手根骨の場所と付着する筋肉について

手根骨の概要

手根骨は手首を形成する8個の短骨(小骨)から成り、手根全体として縦方向・横方向のアーチ(近位横アーチ)を形成して手の把持動作を助けています。これら8つの骨は、橈骨(前腕の骨)に近い近位手根列と、中手骨(手のひらの骨)に近い遠位手根列の2列に分けられます。

  • 近位手根列:舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨
  • 遠位手根列:大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鉤骨

手根骨のうち、近位手根列(豆状骨を除く)と橈骨は橈骨手根関節(手関節)手根中央関節を構成します 。また、遠位手根列は中手骨と**手根中手関節(CM関節)**を作ります 。 手根近位列には直接付着する筋がなく、手根骨の運動は遠位手根列や中手骨に付着する筋の働きによって受動的に制御されています(Lichmanのoval ring theory) 。

手根骨

手根骨が構成する関節


各部位の名称と役割【近位手根列】

1) 舟状骨(scaphoid)

  • 関節:橈骨手根・手根中央など
  • :短母指外転筋(APB)が舟状骨結節+屈筋支帯などから起始
  • 臨床:手根骨の中で最も骨折が多い骨です(手根骨骨折の約70%)。血流が遠位から近位へ向かうため、近位極の骨折では血行が絶たれやすく、骨癒合不全(偽関節)や無腐性壊死を起こすリスクが高いのが特徴です。解剖学的嗅ぎタバコ入れ(スナッフボックス)の圧痛が骨折のサインとなります

2) 月状骨(lunate)

  • 関節:橈骨手根・手根中央
  • 臨床:周囲を軟骨に覆われており血流が乏しいため、**Kienböck病(キーンベック病/月状骨無腐性壊死)**の好発部位となります。また、手根骨の中で最も脱臼しやすい骨でもあります

3) 三角骨(triquetrum)

  • 関節:橈骨手根・手根中央・豆状骨関節
  • 特徴:手関節の尺側に位置し、TFCC(三角線維軟骨複合体)を介して尺骨と力を伝達し合います

4) 豆状骨(pisiform)

  • 関節:三角骨のみ(豆状骨関節は平面関節)
  • :尺側手根屈筋(FCU)の腱内に存在する種子骨であり、小指外転筋(ADM)の起始となります
  • 臨床:ギヨン管(尺骨神経管)の尺側壁を構成します

手根骨手掌|各部位の名称

手根骨手背|各部位の名称


各部位の名称と役割【遠位手根列】

1)  大菱形骨(trapezium)

  • 関節:第1・2CMC、手根中央
  • :母指対立筋(OP)・短母指屈筋(FPB)浅頭 起始
  • 臨床:第1中手骨と**鞍関節(第1CM関節)**を形成し、母指の対立運動の基盤となります。この部位は力学的負荷が大きく、**母指CM関節症(変形性関節症)**が好発します

2) 小菱形骨(trapezoid)

  • 関節:第2CMC、手根中央
  • :FPB深頭 起始(※文献により個体差あり)

3) 有頭骨(capitate)

  • 関節:第2~4CMC、手根中央
  • :母指内転筋(AddP)斜頭 起始
  • 特徴8つの手根骨の中で最も大きく、手根運動の中心軸となります

4) 有鉤骨(hamate)

  • 関節:第4・5CMC、手根中央
  • :小指対立筋(ODM)・短小指屈筋(FDM) 起始(有鉤骨鉤+屈筋支帯)
  • 臨床:掌側に突き出た「有鉤骨鉤」は屈筋支帯が付着し、ギヨン管の橈側壁を形成します。バットやゴルフクラブを強く握るスポーツにおいて、グリップエンドによる直達外力で有鉤骨鉤骨折を起こしやすい部位です

手根骨に付着する主な筋

関節:第4・5CMC、手根中央 筋:小指対立筋(ODM)・短小指屈筋(FDM) 起始(有鉤骨鉤+屈筋支帯) 臨床:掌側に突き出た「有鉤骨鉤」は屈筋支帯が付着し、ギヨン管の橈側壁を形成します 。バットやゴルフクラブを強く握るスポーツにおいて、グリップエンドによる直達外力で有鉤骨鉤骨折を起こしやすい部位です 。

始が手根骨(+屈筋支帯)にある筋

  • 短母指外転筋(APB):舟状骨結節・大菱形骨結節・屈筋支帯
  • 短母指屈筋(FPB):浅頭=大菱形骨・屈筋支帯 / 深頭=小菱形骨・有頭骨・第1中手骨底など
  • 母指対立筋(OP):大菱形骨結節・屈筋支帯
  • 母指内転筋(AddP)斜頭:有頭骨+第2/3中手骨底など
  • 小指外転筋(ADM):豆状骨・豆鉤靱帯・屈筋支帯
  • 短小指屈筋(FDM)/小指対立筋(ODM):有鉤骨鉤・屈筋支帯

