腱板機能不全による肩関節不安定症について

どこかの方向に肩を動かしたときに急激な痛みが走る。

このような訴えの肩関節疾患の患者は非常に多いですが、そのほとんどは腱板機能不全による肩関節不安定症から生じる痛みです。

最近はある程度にその傾向と治療法がわかってきたので、まとめという形で記事にすることにします。

まずは復習として腱板を構成する筋肉ですが、前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の4つになります。

腱板構成筋の中で断裂(機能不全)を起こしやすい順序としては、①棘上筋、②棘下筋、③肩甲下筋、④小円筋になります。

棘上筋が機能不全を起こしている場合

腱板の中で圧倒的に断裂しやすいのが棘上筋です。

理由としては、肩関節を挙上したときに肩甲骨の肩峰と上腕骨の大結節が接触しやすく、その間を通過する棘上筋腱が挟み込まれるからです。

棘上筋が機能不全を起こすと、骨頭を関節窩に押し付けて回転させることができなくなるため、骨頭の上方変位が増してしまいます。

そうするとさらに肩峰と大結節は衝突しやすくなり、痛みを強く訴えたり、重度の場合は肩を挙げることも困難となってしまいます。

棘上筋の出力を確認する方法として、側臥位で肩関節を30度ほど屈曲して、そのポジションから肩関節の外転運動を反復してもらいます。

肩関節を30度屈曲させる理由としては、棘上筋の走行を真っ直ぐにすることで筋出力を十分に発揮するためです。

肩関節を外転する際に肩甲骨が浮き上がるのを防ぐことで、僧帽筋上部や肩甲挙筋の収縮が入らないように注意してください。

もしもこの運動で肩関節にゴリゴリとした音がしたり、痛みを訴えるようなら、肩関節の動きが不安定であることが予想されます。

具体的に書くと、深層の棘上筋よりも表層の三角筋中部の収縮が強いために、骨頭が浮き上がって周囲とぶつかっている状態にあります。

そのために音がしたり、周囲組織を挟み込んで痛みが起こったりすることにつながっているわけです。

症状が軽度の場合は、この方法では検査に引っかからないので、1kgのダンベルを把持させて再度運動を実施してもらいます。

側臥位で実施しているので、「重力+ダンベルの重り」が負荷している状態であり、これで前述した不安定性が出現するかをみていきます。

正常なら1kgぐらいは問題なく実施できるはずなので、左右で比較してもらい、同じように運動を反復できるかを確認します。

ここまでが棘上筋の機能不全を確認するテストになりますが、三角筋中部は同じ肩関節外転に作用するので代償的に働くのはわかりますが、どうして肩甲挙筋などが代償的に働くかは理解しにくいかと思います。

そのことを理解するためには筋連結を知っておく必要があり、簡単に書くと、隣接する筋肉は筋膜を介して繋がっているわけです。

具体的には、筋肉の起始や停止は骨だけでなく(教科書には骨しか載ってないですが)、筋膜にも一部の線維を介して連結しているわけです。

上の図は代表的な筋連結を示したもの(アナトミー・トレイン)ですが、棘上筋は肩甲挙筋と繋がっていることがわかります。

棘上筋が部分断裂などで機能不全を起こすと、その出力を代償するために連結を持つ肩甲挙筋などが頑張って働きます。

臨床的に、肩の痛みと首のこりを同時に訴える患者は多いですが、そこには棘上筋の出力低下を肩甲挙筋が補っているケースが多いわけです。

以前はどうして肩甲挙筋が凝りやすいのか理解できませんでしたが、この連結を知っておくと非常にわかりやすいかと思います。

また、三角筋中部がガチガチに硬くなって圧痛を認めるケースも、棘上筋の機能不全による代償的な過緊張として疑うことができます。

棘下筋が機能不全を起こしている場合

棘上筋に次いで断裂しやすいのが棘下筋です。

棘下筋の出力を確認する方法として、側臥位で肘関節を90度屈曲し、肩関節を内旋させて手のひらをお腹につけた状態から、肩関節の外旋運動を反復してもらいます。

その際に脇が開かないように注意してもらい、検査者は棘下筋がしっかりと収縮しているかを確認します。

もしもこの運動で肩関節にゴリゴリとした音がしたり、痛みを訴えるようなら、肩関節の動きが不安定であることが予想されます。

具体的に書くと、棘下筋よりも三角筋後部の収縮が強いために、骨頭が外上方に浮き上がって周囲とぶつかっている状態にあります。

こちらも棘上筋の検査と同様で、軽度の場合は引っかからない可能性もあるので、1kgのダンベルを把持させて再度運動を実施してもらいます。

正常なら1〜2kgぐらいは問題なく実施できるはずなので、左右で比較してもらい、同じように運動を反復できるかを確認します。

棘下筋は菱形筋と強く筋連結を持っていますので、へき(肩甲骨内側)にコリを訴えるケースでは棘下筋の機能不全を疑うことができます。

肩甲下筋が機能不全を起こしている場合

肩甲下筋の断裂(機能不全)はあまり多くないために、見落としがちなので注意が必要です。

肩甲下筋と他の腱板構成筋との最大の違いは、肩甲下筋のみ小結節に付着し、その他は大結節に付着するところです。

基本的に肩峰と衝突するのは大結節であるため、骨頭の上方に付着する棘上筋や棘下筋が断裂しやすい傾向にあります。

ただし、必ずしも大結節が衝突するわけではなく、骨の形態や肩関節の動きによっては小結節が衝突するケースも存在します。

全9例 大結節 小結節
屈曲

2

7

外転

9

0

挙上外旋

7

2

挙上内旋

9

0

水平内転

5

4

水平外転

9

0

上の表は、肩関節の各運動時に肩峰と最大接触する部位を示したものです。

とくに肩関節の屈曲運動は、大結節よりも小結節のほうが接触しやすい動きであるため、肩甲下筋を損傷するリスクが高いといえます。

受傷の機転として多いのは、雑巾がけのような動きをしているときに手が滑ってしまい、肩が急激に屈曲や水平内転した場合です。

そこで肩甲下筋腱が挟み込まれると単独損傷し、炎症が落ち着いてからも機能不全に伴う不安定症で痛みが残る可能性があります。

肩甲下筋は肩関節内旋の主力筋ですが、断裂が生じると機能を代償するために大胸筋や広背筋が過剰に収縮することにつながります。

肩甲下筋の出力を確認する方法として、座位で肘関節を90度屈曲し、肩関節を内旋させてお腹を押すように力を入れてもらいます。

機能不全がある場合は、押す力が弱かったり、痛みを訴えたり、大胸筋などが過剰に収縮する代償が認められます。

おわりに

ざっくりでしたが、代表的な腱板機能不全とその評価法について解説してきました。

通常なら機能不全を起こしている筋肉と同様の作用を持つ筋肉を鍛えることで、その動きを代償することができます。

ただし、腱板構成筋の場合はアウターマッスルが過剰に収縮すると上腕骨頭の動きが偏位し、反対に痛み(不安定症)を起こすことにつながります。

そのため、筋線維の一部だけが断裂しているのなら、残っている筋線維を鍛えることで代償することが必要となるわけです。

出力が不足したまま重いものを持つ作業を繰り返すと、アウターマッスルが強く働いて断裂が悪化する可能性も高いので、必ず筋力に合わせた作業量に調整することが大切となります。

とくに女性は男性と比較して筋力が弱いので、肩を痛める前に日頃から鍛えておくことが予防につながるというわけです。


vc

他の記事も読んでみる

スキルアップできる本

vc

勉強になる情報をお届けします!

ピックアップ記事

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme