踵骨骨折のリハビリ治療

踵骨の概要と解剖学的機能

踵骨骨折のリハビリ治療

.踵骨は足根骨の中で最大の骨であり、後足部の剛性と強度を担っています 。以下の重要な関節を形成し、足部の柔軟な動きと支持性を両立させています。

  1. 距骨下関節(距踵関節): 踵骨上部で距骨と接し、足部の**内がえし・外がえし(内転・外転)**運動の主軸となります 。
  2. ショパール関節(横足根関節): 前方の舟状骨・立方骨と形成され、距骨下関節と連動して足部の安定性と可動性を制御します 。
  3. 載距突起: 踵骨の内側に位置し、距骨を支えるとともに、長母指屈筋腱のプーリー(滑車)として機能する重要なランドマークです 。

踵骨骨折の特徴と分類

発生原因の90%以上が「高所からの転落」による直達外力です 。臨床的には、関節外骨折と、予後に大きく影響する関節内骨折に大別されます。

  • Essex-Lopresti分類: 骨折線がアキレス腱付着部を含む後方に抜ける**「舌状型(tongue type)」と、関節面が踵骨体部へ押し込まれる「陥没型(joint depression type)」**に分類されます 。
  • 画像評価の重要指標:
    • ベーラー角(Böhler angle): 踵骨の上縁を結ぶ線で、正常値は28〜40°です。骨折により関節面が陥没すると、この角度が減少(あるいは消失)し、予後予測の指標となります 。
    • プライス角(Gissane angle): 正常値は15〜17°であり、骨折によるアライメント変化を確認するために用いられます 。

治療およびリハビリテーションの原則

踵骨骨折は、距骨下関節の頑固な拘縮や荷重時痛を招きやすく、予後不良になりやすい「難治性」の側面があります 。

  • 早期運動療法の意義: 長期間のギプス固定は、筋肉の萎縮、骨量の減少、関節拘縮を引き起こします 。骨癒合を確認しつつ、早期から非荷重下での関節可動域運動を開始し、距骨下関節の回外拘縮を予防することが重要です 。
  • 下腿三頭筋への配慮: 踵骨隆起にはアキレス腱が付着するため、初期段階での強い抵抗下での底屈運動は、骨折部の転位リスクを高めるため避ける必要があります 。
  • 荷重開始のプロセス: 一般的に手術療法後は、術後6〜8週で部分荷重、10〜12週で全荷重へ移行します 。荷重の目安は以下の通り段階的に進めます(※数値は一般的プロトコルに基づきます)。
    • Toe touch (足先接地): 体重の約1/10
    • 部分荷重 (PWB): 1/3 → 1/2 → 2/3 と漸増
    • 全荷重 (FWB): 疼痛反応と仮骨形成を確認後に実施

神経筋協調運動と感覚入力

足底部は立位時における重心制御の要であり、感覚入力が低下すると歩行の不安定化や筋緊張の異常を招きます 。

  • 足底感覚トレーニング: 術後早期から足底への接触感覚を養い、固有受容器を活性化させます 。
  • キャスター付きボード等の活用: 非荷重〜軽荷重下で下肢の振り出し練習を行い、スムーズな運動連鎖を再獲得します。ただし、過度な努力性は下腿三頭筋のスパズムを誘発するため注意が必要です。

合併症と装具療法

  • 代表的合併症:
    1. 距骨下関節症: 内反変形や関節面の不整により、不整地歩行での疼痛が生じます 。
    2. 足根洞症候群: 骨間距踵靭帯の損傷や、外側壁の突出による腱衝突(インピンジメント)が原因となります 。
    3. 腓腹神経損傷: 手術時の侵襲などにより、足部外側の感覚障害を生じることがあります 。
  • 足底挿板・ヒールサポート:
    • 踵を高く設定するヒールサポートは、前足部への荷重移動を助け、踵部への直接負荷を軽減します。
    • 内側縦アーチの保持: 偏平足化(アーチ低下)を防ぐことで、後脛骨筋などの二次的な筋疲労や疼痛を予防します 。

踵骨骨折|ヒールサポート


よくある質問(FAQ)

Q. 初期治療で最も優先すべきことは?
A. 腫脹のコントロールと、周囲組織の滑走性維持です。アキレス腱の牽引力による再転位を防ぐため、強い底屈抵抗は避けつつ、足指の運動や軽度の足関節運動を行います。

Q. 荷重開始時期を決定する基準は?
A. レントゲン上の仮骨形成状態に加え、ベーラー角の維持、および荷重時の疼痛反応(NRS等)を総合的に判断します 。

Q. なぜ足底感覚のトレーニングが必須なのですか?
A. 足底は地面からの入力を脳へ伝えるセンサーの役割を果たすためです。感覚が鈍くなると、バランス反応が低下し、歩行時に足首や膝へ過剰な負担がかかる二次的な障害(コンパートメント内圧上昇など)を招く恐れがあるからです 。

Q. 「大本法」後の管理の特徴は?
A.  靭帯整復力を利用した徒手整復術であり、早期から可動式装具を用いることで、骨萎縮と拘縮を最小限に抑える管理が可能です。

Q. 長期的に残りやすい症状は?
A.  距骨下関節の可動域制限(特に内がえしのしにくさ)や、長時間の歩行に伴う足根洞付近の疼痛です。これらに対しては、靭帯や脂肪体(Kager’s fat pad等)の滑走性を改善する徒手療法が有効な場合があります 。


最終更新:2026-05-11