肋骨骨折のリハビリ治療について解説していきます。
肋骨骨折の概要
肋骨骨折(fracture of the rib)は、日常的によく認められる骨折で、全骨折の約10%にもなるといわれています。
受傷機転は直達外力や介達外力がほとんどですが、その他にも筋収縮力によるものや疲労性の骨折もあります。
好発部位は第5-9肋骨乳頭線上から前腋窩線上の骨部に60%、それより後方で30%に発生します。
肋軟骨部に発生する場合は少ないです。
直達外力による肋骨骨折
骨折部に直接的な外力が加わることで折れる場合を指します。
骨折部の尖端が内方に向かうため、胸膜や肺を損傷することが多く、生命の危険にさらされる場合もあります。
![]() |
介達外力による肋骨骨折
骨折部に間接的な外力が加わることで折れる場合を指します。
直達外力とは異なり、最も弯曲が強い部位で骨折が起こりやすい傾向にあります。
骨折部の尖端が外方に向かうため、胸膜や肺を損傷することは少なく、生命の危険にさらされる危険性は高くありません。
![]() |
筋収縮による肋骨骨折
骨の脆弱性が認められる高齢者などでは、くしゃみや咳などにより、肋間筋が急激な収縮を起こすことで肋骨が折れる場合があります。
中年期以降の初心者ゴルファーにも発生頻度が多く、スウィング時の筋収縮が関わっています。
![]() |
肋骨骨折の症状
肋骨に骨折がある場合は、深呼吸や咳で痛みが誘発され、骨折部に限局した圧痛を認めます。
前述した図のように、直達外力の場合は前後に骨隆起と側部に陥没が出現し、介達外力の場合は側方に隆起および陥没が認められます。
第1肋骨骨折の場合は、鎖骨上窩に圧痛、運動時に上肢や頚部の痛みやしびれ感が起こります。
![]() |
肋骨に付着する筋肉について
肋骨に付着する筋肉が収縮することにより、痛みや離開が生じることになるので、骨折部位と筋肉の関係は確認しておくことが大切です。
起始する筋肉 |
大胸筋胸肋部、前鋸筋、小胸筋、鎖骨下筋、外腹斜筋、頸腸肋筋、胸腸肋筋、外肋間筋、内肋間筋、横隔膜肋骨部、広背筋肋骨部、腹横筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状部 |
停止する筋肉 |
外肋間筋、内肋間筋、胸腸肋筋、腰腸肋筋、上後鋸筋、下後鋸筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋、内腹斜筋上部、胸最長筋外側部、腹直筋、腰方形筋 |
※赤文字の筋肉は起始・停止の一部のみを肋骨にもつ
肋骨骨折の合併症
肋骨骨折で重要なことは骨折そのものではなく、骨折によって生じる合併症(気胸や血胸)を見逃さないことです。
気胸とは、骨折部が肺に突き刺さって穴が開いた状態で、軽症の場合は放置で治りますが、重症の場合は死に至る可能性もあるので注意を要します。
息苦しさがあるときは気胸が起きている可能性があるので、検査にて確認することが必要です。
血胸とは、肺に出血が生じた状態で、時間の経過とともに悪化することがあるため、徐々に胸の苦しさが増してしまうようなら疑われます。
肋軟骨損傷との鑑別
肋軟骨に損傷が起きている場合はX線撮影ではわからないため、症状の強さと圧痛の場所で鑑別する必要があります。
症状が強ければバストバンドを着用することもありますが、通常は1ヶ月以内に疼痛は緩和します。
もうひとつ肋骨骨折と鑑別すべき疾患に帯状疱疹がありますが、こちらは誘因なく疼痛が発症し、数日してから皮疹を認めることになります。
肋骨骨折との鑑別ポイントとして、肋骨に圧痛はなく、神経支配に沿った一定範囲の痛みを認めます。
肋骨骨折の治療
保存療法にて局所の固定が原則であり、バストバンドやさらし布固定が適用され、呼気時に圧迫しながら装着します。
通常、骨癒合は三週間で完了し、癒合が進むにつれて痛みも軽減していきます。
そのため、リハビリの処方が出ることはほとんどありません。
骨癒合までは深呼吸による骨折部の離開を防ぎ、装具除去後は徐々に深呼吸ができるように誘導していきます。