マイオチューニングアプローチ(myotuning approach:MTA)の考え方について解説していきます。
MTAの概要
筋(myo)を調整(tuning)するためのアプローチ方法であり、触圧覚刺激を基本とすることから患者の負担が少ないのが特徴です。
その対象は脳卒中後遺症から整形外科疾患までと広く、痛みや痺れ、筋緊張異常の改善に効果を発揮します。
MTAで使用される言語の解説
用語 | 意味 |
再現症状 | ①患者が訴えている症状と種類および部位が全く同じ症状である。 |
②原因筋線維の刺激により再現できる症状である(再現痛、再現痺れなどがある)。 | |
原因筋 | ①症状の原因になっている筋である。 |
②刺激により再現症状を生じる筋である。 | |
③身体の動きを抑制している筋である。 | |
原因筋線維 | ①原因筋に含まれる筋線維である。 |
②症状の原因になっている筋線維である。 | |
③刺激により再現症状を生じる筋線維である。 | |
④動きを阻害している筋線維である。 | |
抑制部位 | ①刺激することにより、再現症状を改善できる部位である。 |
5つの手技
1.基本手技
MTAの基本となる手技であり、原因筋線維と抑制部位の両方に触圧覚刺激を加えて施行する方法です。
2.MTAストレッチング
基本手技(原因筋線維と抑制部位への触圧覚刺激)で症状の抑制を加えながら、さらに拮抗筋上層に触圧覚刺激を加えた状態で原因筋線維を伸張する方法です。
3.触圧覚刺激+痛覚刺激
原因筋線維に触圧覚刺激、抑制部位に痛覚刺激(気持ちがいい程度)を加えて施行する方法です。1,2で改善しない場合に用います。
4.痛覚刺激のみ
抑制部位への刺激は行わず、原因筋線維のみに痛覚刺激を加えて施行する方法です。いわゆるマッサージで、1,2,3で改善しない場合に用います。
5.随意運動の活性化
活性化したい筋に対して、筋線維を横切るように刺激を加えていきながら、起始部から停止部にかけて移動していきます。
そうすることで固有感覚受容器が活性化され、筋出力の改善が起こります。この手技は、1,2,3,4の方法で痛みの症状が十分に緩和されたあとに用います。
治療方法の実際
まずは筋肉を触診していき、圧刺激によって痛みが再現できる部分(原因筋線維)をピンポイントで見つけます。
次に、同一の皮膚分節内に圧刺激を加えていき、同時に原因筋線維にも圧刺激を加えながら痛みの変化を口頭で確認していきます。
最も痛みが軽減する場所を痛みの抑制部位とし、そこに圧刺激を加えた状態で、原因筋線維を治療していきます。
痛みが改善する理由
図を見るとわかりやすいのですが、例えば、棘下筋に圧刺激が存在し、普段に感じている痛みが再現できる場合、そこが原因筋線維となります。
次に同一の皮膚分節内(図ではT3)に圧刺激を加えていき、手を動かしながら最も痛みが軽減できる抑制部位を見つけ出していきます。
なぜ別の部位に圧刺激を加えることで原因筋線維の痛みが軽減するかというと、それはMelzackとWallによって紹介されゲートコントロール理論で説明ができます。
太い神経線維(Aβなどの触覚)を刺激することで、痛みを抑制する介在ニューロンが促進され、痛みを伝えるT細胞を抑制できるというわけです。
また、分節内で最も除痛できる部分を「Melzack Point」と呼びます。
原因筋線維に圧刺激を加えると痛みが和らぐのは、ゲートコントロール理論以外にも、交感神経やα運動ニューロンの抑制機構が働いています。
これらの疼痛抑制機構を賦活することで、効率よく痛みや筋緊張を治療することがマイオチューニングの基本となります。
作用機序について
抑制部位の圧刺激によって痛みを遮断し、筋線維がリラックスした状態で圧刺激を加えられるように調整します。
原因筋線維への圧刺激は、交感神経活動の抑制、α運動ニューロンの抑制によって持続的な筋緊張の抑制に働きます。
α運動ニューロンの抑制機序として、圧刺激によって錘内筋(筋紡錘)が働き、α運動ニューロンが抑制され、錘外筋(筋線維)の活性化が抑制できます。
MTストレッチング
上述した触圧覚刺激によって除痛が図れたら、続いては原因筋線維のセルフストレッチングを実施していきます。
治療者も加わって実施する場合は、原因筋線維への触圧覚刺激に加えて、拮抗筋にも触圧覚刺激を行っていきます。
拮抗筋が原因筋線維と同一の皮膚分節に位置する場合は、拮抗筋上層の軟部組織を抑制部位として利用します。
拮抗筋に触圧覚刺激を加える理由として、拮抗筋の筋緊張が低下することにより、脊髄の反射性収縮が弱まります。
それに伴って原因筋線維の緊張も低下するため、効率的なセルフストレッチが実現できるようになります。
さらにゆっくりと呼吸に合わせて実施することにより、副交感神経の活性化、過剰収縮の抑制、Ib抑制および相反性抑制などの相乗効果が期待できます。