脊髄損傷のリハビリ治療

要点(まずここだけ)

  • 病態:脊髄の挫傷・圧迫(出血や浮腫)が中心。中枢神経は基本的に再生しないため、早期から残存機能の最大化が鍵。

  • 疫学:二峰性:20代(スポーツ・バイク)/50–60代(脊柱管狭窄+転落)。男性4:女性1頸髄損傷 ≈ 6割

  • 診断と予後の見立て脊髄ショック期は完全・不全の判定が難しい。
    回復見込みの目安:対麻痺~3週/四肢麻痺~6週不全損傷は~6か月で最終高位・重症度(AIS)を確定。
    ショック離脱の目安:球海綿体反射・肛門反射の復帰

定義と病態

頚髄損傷

強い外力(交通事故・転落・スポーツ)で脊髄実質が挫傷し、浮腫・出血・圧迫により損傷高位以下に運動・感覚麻痺が出現。完全麻痺不全麻痺に大別。

脊髄ショックとは

受傷直後~数日~数か月:反射消失、弛緩性麻痺、尿閉、徐脈・低血圧・低体温。離脱後は痙性出現(不全では随意性も回復へ)。

疫学と原因

  • 好発年齢:二峰性(20代、50–60代)

  • 男女比:約 4:1(男性多い)

  • 受傷原因(例):交通事故>高所落下>転倒>打撲・下敷き>スポーツ

高位診断のコツ(脊髄レベルの読み方)

  • 表記例 C6C6は保たれC7以下が障害。

  • 頸椎は7個/頸髄神経は8対C1–C7は椎体の上T1以下は椎体の下から神経根が出る(C8はC7–T1間)。

代表レベル別の残存機能(抜粋)

  • C6:手関節背屈(テノデーシス)あり/移乗はボードで自立可。

  • C7肘伸展が加わり起居・移乗の自立が大きく前進。

  • L2–L4:装具+杖で歩行可の目安。L5–S1は条件次第で装具なしも。

代表レベル別の残存機能(詳細)

C1-3

・残存筋:胸鎖乳突筋(C2-3)、僧帽筋(C2-4/副神経)
・横隔膜(C3-5)が働かないため人工呼吸器が必要
・日常生活は全面介助、呼吸でコントロールする電動車イスは可

C4

・残存筋:胸鎖乳突筋(C2-3)、僧帽筋(C2-4/副神経)
・動作可:頭部動作、肩甲骨挙上
・横隔膜が働くため自力呼吸が可能
・車椅子操作は基本介助、口や顎でのコントロールする電動車イスは可

C5

・残存筋:三角筋(C5-6)、上腕二頭筋(C5-6)、回外筋(C5-6)
・動作可:肩外転・伸展・屈曲、肘屈曲、前腕回外
・深部反射:上腕二頭筋出現
・自力での移乗不能、電動車イスと標準型車イスの併用
・寝返りや坐位は自力では不可

C6

・残存筋:長・短撓側手根伸筋(C5-7)、円回内筋(C6-7)
・動作可:手関節背屈・撓屈、前腕回内
・深部反射:腕橈骨筋出現
・手関節背屈の有無は予後に関連、手指機能は不能
・車イス操作はノブつきリムなどで一部介助から自走レベル
・移乗はトランスファーボードで自立も可、坐位でのプッシュアップが可
C6 C6⑦ C6⑤

C7

・残存筋:上腕三頭筋(C6-8)、撓・尺側手根屈筋(C6-8)
・動作可:肘関節伸展、手関節機能は完全可能
・深部反射:上腕三頭筋出現
・手指屈曲はtenodesis actionで弱く、母指機能も不完全
・車椅子操作は自立レベル
・寝返り、起き上がり、坐位での移動が可
プッシュアップ 起き上がり C7③

C8

・残存筋:浅指屈筋(C7-T1)、深指屈筋(C8-T1)、総指伸筋(C6-8)
・動作可:手指屈曲は完全で実用的握力となる
・指の内外転、つまみ動作は不完全
・ベッド上動作、トランスファー、身の回り動作は自立

