スウェイバック姿勢と膝関節の痛みの関係性

男性と女性では膝関節の痛みの原因が異なることは臨床的に多く、そこには緊張姿勢と弛緩姿勢が大きく関与していると考えています。

緊張姿勢は「骨盤前傾姿勢」で女性に多く、弛緩姿勢は「骨盤後傾姿勢(スウェイバック)」で男性に多いことが特徴です。

具体的にどこが緊張しているかというと、アナトミー・トレインにおけるDFL(ディープ・フロント・ライン)が硬くなっています。

DFLが硬くなっているヒトでは、股関節内転筋群が大腿骨を内旋させるため、膝蓋骨が内向きになったニーイン姿勢をとります。

下肢全体が内旋するとつま先が内向きとなり、歩行時に蹴り出しにくくなったり、立位のバランスが悪くなってしまいます。

そのような不安定な状態を解消するために下腿は外旋位となり、膝関節に捻れが生まれ、結果的に脛骨外旋症候群を引き起こします。

では、なぜDFLが硬くなっているかを考えたときに、とくに女性は筋力が弱いために体重を支えきらずに足部が外反しやすいことが挙げられます。

いわゆるオーバープロネーション(回内足)の状態であり、足部を内反させる後脛骨筋は伸長位となってしまいます。

後脛骨筋はDFLに繋がっているので、伸ばされると股関節内転筋群を引っ張り、さらに腸腰筋を引っ張ることになります。

それが結果的に骨盤前傾や大腿骨内旋を招くことになり、回内足を起こしているヒトが変形性膝関節症(O脚)を発生しやすい理由でもあります。

単純に足部が外反するだけでは膝関節も外反しそうですが、実際には立脚後期に足部が外反すると脛骨は外旋して下肢は外方に傾斜していきます。

そうすると膝関節内側の圧が高まることになり、ストレスが繰り返されることで内側半月板損傷や内反膝の原因になります。

また、脛骨外旋症候群では膝関節外側のスペースが狭くなり、膝蓋下脂肪体が内側に押し出されて貯留してしまいます。

内側に貯留した状態で膝関節の屈伸が繰り返されると、膝蓋下脂肪体に加わる摩擦が増強して損傷することにつながります。

さらにニーイン・トーアウトの状態では、内側ハムストリングスと腓腹筋内側頭が接近して癒着しやすくなります。

癒着してしまうと膝関節伸展や脛骨内旋に制限をきたすことになるので、ニーインしている患者では剥離することが重要です。

ちなみに脛骨外旋症候群をきたしている患者に対して、スクリューホームムーブメントを意識した下腿外旋誘導は痛みを増悪させるので絶対にやってはいけません。

ほとんどの膝関節伸展制限は、膝蓋下脂肪体と膝後方の癒着にアプローチすることで改善が認められるので、まずはそこを中心にアプローチしてください。

かなり前置きが長くなりましたが、これが一般的な女性に起こりやすい膝関節の痛みだと考えています。

しかし、これが男性になると弛緩姿勢が多くなり、大腿骨は外旋して膝蓋骨が外向きになったニーアウト姿勢をとります。

下肢全体が外旋するとつま先が外向きとなり、歩行時に蹴り出しにくくなったり、立位のバランスが悪くなってしまいます。

そのような不安定な状態を解消するために下腿は内旋位となり、膝関節に捻れが生まれることになります。

これは前述したニーイン・トーアウトをとりやすい女性とは真逆の状態であり、治療部位も異なってくることに留意しなければなりません。

具体的には、膝蓋下脂肪体は外側に貯留しやすくなり、外側ハムストリングスと腓腹筋外側頭が接近して癒着しやすくなります。

このように弛緩姿勢と緊張姿勢でアプローチは異なりますが、理屈さえわかってしまうと難しいことはありません。

先入観を持って治療することはいけないことかもしれませんが、素早く原因を突き止めるためには知っておいて損はないはずです。

膝関節の治療で困っている方は、ここで説明したことを明日からの臨床にぜひ役立ててください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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