胸郭(肋骨)の構造と動きについて

胸郭の概要

胸郭(thorax)は12個の胸椎・左右12対の肋骨・1個の胸骨で構成。
肋骨は後方で胸椎と肋椎関節を、前方では肋軟骨を介して胸骨と胸肋関節をつくり、
内臓の保護呼吸時の容積変化(肺換気)に寄与します。

  • 肋軟骨:第1–10肋骨が胸骨と連結。

  • 肋骨下角(剣状突起下の角度):成人で**おおむね70–90°**が目安。


胸骨(sternum)の構造と主な連結

  • 鎖骨切痕胸鎖関節を形成。

  • 肋骨切痕胸肋関節を形成。

  • 胸骨柄・体大胸筋(胸肋部)胸鎖乳突筋(胸骨頭)胸骨舌骨筋・胸骨甲状筋(いずれも後面)などが付着。

  • 剣状突起横隔膜(胸骨部)が起始し、腹直筋腱膜が連結します。
    ※腹横筋は剣状突起に直接停止しません
    (腱膜が腹直筋鞘を介して正中に集約)。


肋骨(ribs)の区分と要点

  • 真肋(1–7):各肋軟骨が胸骨へ直接連結。

  • 仮肋(8–10):肋軟骨が合流して第7肋軟骨へ連結。

  • 浮遊肋(11–12):前方は胸骨と連結しない

  • 形態的ランドマーク:

    • 肋骨頭…胸椎椎体の肋骨窩と関節(肋骨頭関節)。

    • 肋骨結節…胸椎横突起の関節面と関節(横突肋骨関節)※11・12肋は欠く

    • 第1肋前斜角筋結節鎖骨下動脈溝をもつ。

代表的な筋付着(抜粋)

  • 前面:大胸筋(胸肋部)小胸筋(第3–5肋)前鋸筋(第1–8/9肋)鎖骨下筋(第1肋)

  • 肋間:外肋間筋/内肋間筋

  • 後面:上後鋸筋(上位肋)/下後鋸筋(下位肋)腸肋筋(肋骨角)長肋部(胸最長筋外側部)腰方形筋(第12肋)


肋椎関節(後方)の構造

  • 肋骨頭関節(肋骨頭 × 椎体の肋骨窩)

  • 横突肋骨関節(肋骨結節 × 横突起の関節面)
    可動はわずかですが、呼吸時の胸郭拡張に不可欠。第11・12肋は横突肋骨関節を持ちません


胸郭の呼吸運動と触診の順序

触診は①上位肋→②下位肋→③浮遊肋→④横隔膜の順がわかりやすい。

部位 手の位置(触診) 主な運動様式 介助のコツ
上位肋(1–4) 鎖骨下に母指/手掌 ポンプハンドル:吸気で前上方、呼気で後下方 呼気後下方に誘導(下げる)
下位肋(5–10) 胸郭外側(腋窩線あたり) バケツハンドル:吸気で外上方、呼気で内下方 呼気内下方に軽く圧を加える
浮遊肋(11–12) 背部側から肋骨端を包む キャリパー:吸気で外側へ開く 痛みが出ない軽接触で動きを感じる
横隔膜 剣状突起下の内面に母指 安静吸気で主動筋として下降 呼気終末でわずかに追従→吸気で解放

ポンプハンドル運動バケツハンドル運動

キャリパー運動

左右差の読み取りのヒント

  • 吸気は上がるが呼気で戻りが遅い肋吸気位で固定(上位肋で目立ちやすい)。

  • ひと肋ごとに手をずらし、「移動量」「タイミング」「痛み」を比べる。

  • 横隔膜は「呼気終末の柔らかさ」が回復の目安。


よくある臨床メモ

  • 後方関節包タイト胸椎後弯の硬さがあると、下位肋のバケツ運動が出にくい。胸椎伸展のエクササイズを併用。

  • 11・12肋は過敏なことが多いので圧は最小限

  • 呼吸介助は「呼気を助ける自発吸気を引き出す」の順が安全で効果的。


Q&A

Q1. 肋骨下角が広い/狭いと何が起こる?
A. 広すぎると横隔膜のドームが浅くなり効率低下狭すぎると胸郭拡張が出にくい。**70–90°**程度を目安に、呼吸・体幹運動で調整します。

Q2. 上位肋が“吸気位固定”か“呼気位固定”かを簡単に見分ける方法は?
A. 触診下で呼気に遅れて下がる=吸気位固定吸気に遅れて上がる=呼気位固定が目安。

Q3. 第11・12肋の介入で注意点は?
A. 横突肋骨関節がなく可動方向も外開き中心背部から軽接触で呼吸に同調し、強圧は避ける

Q4. 呼吸介助は吸気と呼気どちらを優先?
A. 多くの症例で**呼気の誘導(戻す力)**を優先すると、次の吸気が自然に深くなりやすいです。


最終更新:2025-09-20