T1

・残存筋:短母指外転筋(C7-T1)、小指対立筋(C8-T1)
・動作可:上肢機能は完全となる

T2-12

・残存筋:肋間筋(T10-11)、腹直筋(T5-12) etc.
・下位に行くほど肋間筋、腹筋、傍脊柱筋が多く加わる

L1

・残存筋:腸腰筋(L1-3)
・動作可:腸腰筋はまだわずかに機能するのみで弱い

L2

・残存筋:腸腰筋(T12-L3)、内転筋群(L2-4)
・動作可:股屈曲はは十分、内転は弱い
・深部反射:膝蓋腱反射消失

L3

・残存筋:内転筋群(L2-4)、大腿四頭筋(L2-4)
・動作可:股内転は十分、膝伸展は弱い可能
・深部反射:膝蓋腱反射減弱
・短下肢装具に松葉杖か1本杖を使っての歩行が可
・車椅子の方が実用的である場合も多い

L4

・残存筋:大腿四頭筋(L2-4)、前脛骨筋(L4-5)
・動作可:膝伸展は十分、足関節背屈・内反が可能
・深部反射:膝蓋腱反射出現、アキレス腱反射消失

L5

・残存筋:中殿筋(L4-S1)、大殿筋(L4-S2)、内側膝屈筋群(L4-S1)
・動作可:股関節外転が可能、伸展は弱い(大殿筋はほぼ機能しない)
・歩行時に十分な底屈が可能であれば、装具なしでも歩行は可

S1

・残存筋:大殿筋(L4-S2)、外側膝屈筋群(L4-S2)
・動作可:膝屈曲、足指伸展
・深部反射:アキレス腱反射出現
・足指屈曲は乏しい、大殿筋・下腿三頭筋の機能は不十分

損傷レベル別ADL自立度

残存機能レベル 人数 平均年齢 自立した割合(単位:%)
寝返り 起き上がり 更衣 直角移乗 横移乗 車椅子駆動 排尿動作 排便動作 自動車運転
C4 14 36.0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
C5A 10 33.5 0 0 0 0 0 60 0 0 0
C5B 21 29.0 24 10 19 10 0 86 5 0 0
C6A 16 23.9 47 40 60 25 6 94 20 7 9
C6B1 15 24.7 73 67 73 67 27 100 40 7 14
C6B2 19 27.7 89 89 89 95 69 100 81 25 41
C6B3 24 27.9 96 96 100 98 70 100 76 67 35
C7A 3 40.0 100 100 100 100 100 100 100 100 67
C7B 1 47.0 100 100 100 100 0 100 100 0 0
C8A 6 34.2 80 83 80 83 80 100 80 80 40
C8B 13 28.3 92 92 92 92 83 100 92 92 50

評価スケール

Frankel分類

A 完全麻痺 損傷高位以下の運動知覚完全麻痺
B 知覚のみ 運動完全麻痺で知覚のみ軽度の残存
C 運動不全 損傷部以下の筋力は若干残存しているが実用性なし
D 運動あり 損傷部以下の筋力は残存しており歩行可能(補助具あり可)
E 回復 筋力及び知覚は正常。反射異常はあっても可

ASIA機能障害尺度

A 完全麻痺 S4-5の知覚・運動ともに完全麻痺
B 不全麻痺 S4-5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存
C 不全麻痺 損傷部以下の筋力は残存しており主要筋群の半分以上が筋力3未満
D 不全麻痺 損傷部以下の筋力は残存しており主要筋群の半分以上が筋力3以上
E 正常 筋力及び知覚は正常。反射異常はあっても可
43回PT問題22

感覚(デルマトーム)と反射(超要点)

