この記事では、横隔膜を治療するために必要な情報を掲載していきます。
横隔膜の概要
横隔膜はその名称から膜と間違われやすいですが、実際は他の骨格筋と同様で横紋筋に属しています。
横隔膜が収縮すると停止部である腱中心が引き下げられ、胸郭が拡大し、胸腔内圧が下がり、空気を取り込むことになります。
胸腔が広がると相対的に腹腔の容積が減るため、腹圧が高まり、排尿や排便、嘔吐を補助します。
横隔膜が弛緩すると停止部である腱中心が引き上げられ、胸郭が縮小し、胸腔内圧が上がり、空気を吐き出すことになります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 支横隔神経と副横隔神経 |
髄節 | C3-5(または6) |
起始 | ①胸骨部:剣状突起の内面
②肋骨部:第7-12肋骨(肋骨弓)の内面 ③腰椎部:外側脚と第1-4腰椎にかけての内側脚 |
停止 | 腱中止部分 |
栄養血管 | 上腕動脈 |
動作 | 吸気の主力呼吸筋(腹式呼吸) |
拮抗筋 | 腹横筋 |
横隔膜には三つの穴がある
横隔膜には血管、神経、食道などが通過するための大きな裂孔が3つあります。
①大静脈孔 | 下大静脈と右横隔神経の枝 |
②大動脈裂孔 | 大動脈、奇静脈、胸管 |
③食道裂孔 | 食道、迷走神経、左横隔神経の枝 |
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横隔膜の触診方法
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剣状突起直下に手を置き、腹部をふくらませながら吸気(腹式呼吸)すると収縮を触知できます。
呼吸に関する筋の収縮と呼吸運動
横隔膜は安静吸気時に腱中心が下降して、胸郭は約1.5㎝垂直方向に拡大し、胸郭の容積は約400ml増加します。
これは一回換気量(500ml)の70-80%を占め、残りは外肋間筋などの筋活動によって得られます。
筋肉 |
安静吸気 |
努力吸気 |
努力呼気 |
横隔膜 |
○ |
○ |
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外肋間筋 |
○ |
○ |
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内肋間筋前部 |
○ |
○ |
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肋骨挙筋 |
△ |
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上後鋸筋 |
△ |
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胸鎖乳突筋 |
△ |
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斜角筋群 |
△ |
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大・小胸筋 |
△ |
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僧帽筋 |
△ |
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肩甲挙筋 |
△ |
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脊柱起立筋 |
△ |
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肋下筋 |
△ |
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内肋間筋横・後部 |
○ |
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腹筋群 |
○ |
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腹横筋 |
△ |
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胸横筋 |
△ |
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下後鋸筋 |
△ |
アナトミートレイン
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横隔膜はアナトミートレインの中で、DFL(ディープ・フロント・ライン)に繋がっています。
横隔膜と腰方形筋
横隔膜は第12肋骨を引き上げ、腰方形筋は第12肋骨を引き下げることから、両者は拮抗するように作用します。
横隔膜と腰方形筋はDFLにおいて筋膜上の繋がりを持つことから、どちらも柔軟に動けることがコアを安定させるためには重要です。
腰方形筋は非常に硬くなりやすい筋肉であるため、コアスタビリティが低下している症例では、徒手的にリリースすることが求められます。
横隔膜テクニック
背臥位にて施術者は肋骨弓を把持し、患者が息を吸うのと同時に優しく肋骨弓を上外側に押していき、胸郭を横に広げていきます。
患者が息を吐いている間は肋骨弓を保持したままとし、胸郭の狭まりに対して安定化させるようにします。
間接的に横隔膜がしっかりと収縮できるように誘導することで、習慣的な姿勢の崩れを防止することが期待できます。