停止が手根骨にある筋

  • 尺側手根屈筋(FCU):豆状骨に停止し、豆鉤靱帯・豆中手靱帯を介して有鉤骨鉤・第5中手骨底へ力を伝達します
  • 橈側手根屈筋(FCR):主な停止は第2・3中手骨底ですが、大菱形骨結節の深層を通過する際に付着をもちます

手根部の神経絞扼部位(トンネル)

手根骨が形成する空間は、神経や血管の重要な通り道となります。

1. 手根管(Carpal Tunnel)

  • 構成:橈側は舟状骨と大菱形骨、尺側は豆状骨と有鉤骨で構成される溝に、**屈筋支帯(横手根靱帯)**が天井として張ることで形成されるトンネルです
  • 内容物正中神経と、合計9本の屈筋腱(浅指屈筋腱4本、深指屈筋腱4本、長母指屈筋腱1本)が通過します
  • 臨床:これらの腱の滑膜炎や骨折による内圧上昇で正中神経が圧迫されると、手根管症候群を引き起こし、母指~中指のしびれや母指球筋の萎縮(猿手)が生じます

2. ギヨン管(Guyon管 / 尺骨神経管)

  • 構成:尺側は豆状骨、橈側は有鉤骨鉤で構成され、床は横手根靱帯、天井は掌側手根靱帯で形成されるトンネルです
  • 内容物尺骨神経と尺骨動脈が通過します
  • 臨床:ガングリオンや有鉤骨鉤骨折などにより尺骨神経が圧迫されると、ギヨン管症候群を引き起こし、小指と環指尺側のしびれや手内在筋の萎縮(鷲手)が生じます

クリニック・現場での“即役立つ”豆知識

  • 舟状骨骨折の遅発性X線所見:スナッフボックスに圧痛があり、初診時のX線で骨折線が見えなくても、舟状骨骨折を疑う場合は固定処置を行い、10~14日後に再撮影を行うことが重要です(骨吸収が進み骨折線が明瞭になるため)
  • ダーツスロー運動(Dart throw motion):手関節の日常的な動き(ダーツを投げるような、橈背屈から尺掌屈へ斜めに動く運動)では、舟状骨や月状骨はほとんど動かず、主に手根中央関節単独の運動となります。手根骨骨折後のリハビリに有用な運動方向です
  • 母指CM関節症の鑑別:母指の付け根の痛みは、大菱形骨と第1中手骨間の変形性関節症であることが多く、物をつまむ動作や瓶のフタを開けるような対立・回旋動作で痛みが悪化します

よくある質問(Q&A)

Q. 一番折れやすい手根骨は?
A. 舟状骨です。手根骨骨折の約70%を占めます 。血流が遠位から近位に向かうという解剖学的特徴から、近位極の骨折では血流が絶たれやすく、骨癒合不全(偽関節)や壊死を起こしやすいため、初期の適切な固定とフォローが極めて重要です 。

Q. 月状骨はなぜ問題になりやすい?
A. 手根骨の中で最も脱臼しやすく、血行が元々乏しいためです 。微小な外傷の蓄積により**Kienböck病(月状骨無腐性壊死)**を発症するリスクがあり、これが進行すると手根骨全体の配列が崩れ、広範な変形性関節症(SLAC wristなど)につながります 。

Q. 豆状骨は手関節(橈骨手根関節)を作りますか?
A. 作りません。豆状骨は尺側手根屈筋腱の内部にある種子骨であり、三角骨とだけ関節(平面関節)を形成します 。

Q. 手根骨と神経障害の関係は?
A. 手根骨は、神経の通り道である**「手根管」と「ギヨン管」**の土台(構成骨)となっています。橈骨遠位端骨折によるアライメント変化、有鉤骨骨折、手根骨の脱臼、またはガングリオンなどによってトンネル内の圧が上昇すると、正中神経(手根管症候群)や尺骨神経(ギヨン管症候群)が圧迫され、手指のしびれや運動障害が出現します 。

Q. 母指の“対立”に最も寄与する骨は?
A. **大菱形骨(trapezium)です。大菱形骨と第1中手骨は鞍関節(CM関節)**を形成しており、この関節の特殊な形状によって、母指が他の指と向かい合う複雑な3次元の対立運動(屈曲・内転・回内)が可能になっています 。