  • 痛覚のレベル取りが最も有用(慢性期は触覚が代償で下がりやすい)。

    • C5:三角筋下部/C6:母指・示指C7:中指C8:環・小指

    • T4:乳頭/T10:臍/T12:鼠径

  • 深部反射

    • 上腕二頭筋(C5/6)、腕橈骨筋(C6)、上腕三頭筋(C7)、膝蓋腱(L3/4)、アキレス腱(S1)

    • ショック期は消失→ その後障害下位で亢進(痙性)

デルマトーム|表面 C4 肩、鎖骨上部
C5 三角筋下部
C6 母指、示指
C7 中指
C8 環指、小指
T1 前腕肘尺部
T2-T8 前胸壁
T4 乳頭
T6 剣状突起
デルマトーム|裏面 T10
T12 鼠径部
L1 大腿前面上1/3
L2 大腿前面中1/3
L3 大腿前面下1/3、膝
L4 下腿、足脛側
L5 足背足底脛側
S1 足背足底腓側
S2以下 臀部、肛囲
深部反射 C4 C5 C6 C7 L1 L3 L4 S1
上腕二頭筋 ×
腕橈骨筋 × ×
上腕三頭筋 × × ×
膝蓋腱 × × × × ×
アキレス腱 × × × × × × ×
表在反射 中枢レベル
腹壁反射 T8-12
堤睾筋反射 T12,L1,L2
足底反射 S1,S2
球海綿体反射 S3
肛門反射 S5

特徴的な不全損傷パターン(要約)

脊髄
部位 機能
脊髄視床路 反対側の温覚・痛覚と触覚の一部
脊髄後角 温覚・痛覚
中心灰白質 両側の温覚・痛覚(分節性)
外側皮質脊髄路 同側の随意運動
前皮質脊髄路 随意運動
脊髄後索 同側の深部感覚・触覚

脊髄前部障害

脊髄前半の障害
  • 前脊髄動脈閉塞症候群
  • 障害レベルの弛緩性麻痺、障害レベルより下の痙性麻痺(下肢)
  • 障害レベル以下の温痛覚脱失
  • 後索を走る深部感覚は正常

脊髄後索障害

脊髄後索の障害
  • 脊髄瘻(せきずいろう)
  • 深部感覚の脱失(Romberg徴候陽性)
  • 表在感覚は正常

中心管付近の障害

中心管付近の障害
  • 脊髄空洞症
  • 両側の分節性温痛覚脱失
  • 深部感覚は正常

ブラウン・セカール症候群

ブラウン・セカール障害
  • 完全半側は稀、like型は外傷でもあり
  • 障害側の痙性麻痺と反射亢進
  • 障害側の損傷レベル以下の深部感覚の脱失
  • 障害側の損傷レベルの全知覚脱失と弛緩性麻痺
  • 反対側の損傷レベル以下の温痛覚脱失

リハビリのフェーズと狙い

フェーズ 主要目標 代表的介入
安静固定期(~8–12週) 廃用予防・合併症予防・可動域維持 他動ROM・自動介助ROM、呼吸理学療法、ポジショニング、除圧、教育
離床前期 起居・移乗の土台作り 漸増的筋力強化、プッシュアップ学習、血管運動神経と姿勢感覚の再教育、ADL練習
離床後期 残存能力の最大化と代償戦略 車いす操作・歩行(装具/杖)、職業訓練・住環境調整、在宅復帰訓練

具体介入の要点

1)関節可動域運動(ROM)

  • 目的:拘縮予防・改善、ADL効率の確保。

  • 重点関節:肩甲上腕関節/胸鎖関節/肩甲胸郭関節/肘/手/股/脊柱。

  • コツ:痛みを誘発しない範囲で反復・小可動域から。日内変動(朝硬い等)を踏まえて時間帯も工夫。


2)ポジショニング(褥瘡対策)

