 被験者が歩調を合わすこと | |
エアロバイク | 長所 | 体重の影響がなく、肥満者で実施しやすい |
短所 | 大腿四頭筋の筋力低下、疼痛が問題となりやすい | |
トレッドミル | 長所 | 運動が自然で日常生活上と対比しやすい |
短所 | 装置が大きく備わっていない場合がある |
負荷のかけ方には、間欠的多段階負荷法、漸増的多段階負荷法、複合負荷法、単一定常負荷法の4つがあります。
疲労度に関しては、下記表のボルグ・スケールを用いることで、自覚的運動強度を定量的に計測することができます。
Borg Scale |
体力の尺度とは
人間の体力は、「最大酸素摂取量」と「最大心拍数」の積によって決まります。
しかし、最大心拍数は両者が同じ年齢ならほぼ変わらないので、体力を上げるためには最大酸素摂取量の増加が必要不可欠です。
日頃からトレーニングしている人では、心臓から供給された血液から、より多くの酸素を効率的に取り込むことができます。
それをスポーツ心臓と呼んだりするのですが、酸素摂取の効率がよく、少ない心拍数で活動できるといった特徴があります。
運動療法の効果とエビデンス
以下は、心疾患に関する治療ガイドラインを基に記載しています。
エビデンスレベルA |
運動耐用能の増加による労作時の症状軽減 |
左室収縮機能およびリモデリングを憎悪しない |
冠動脈事故発生率の減少 |
生命予後の改善 |
収縮期血圧の低下、HDLコレステロールの上昇、中性脂肪の低下 |
エビデンスレベルB |
同一労作における心拍数と換気量の減少 |
左室拡張機能を改善 |
交感神経の緊張低下、冠動脈病変の進行を抑制 |
CRP、炎症性サイトカインの減少など炎症関連指標の改善 |
血小板凝集能、血液凝固能の低下 |
エビデンスレベルC |
安静時、運動時の総末梢血管抵抗の減少 |
最大動静脈酸素較差を増加 |
心筋灌流の改善 |
冠動脈、末梢動脈血管内皮機能の改善 |
骨格筋ミトコンドリア密度と酸化酵素の増加、Ⅱ型からⅠ型への筋線維型を再変換 |
運動強度の設定方法
運動強度の設定ついては、以下の表を参考にしながら決定します。どちらもボルグスケールが理解しやすい指標となります。