手指骨折の大分類と“臨床で困るポイント”
① 中手骨骨折(母指)
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機序:母指先端からの長軸圧で発生しやすい。
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変形:長母指外転筋(APL)の牽引で骨幹〜骨頭側が背橈側・近位へ偏位しやすい。
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機能影響:つまみ・把持の痛み/内転変形で実用性が大きく低下。
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治療メモ:関節内(Bennett/Rolando など)では整復位保持が難しく手術+スプリントの併用を選ぶことが多い。
② 中手骨骨折(母指以外)
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典型:第4・**第5中手骨頚部(“ボクサー骨折”)**で多い。
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変形:背側凸(掌側への屈曲)→伸筋腱の滑走障害。
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注意:回旋変形は許容できない(握りで爪の向き・指列の交差=“スキャフォールディング/スカッシング”を必ず確認)。
③ 基節骨骨折
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部位:基部・骨幹部に多い。
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変形:掌側凸になりやすく、屈筋腱癒着の温床。
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機能:回旋変形で隣接指と干渉→把持障害。
④ 中節骨骨折
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頻度:比較的少ないが挫滅合併が多い。
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変形:近位側=背側凸/遠位側=掌側凸の傾向。
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影響:背側凸→伸筋腱、掌側凸→屈筋腱の滑走障害。
⑤ 末節骨骨折
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機序:挟み込み・つぶれ(母指・中指に多い)。
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合併:基部背側骨折は終止腱損傷→マレット指(DIP伸展不全)。
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治療:多くはスタック/コイル系で連続固定(創部管理を優先)。
整復と固定の原則
非観血的整復(徒手・牽引) or 観血的整復(手術)
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外固定:テーピング(buddy)、ギプス、スプリント。
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内固定:鋼線(K-wire)、スクリュー、プレート、髄内釘など。
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選択基準のコツ
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回旋変形は不可(どの部位でも原則許容しない)。
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関節内骨折・高度粉砕・整復位不安定・機能障害が大きい場合は内固定を検討。
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固定は最小限の期間で早期可動を目指す(腱癒着を防ぐ)。
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リハビリの流れ(フェーズ別)
目標:整復位の維持+腱癒着の抑制+むくみ対策+早期からの選択的滑走。
| フェーズ | 状態 | 主要介入 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 骨癒合期(外固定中) | 整復位が保てている | 隣接指テーピング/ギプス/スプリント、挙上、患部以外ROM、ひも巻き法、手関節・肘・肩の可動 | 心臓より高い挙上、指ポンピング、圧迫手袋/包帯で浮腫を管理。リングは外す。 |
| 固定除去:初期 | 疼痛軽減、骨癒合進行 | 温浴、自動→他動ROM、finger trapping、腱滑走(フックフィスト/テーブルトップ/フルフィスト)、blocking ex(PIP/DIP) | 痛みのない範囲で高頻度・低負荷。強引な他動は異所性骨化/炎症再燃のリスク。 |
| 固定除去:後期 | さらに可動・筋力回復 | 関節モビライゼーション、ダイナミックスプリント(必要時)、把持・ピンチの筋強化、巧緻訓練 | **TAM(Total Active Motion)**で機能評価、瘢痕モビライゼーションも並行。 |
装具の例
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Buddy tape(隣接指固定)/ガター・スプリント(中手骨/基節骨)
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コイル/スタック(マレット)/母指スパイカ(母指中手骨やCM関節)
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ダイナミック伸展スプリント(伸展ラグ対策) ほか
| コイルスプリント | マレットフィンガー | バディーストラップ |
CM関節症装具 |
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引用:義肢装具.com
部位別の“現場メモ”
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母指中手骨:関節内はズレが残ると母指CM痛・つまみ制限に直結→早期の安定固定と可動のバランスが鍵。
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第4・5中手骨頚部:ある程度の屈曲角は受容されることもあるが、回旋はNG。握りで爪の向き必見。
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基節・中節骨:掌側凸=屈筋癒着に注意。早期からの滑走と瘢痕管理。
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末節骨:爪床損傷や開放の創処置を優先。マレットは連続固定の遵守が予後を分ける。
可動域運動の注意
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暴力的な他動は禁忌:痛み誘発は炎症増悪・異所性骨化の誘因。
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1指の伸展拘縮が全体の屈曲を妨げる(深指屈筋の連動)→各指を個別に。
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内固定で安定していれば痛みが引き次第、早期自動を基本に。
早期に抑えたいセルフケア
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**RICEの“R・I・C”**相当(相対安静・冷却・適切圧迫)+Elevation(挙上)。
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浮腫管理:手背から中枢へ逆行性リンパマッサージ、開閉運動高頻度。
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姿勢:肘を軽く曲げ、手は胸より上。就寝時も支えを入れて挙上。
よくある質問(Q&A)
Q1. いつから動かしていい?
A. 非損傷関節は直後から。骨折部は整復位が安定し医師許可が出たら早期に自動運動開始(内固定例は特に)。
Q2. 回旋ずれはどこで分かる?
A. 握りこみで爪の向き・指列を確認。交差・外向きは回旋変形が疑わしく、許容不可(要再評価)。
Q3. マレット指は何週間固定?
A. 代表的には6–8週間の連続伸展固定が基本(屈曲を一瞬でも許すとリセットされるため厳守)。
Q4. 仕事や家事はいつ再開?
A. 痛みと把持テストで段階的に。打鍵・書字は痛み<3/10、腫れが引いて指先の分離運動が可能になってから。
Q5. 固定後に指が曲がらない/伸びない…
A. 腱癒着・伸展ラグなどの可能性。腱滑走・blocking・ダイナミックスプリントを早めに導入し、TAMで追跡。
Q6. 末節の“つぶれ+爪割れ”は?
A. 爪床の再建や清潔管理が最優先。感染徴候(発赤・拍動痛・浸出増加)は即受診。
Q7. スポーツ復帰の目安は?
A. 非接触で4–6週、接触・球技は8–12週以降が目安。疼痛ゼロ・ROM/筋力の左右差≦10%・競技特異テスト合格が条件。
クリニック向け“チェックリスト”
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□ 回旋なし(握りで爪列OK)
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□ 関節内ステップなし or 許容範囲内
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□ 固定期間は最短で(腱癒着を作らない)
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□ TAMで経時評価、瘢痕の早期介入
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□ 患者教育:挙上・浮腫管理・装具順守・“無理な他動はしない”
最終更新:2025-09-08