  • 急性期は特にハイリスク:安静+感覚低下で褥瘡が起きやすい。

  • 原則定時体位変換圧分散(ブロックマット/クッション)皮膚チェック

肢位別・褥瘡好発部位

  • 仰臥位:後頭・肩甲・肘頭・仙骨・尾骨・踵

  • 腹臥位:膝蓋骨・上前腸骨棘

  • 側臥位:大転子

  • 坐位:坐骨結節・尾骨

注意:湿潤・ずれ・摩擦を最小化。失禁管理、寝具のしわ取りも効果大。


3)基本動作訓練(床上~座位~起居)

A. 座位保持(長坐位が基本)

  • 課題:体幹筋麻痺で骨盤正中保持が難しい。

  • 方法両坐骨+尾骨の3点支持で安定化。

  • ハムストリングス:適度な緊張は座位安定に役立つが、プッシュアップの妨げにも。

    • 目安:**SLR ≈ 90°**にとどめ、過度な伸張は避ける(機能的短縮を活かす)。

B. 座位での移動(プッシュアップ主体)

  • 前提:上肢筋力・体幹/股関節可動性が鍵。

  • プッシュアップの4相(型を覚える)

    1. 鉛直挙上:体幹を真上へ持ち上げる

    2. 後上方移動:バランスを保ちながら腰部を後上方へ

    3. 最高位保持:腰部を最も高い位置で安定

    4. 着座:バランス維持しつつ腰部を下ろす

  • 最重要第1相の確実化(これができると以降が安定)。

C. 寝返り

  • 上位損傷上肢スイングの慣性を活用。

  • 効率化体幹回旋可動性の確保+肩甲帯の前方突出で身体を丸める。

  • 注意過度の回旋は下肢への力伝達を阻害。“適度”を見極める

D. 起き上がり

  • 肘伸展筋群麻痺では上肢のみは困難。

  • 工夫寝返り併用法仰臥位から直接起き上がる方法など、省エネ動作を個別指導。

E. プッシュアップ(床・ベッド上)

  • 手の向き:肩外旋/肘伸展/前腕回外で手掌接地。

  • 支持:上肢と体幹を床面に対し直立に近づけ、肩を支点に体重支持。

  • 動き:上肢前傾が出ないように体幹を後方へ押し上げる

  • 利点:四肢麻痺でも安全・省エネ。対麻痺でも経済的な筋活動を学べる。


よくある質問(FAQ)

Q1. 完全か不全かはいつ確定しますか?
A. 対麻痺は**~3週**、四肢麻痺は**~6週は改善の余地あり。不全は~6か月**で最終評価を。

Q2. 脊髄ショック中にすべきことは?
A. 除圧・ポジショニング・呼吸理学療法・ROM・合併症予防を徹底。重症循環動態の管理は医療チームで。

Q3. C6とC7の臨床的違いは?
A. C6=手関節背屈(テノデーシス)でつまみ代償が可能、C7=肘伸展が加わり起居・移乗が飛躍的に自立へ。

Q4. どの感覚でレベルを取るのが正確?
A. 痛覚が最も信頼性高い(慢性期は触覚下がりやすい)。

Q5. 痙縮が強い時の基本対応は?
A. 誘因(感染・便秘・圧迫)の除外 → 体位・ストレッチ → 補助具 → 薬物の順で多面的に。

Q6. 車いすの自立はどの高位から?
A. 個人差はあるが、C6後半〜C7屋内自走の目処、C8–T1で多くが実用自走へ。

Q7. 歩行は期待できますか?
A. L2–L4装具+杖歩行、L5–S1では条件により装具なしも。頸・胸髄高位は車いす中心

Q8. 家族が今すぐできる支援は?
A. 除圧・体位変換の習得環境整備(スロープ、手すり、移乗スペース)、情報共有ノートの運用。

Q9. 自律神経過反射が疑われたら?
A. 座位にして血圧測定誘因(膀胱・腸・皮膚圧迫)除去→改善なければ医療的介入

Q10. 仕事復帰の時期は?
A. 高位・重症度・環境調整で大きく異なる。職業リハと連携し、段階的復帰を設計。


最終更新:2025-09-08