舟状骨骨折の概要
- 発生頻度:手根骨骨折の60%超〜70%を占め、手根骨のなかで最も多く発生します。10〜40歳代の男性に多くみられます。
- 見逃しやすい理由:関節内骨であり、表面の大部分が関節軟骨に覆われているため血行が乏しい特徴があります。通常の単純X線2方向では骨折線が不明瞭で見逃されることがあり、放置すると血行不良により偽関節や虚血性壊死のリスクが高くなります。
- 典型的機転:スポーツや転落・転倒の際、手掌をついて手関節が背屈強制されることで骨折します。パンチ動作でも骨折することがあります。
- 後遺症:放置や遅延治癒により偽関節に至ると、骨吸収や月状骨の背屈位変形(DISI変形)などの手根不安定症をきたします。長期経過では、橈骨の舟状骨窩との適合性が不良となり、変形性手関節症(SNAC wrist)に進行する原因となります。
解剖と血行
- 解剖:舟状骨は手根骨の近位列の最も橈側に位置します。近位側は凸面で橈骨と橈骨手根関節を形成し、有頭骨と相対する面は凹面を呈しています。中央部において、遠位側は近位側に対して20°回内、30°尺屈し、ねじれるような構造をしています。
- 血行と骨折部位:骨折は腰部(中央1/3)が最も多く、次いで近位部が多くなります。栄養血管は主に遠位側から近位側へ向かう橈骨動脈枝による限られた血行となっています。そのため、特に近位部の骨折では血流が遮断されやすく、血行障害から遅延治癒や偽関節に陥りやすくなります。
臨床所見
- 手関節背側の解剖学的嗅ぎたばこ入れ(snuff box:長母指伸筋腱と短母指伸筋腱の間)の腫脹や圧痛が特徴的です。
- 掌側の舟状骨結節部における裂屈な圧痛もみられます。
- 運動時痛、可動域制限、母指軸圧痛、把持痛などを伴います。
- 初期は腫脹が軽微なこともあり、疼痛のみで見逃されやすい骨折です。
画像診断
- 初期X線では正面・側面だけでなく、手関節斜位や尺屈位(スカフォイドビュー)を推奨します。
- 受傷時の単純X線写真で骨折が不明瞭な場合でも、疼痛や圧痛が明確なら骨折を疑って固定を継続し、2〜3週後に再度X線検査を行うか、MRIやCT検査で骨折の有無を確認する必要があります。
- 骨折線の走行、転位の有無、および舟状月状骨間角度(SLA:正常40〜60°、DISI変形では70°以上)の評価が、治療方針の決定に直結します。
治療方針のめやす
- 保存療法:転位がない安定型の骨折に適用されます。前腕の回旋を防止するため、肘関節より近位から母指MP関節までのギプス固定を6〜8週間行うことが勧められます。
- 手術療法:
- 転位のある不安定な骨折や、早期にスポーツ・社会復帰を望む場合に適応となります。
- 経皮的スクリュー固定:転位が少ない場合は、掌側または背側から1cm強の小皮切でスクリューを刺入します。Herbertスクリューなどの専用スクリューは、両端のねじ山ピッチが異なるため、刺入に伴って骨折面に圧迫力が加わる構造となっており、軟部組織の侵襲が少なく骨癒合に有利です。
- 観血的整復固定術:転位が大きく整復できない場合や骨欠損がある場合は、遠位〜中央1/3の骨折では掌側から、近位側の骨折では背側からアプローチして直視下に固定します。
- 骨移植:陳旧例(偽関節)や骨欠損がある場合は、腸骨からの骨移植や、虚血性壊死例に対する血管柄付き骨移植が併用されます。
固定とおおまかな経過
- 小皮切によるスクリュー固定:ギプス1〜2週間 → 除去後、マイルドなROM運動へ。
- 観血的整復固定術:ギプス4〜6週間 → 除去後、ROM運動へ。
- 保存療法:ギプス6〜8週間。
- いずれの治療法においても、最終的な荷重やスポーツ復帰には骨癒合の確認が最優先されます。
リハビリ(実践フロー)
1) 固定期(術後/受傷後 〜 ギプス除去まで)
- ギプス固定期間中は、肩関節や手指の拘縮が生じないように自動ROM運動(6 packs exなど)を行います。
- 上肢の挙上や手指の運動によるポンプ作用を利用し、浮腫の予防に努めます。
2) 移行期(ギプス除去後 〜 術後8週頃)
- ギプス除去後は、マイルドに肘関節、手関節、母指のROM運動を開始します。バイブラ浴などの物理療法も併用します。
- 手関節は、橈骨手根関節の動きを引き出し、背屈と掌屈を意識しながら自動運動を行います。動かしにくい場合は、健側の手関節も同時に運動を行うと効果的です。
- リストラウンダーなどを活用し、橈骨手根関節・手根中央関節のそれぞれの運動軸を考慮した自動運動および自動介助運動を促します。
- 観血的整復固定術後の症例では、母指MP関節が伸展拘縮に陥りやすいため、対立位を意識した内転筋のストレッチや屈曲運動を取り入れます。
3) 機能期(骨癒合確認後、術後8週以降〜)
- 骨癒合が得られたら、積極的な他動運動と、日常生活や仕事での患手の使用を促します。
- 筋萎縮や筋力低下に対して、グリップやピンチ練習による握力増強訓練を行います。
- 荷重・スポーツの目安:手に体重をかける動作は観血的整復固定術の症例で8週後から開始しますが、スポーツや重労働は骨癒合が完全に得られるまで控えます。
合併症とフォロー
- 骨癒合不良:遅延治癒、偽関節、舟状骨近位部の虚血性壊死。
- 関節の変形・機能障害:手関節可動域制限、手根不安定症(DISI変形)、および変形性手関節症(SNAC wrist)への進行。
- その他:長期固定に伴う手根管症候群の併発や、母指MP関節の伸展拘縮。
- 治癒過程においては血流の確保が重要であり、血流を阻害する要因(喫煙等)や糖尿病などの全身的リスクに対する指導も重要となります。
よくある質問(Q&A)
Q. 初期X線が陰性でも固定は必要?
A. 臨床所見(snuff boxの圧痛など)が陽性なら固定が必要です 。舟状骨骨折は通常のX線では見逃されることが多く、放置すると偽関節や虚血性壊死のリスクが高まるため、2〜3週後の再撮影やMRI/CTでの精査を行うまでの間、固定を継続することが推奨されます 。
Q. どれくらいでスポーツ復帰できますか?
A. 競技内容と骨折型、および治療法によりますが、早期復帰を望む場合は手術療法(スクリュー固定)が選択されます 。完全に骨癒合が得られるまでは手に体重をかける動作や手をつくスポーツは控える必要があり、段階的な復帰が原則です 。
Q. 保存療法と手術療法、回復の違いは?
A. 保存療法は6〜8週間の長期ギプス固定(肘下から母指MP関節まで)が必要となり、関節拘縮が生じやすくなります 。一方、小皮切による経皮的スクリュー固定などの手術療法は、軟部組織への侵襲が少なく血行を温存できるうえ、ギプス期間を1〜2週間に短縮でき、早期の可動域訓練や社会復帰が期待できます 。
Q. リハビリ中に痛みが出たら?
A. 痛みが持続しないように、直ちに運動負荷を調整してください 。腫脹や痛みが強まる場合は無理をせず、リラクセーションや物理療法へ切り替え、主治医へ報告して状態の再評価を仰いでください 。
最終更新:2026-07-10



