肋骨の構造と解剖学的特徴
肋骨は左右12対(計24本)の弓状の扁平骨です。後方は胸椎と「肋椎関節」を形成し、前方は胸骨と結合して「胸郭」というかご状の構造を形成し、心臓や肺などの重要臓器を保護するとともに、呼吸運動の補助を担っています。
- 真肋(第1〜7肋骨):前方で個別の肋軟骨を介して直接胸骨(胸骨柄および胸骨体)と結合します。肋骨の長さは下に行くほど長くなります。
- 仮肋(第8〜12肋骨):第8肋骨からは次第に短くなります。第8〜10肋骨は上位の肋軟骨に合流して胸骨に間接的に結合します。第11・12肋骨は前方が腹壁中に遊離しているため「浮遊肋」と呼ばれます。
- 胸郭の柔軟性:肋骨と胸骨は直接結合せず、弾力性のある肋軟骨を介することで、胸郭に柔軟性を持たせ、呼吸運動を可能にしています。
**肋骨骨折(fracture of the rib)**は、日常的によくみられる骨折で、全骨折の約10%を占めるといわれます。好発部位は、第5〜9肋骨の乳頭線〜前腋窩線上の骨部に約60%、それより後方に約30%とされ、肋軟骨部はまれです。
肋骨骨折の受傷機転
骨折の原因は、外力の加わり方により大きく3つに分類されます。
①直達外力による骨折
- 胸部に直接的な強い衝撃が加わって発生します。
- 特徴:打撃部位が内方へ押し込まれるため、骨片が内側へ向かい、胸膜や肺、血管を損傷し、気胸・血胸などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高いのが特徴です。
②介達外力による骨折

- 胸郭への前後方向からの圧迫など、外力が加わった部位から離れた部位に間接的な力が伝わって発生します。
- 特徴:肋骨の弯曲が最も強い部位(肋骨角付近)などで骨折が起こりやすく、骨片は外方に向かうため内臓損傷のリスクは比較的低くなります。
③筋収縮(裂離骨折)・疲労による骨折
- 筋収縮:高齢者や骨粗鬆症による骨脆弱性がある場合、くしゃみや咳による筋肉(腹斜筋や肋間筋など)の急激な収縮が牽引力となり、骨が引き裂かれるように骨折(裂離骨折)します。
- 疲労骨折:ゴルフのスイングなど、特定の回旋動作などを繰り返すことで、骨の同一部位に負荷が蓄積し、徐々に亀裂が入ります。
肋骨骨折の症状
- 疼痛:深呼吸、咳、くしゃみ、または体幹の回旋動作など、胸郭が動く際に激痛(自発痛・運動時痛)が誘発されます。
- 圧痛(マルゲーニュサイン):骨折線に一致した限局性の著明な圧痛が認められます。
- 介達痛:骨折部位から離れた肋骨を叩打・圧迫した際に、骨折部位に痛みが響く現象がみられることがあります。
- 変形・腫脹:直達外力では骨隆起や陥凹が触知されることがあり、皮下出血や腫脹を伴います。
肋骨骨折の画像診断
- 単純X線検査:基本的な画像検査です。しかし、肋骨は平面的に重なり合い、肺や心臓の陰影と重なるため、軽微なヒビや肋軟骨部の損傷は見逃されやすい特徴があります。
- CT検査:骨の立体構造を把握できるため、骨折線の詳細な走行や転位の程度、合併症(気胸など)の診断に有用です。
- MRI検査:X線では骨折線が確認できない「不顕性骨折(オカルト骨折)」の診断に極めて有用です。T1強調像での低信号や、STIR像(脂肪抑制画像)での骨髄浮腫を示す高信号によって早期に骨折を特定できます。
肋骨に付着する主な筋肉と影響
肋骨は、呼吸や体幹・上肢の運動に関わる多くの筋肉の起始・停止となっています。これらの筋肉が収縮すると骨折部に離開力や剪断力が加わるため、治癒を遅らせる原因となります。
- 主な起始筋:大胸筋、前鋸筋(第1〜9肋骨側面に起始)、小胸筋(第3〜5肋骨前面に起始)、腹斜筋群(外・内腹斜筋)、横隔膜(第7〜12肋骨内面に起始)、広背筋など。
- 主な停止筋:外・内肋間筋、斜角筋群(前・中斜角筋は第1肋骨、後斜角筋は第2肋骨に停止)、腹直筋、腰方形筋、腸肋筋など。
- 特に、呼吸に関わる横隔膜や肋間筋、上肢の運動で肩甲骨を固定する前鋸筋などの働きにより、骨折部は常に動的なストレスに曝されます。
肋骨骨折の合併症
- 気胸・血胸:折れた骨片が肺や血管を傷つけ、胸腔内に空気や血液が貯留し、呼吸困難や胸部圧迫感が進行します。
- 呼吸器感染症(無気肺・肺炎):特に高齢者において、痛みによる浅い呼吸や咳の抑制が原因で、分泌物が貯留しやすく、微小無気肺から二次的に重篤な肺炎を引き起こすリスクがあります。
- 胸郭出口症候群の誘発:胸郭の可動性低下や疼痛回避姿勢により、第1肋骨と鎖骨の間(肋鎖間隙)や斜角筋隙が狭小化し、腕神経叢や鎖骨下動静脈が絞扼されて上肢のしびれや痛みを引き起こすことがあります。
鑑別が必要な疾患
- 胸膜炎:深呼吸時に悪化する漠然とした鋭い痛みが生じます。
- 帯状疱疹:肋骨上に圧痛はなく、神経支配領域に沿った痛みが先行し、数日後に皮疹が出現します。
- 肋軟骨損傷:X線では描出されないため、触診による圧痛部位での鑑別が必要です。
最終更新:2026-07-09


