膝痛のある肥満者に対してダイエットするように指導する。呼吸困難感のあるCOPD患者に対して下肢トレーニングを指導する。
これらの指導はエビデンスのある治療と呼べますが、患者に運動習慣が定着せずに、ドロップアウトしてしまう方々も多くいます。
たとえ言ってることが正論であっても、実践してもらえない運動指導を繰り返していては意味がありません。
運動を継続してもらうためには、その人に合った内容を組むことが必要です。ここではそのポイントについて解説していきます。
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なぜ運動を実践してもらえないのか
COPDの治療ガイドラインにおいて、下肢のトレーニングはエビデンスレベルAであり、呼吸困難感を軽減することができます。
しかし一方で、運動に伴う呼吸困難感の増加は運動の継続率を低下させ、重症例ではさらに継続できる可能性が低くなります。
外来における呼吸リハビリテーションのドロップアウト率は約40%と報告されており、その原因の大部分は意欲低下による自己中止です。
また、在宅での自主トレーニングの継続率は0-20%といわれており、ほとんどの患者が継続できていない状況にあります。
自主トレーニングの継続率について
COPD患者ではとくに低い数値でしたが、高齢者に対しての転倒予防を目的とした自主トレーニングの継続率は20-50%ほどになります。
Forkanらの報告によると、自主トレーニングを週4回以上実施できていた患者は28%、週1回程度の頻度なら50%が実施可能としています。
以上のことから、運動が定着しない場合は、負荷量(苦痛感)を下げるか、実施頻度を下げることで継続率を改善できる可能性があります。
運動をする意味を理解しているか
頻度や負荷と同様に大切なのが、自主トレーニングの必要性について患者自身が理解しているかです。
私たちは専門的な知識を持っているからこそ運動の重要性がわかっていますが、患者はそれがどれほどの意味を持つかを知りません。
ヒトは意味がわからないことを実施し続けることはできませんので、セラピストは運動をすることでどれぐらいの期間でどの程度の改善が見込めるかを説明する義務があります。
とくに患者の年齢が若い(理解力が高い)ほどに説明の効果は高く、継続率を高めるためには有用な手段となりえます。
高齢者に対しては効果で示す
論より証拠といいますか、患者の心情としては即時的な効果をどうしても求めてしまいがちです。また、その傾向は高齢者ほど強い気がします。
そのため、治療者が指導する際は変化を実感してもらえるように気付きを与えたり、場合によっては効果の出やすい方法を選択します。
高齢者はとくに筋力トレーニングが必要となる場合は多いですが、即時的な効果は出ないために継続が難しかったりします。(むしろ疲労で実施後は落ちる)
そのため、外来などで通われてきた際は再度評価を実施し、身体面にどのような正の変化があったかを説明することが大切です。
身体が丈夫で健康になっていくことを嬉しいと感じてもらえれば、継続率は自然と高まっていくはずでず。
運動メニューが書かれた紙を渡す
外来などで二度目に来られた際に、「自主トレーニングは実施していますか」と尋ねると、内容を忘れていたり、やり方が間違っていたりすることはよくあります。
なので、初回終了時に運動メニューが書かれた紙を渡すことは有用で、実施率を上げるためにも不可欠といえます。
私の場合は、部位ごとに代表的な運動メニューが9つほど写真付きで解説されているパンフレットを作製し、必要な運動に赤丸を付けてから渡していました。
5つも6つもは出来ないので、自宅でのトレーニングは必要なものだけに絞り、2つか3つまでに抑えるようにすることがポイントです。
安静指示が伝わらない場合の対処法
自宅でのトレーニング方法の指導と同様に大切なのが、障害部位へ負担がかかる動作の禁止です。
例えば、投球動作が原因で肩を痛めてしまった野球少年が来院した場合に、まずは投球制限をすることが第一になります。
しかし、野球で投手というポジションは最も重要であり、代わりがいないからという理由で投げ続けてしまうケースは非常に多いです。
その場合は、一緒に来院されているご家族に状態を説明し、投げ続けることのリスクや、安静の必要性について理解いただくことが大切です。
そのようにして周りの外堀を固めておくで安静や自主トレーニングの指導がうまくいく場合も多いので、必要に応じて説明していきます。
リハビリで良くなる人とならない人
変化を感じてもらうことが継続率を上げるためには必要と書きましたが、トレーニングを実施しても思うような変化が出ない方々もいます。
私のこれまでの経験上、リハビリで良くならない人にはいくつかの共通点があることに気付きました。その特徴をまとめると以下になります。
- 指示された通りに実行しない
- モチベーションが低い
- 安静にすることができない
- 背骨が潰れている
- 精神疾患を有している
①②③に関しては、セラピスト側にも責任がありますが、どのようにして指示通りに動いてもらえるか、モチベーションを高めるかは常に考えておく必要があります。
患者の中には、「運動はいいからホットパックだけして」と自分勝手なリハビリをする人もいますが、そういう方はまず良くなりません。
④に関しては、高齢者になると背骨が曲がっている人が多いですが、それは背骨が圧迫骨折で潰れているのが原因です。
背骨は身体の中心ですので、曲がると上肢や下肢のアライメントも崩してしまい、その他の部位のリハビリ効果も現れにくい状態となります。
発生初期にどれだけ安静にして圧潰を防げるかが重要であり、一度潰れてしまったものは二度と元には戻りません。ここは非常に厄介な部分でもあります。
⑤に関しては、慢性的な痛みの原因として心理面が絡んでいる場合が多くあります。うつ病を発症している人では治療効果が低くなるという報告もあります。
セラピストの対応のみでは難しいので、専門的な医療機関を受診していただき、そちらと併用した治療を受けつつ、リハビリを進めていきます。
障害は未然に防ぐことが大切
リハビリの世界でも予防の重要性が唱えられていますが、自主トレーニングの定着率などに関して深く言及している文献はまだまだ少ないかと思います。
定着させるために必要な条件は多々あり、障害によっても異なりますし、その人の性格などによっても変化します。
そのあたりを上手く見極めていきながら、効果的で持続可能な自主トレーニングの指導を行っていくことが大切になります。