ダウン症候群のリハビリ治療

ダウン症候群のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

ダウン症候群の概要

ヒトは22対の常染色体と2本の性を決定する染色体、合計46本の染色体をもっています。

ダウン症候群では、21番染色体の一部あるいはすべてが3本分(トリソミー)あることにより成長・発達遅滞、多発奇形を呈する症候群です。

この病気は1866年にイギリスの眼科医Downが報告したことが名前の由来となっています。発症頻度が高い染色体異常で、日本での有病率は人口1,000人あたり1人となっています。

最近のアメリカにおける報告では、出生時691人に1人と報告されています。

高齢出産の発生率

一般的に、ダウン症候群は高齢出産であるほど発生しやすくなります。

具体的な値として、20歳では「1667分の1」、30歳では「952分の1」、35歳では「378分の1」、40歳では「106分の1」、45歳で「30分の1」と報告されています。

女性ばかりの問題に焦点を当てられることが多いですが、過剰な染色体は父親由来のこともあり、母親由来と父親由来の比は4:1と考えられています。

細胞遺伝学的には、トリソミー型が95%、転座型が3-4%、モザイク型が1-2%となっています。具体的な数値は公表されていませんが、ダウン症候群と発覚した3人に1人が中絶を選択されています。

トリソミーの豆知識

人間の染色体は46本あり、これは父親から23本、母親から23本を引き継いで46本となっています。染色体は、大きさの順番で番号が振ってあります。

そして最後だけは性染色体となり、XXやXYとなって性別を決めます。ダウン症候群は21番トリソミーなので、21番目の大きさと思いがちですが、実は最も小さい22番目の大きさの染色体になります。

これは最初に発見した人が順番を間違ったからです。また、18番トリソミーのエドワード症候群や、13番トリソミーのパトー症候群などは21番よりも大きな染色体なので、上位に発生するほどに障害もより大きいものとなります。

モザイク型では、2本と3本の細胞が混ざっているため、トリソミー型と比較して症状が軽度になります。中には見た目からも判断できない方々もいるので、それらを考慮してモザイク型ダウン症とは表現しないといったこともあります。

予後

ダウン症候群の方々の主な死因は、心臓の合併症や呼吸器の感染症となっています。しかしながら、医療技術の進歩により、従来よりも合併症に対する治療が的確に行われるようになって、平均寿命は延び続けて50歳を超えるようになっています。

また、社会的な支援の制度が整備されてきており、障害がある人たちでも生活しやすい環境となってきています。

臨床所見

身体的特徴

主な障害は知的障害ですが、情緒的に温厚で素直であることが知られています。成人ダウン症候群の20-30代の精神年齢は、一般の4-6歳程度となります。

その他に、筋緊張の低下、小指の関節がひとつ欠損、まぶたが深い二重、眼間の狭小化、切れ長の目、低い鼻、小さい口、皮膚の斑状模様、構音障害、感染抵抗力の低下などがみられます。

合併症

ダウン症候群の約40%に心疾患、約3-8%に十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化管の奇形、約10-30%に環軸椎亜脱臼、約60%に難聴、約1.6%に白血病が出現します。

その他にも、甲状腺機能低下や眼障害などがあります。乳児期は、筋緊張低下による哺乳力低下や定頸・座位保持獲得の遅れが目立ちます。

検査方法

最近では高齢出産も増えているため、事前に実施される羊水染色体検査や新型出生前診断などでわかる場合が多いです。どちらも費用は実費で20万円前後かかります。

これらの検査を実施されない場合は、通常はエコー検査時や出生後に、顔面正中部低形成や耳介・骨盤・第5指中節骨の異形成などの特徴的な顔つきと、高率に出現する心疾患、消化器奇形、白内障により判明します。

これらの外観的な特徴に加え、G分染法染色体検査により確定診断となります。

リハビリテーション

幼児期のアプローチ

幼児期のダウン症候群では、筋緊張の低下と自発運動が乏しいのが特徴であるため、積極的に自発運動を促すための工夫が大切です。

運動機能の発達遅滞を軽減するように努め、腹臥位や座位、定頸、寝返り、四つ這いなどの動作を順次獲得していきます。

個別的なリハビリテーションは、通常は四つ這いか、歩行開始にて終了となります。将来的に、足部の変形や活動量の低下による歩行能力の維持困難となるケースも予測されるため、先々まで見据えた生活指導も重要となります。

加齢に伴う生活能力の低下

ダウン症候群では、早期に加齢現象が出現しますので、近年は寿命の延長とともに歩行能力の維持が困難となるケースが増加しています。

歩行能力が低下すると体重の増大による介助負担が出現します。そのため、機能の低下を日頃より接する家族や介護職員に早期に把握してもらい、予防していくことが重要になります。

全身振動トレーニング

全身振動トレー二ングとは、振動を与える機械に乗り、振動刺激を受けながら立っていたり、運動を行うトレーニング方法です。ダウン症候群では、筋力の低下やバランス能力の低下が生活上の問題となる場合が多々あります。

その中で、全身振動トレーニングは通常の理学療法を実施するよりも、有意にバランス能力が向上したとの報告があります(Am J Phys Med Rehabil. 2015 Aug)。

早期の能力獲得は、健康的な発育のためには欠かせない大切な要素です。機器がある場合は、是非とも試してみる価値はあると思います。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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