この記事では、三角筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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三角筋の概要
三角筋は上肢で最も体積が大きい筋肉であり、その作用の違いから、①鎖骨部(前部)、②肩峰部(中部)、③肩甲棘部(後部)に分けられます。
肩関節を動かすうえで最も強力に作用しますが、力を発揮するためには深層筋の回旋筋腱板による肩甲上腕関節の固定力が必要不可欠です。
腱板が機能していない場合は、三角筋の作用で上腕骨頭が上方変位し、肩峰や烏口突起と衝突してインピンジメント症候群を起こします。
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基本的に三角筋のような表層筋(アウターマッスル)は関節運動に貢献し、腱板のような深層筋は関節の安定性に寄与しています。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 腋窩神経 |
髄節 | C5-6 |
起始 | ①鎖骨部:鎖骨の外側1/3の前縁
②肩峰部:肩甲骨の肩峰 ③肩甲骨棘部:肩甲骨の肩甲棘の下縁 |
停止 | 上腕骨の三角筋粗面 |
動作 | ①鎖骨部:肩関節屈曲,水平内転,内旋
②肩峰部:肩関節外転 ③肩甲骨棘部:肩関節伸展,水平外転,外旋 |
筋体積 | 792㎤ |
筋線維長 | 9.7㎝ |
速筋:遅筋(%) | 42.9:57.1 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
肩関節屈曲 |
肩関節伸展 |
肩関節外転 |
1位 | 三角筋(前部) | 広背筋 | 三角筋(中部) |
2位 | 大胸筋(上部) | 大円筋 | 棘上筋 |
3位 | 上腕二頭筋 | 三角筋(後部) | 前鋸筋 |
4位 | 前鋸筋 | 上腕三頭筋(長頭) | 僧帽筋 |
ポジションによる作用の変化
三角筋の作用は肩関節のポジションによって多様に変化するため、それを考慮したうえで筋機能については評価していく必要があります。
以下に、肢位毎の動きをまとめた表を掲載します。
下垂位 |
90度屈曲位 |
90度外転位 |
|
前部線維 | 屈曲・内旋 | 屈曲・内旋 | 水平内転 |
中部線維 | 外転 | 水平内転・水平外転 | 外転 |
後部線維 | 伸展・外旋 | 水平外転 | 水平外転 |
三角筋中部線維は肩関節90度屈曲位にて水平内外転の軸を通過するため、前方線維は水平内転に、後方線維は水平外転に作用します。
三角筋は硬くなりやすい筋肉であるため、肩関節の水平内転に制限がある場合は、後部線維の癒着などが起こっていることも多くみられます。
三角筋の触診方法
三角筋は簡単に触れることができる筋肉ですので、下記の写真を参考にしながら確認してみてください。
1.鎖骨部(前部)
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写真では、人差し指で前部と中部の筋間中隔を触診しています。
前部線維の内縁は肩屈曲に伴い出現する鎖骨下窩(三角形のへこみ部分)の外縁ですので、視診ですぐに把握できます。
2.肩峰部(中部)
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写真では、肩関節を軽度伸展位にて外転させ、人差し指で後部との筋間中隔を触診しています。
中部線維は肩関節を外転させることで、前部と後部との筋間中隔を探るようにして触診するとわかりやすいです。
3.肩甲骨棘部(後部)
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写真では、肩関節を外転させて中部と後部の筋間中隔を触診しています。
後部線維は肩関節を90度外転させた状態から水平伸展させることで、容易に触診することが可能です。
ストレッチ方法
1.鎖骨部(前部)
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端座位にて肩関節伸展外旋位・前腕回外位とし、両手をベッド後方に置いて、肘を徐々に屈曲していきながら肩関節を伸展・内転させます。
2.肩峰部(中部)
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肩関節軽度屈曲位・肘関節軽度屈曲位・前腕回内位とし、もう片方の手で肘を体幹に引き寄せて肩関節を内転させていきます。
3.肩甲骨棘部(後部)
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肩関節と肘関節を屈曲位、前腕を回内位にし、もう片方の手で肘を側方に引き寄せながら肩関節を水平内転させていきます。
筋力トレーニング
三角筋は硬くなりやすい筋肉ですので、肩関節の痛みや拘縮の治療において三角筋を強化する場面はほとんどありません。
三角筋を緩めるために深層筋の腱板を鍛える機会は多いですが、その際は表層筋である三角筋を過剰に収縮させないことが必要となります。
1.鎖骨部(前部)
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フロントレイズという方法で、三角筋前部線維を選択的に強化できます。
2.肩峰部(中部)
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サイドレイズという方法で、三角筋中部線維を選択的に強化できます。
3.肩甲骨棘部(後部)
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バックレイズという方法で、三角筋後部線維を選択的に強化できます。
アナトミートレイン
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三角筋はアナトミー・トレインにおいて、SBAL(スーパーフィシャル・バックアーム・ライン)の筋膜経線上に位置しています。
SBALは硬くなりやすいラインであり、とくに僧帽筋上部線維は肩コリを起こす筋肉としても有名です。
トリガーポイントと関連痛領域
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三角筋の圧痛点(トリガーポイント)は筋全域にわたって起こりやすく、関連痛はトリガーポイント上に強く起こります。
前述したように三角筋が繋がる深筋膜は硬くなりやすいため、治療においては滑りの悪い圧痛点に軽い圧迫と伸張を加えるリリースします。
次いで筋肉が滑走しやすいように外縁を指でたどっていき、指を組織間に押し込むようにしながら周囲との癒着を剥離していきます。
関連する疾患
- 肩関節インピンジメント症候群
- 腋窩神経麻痺
- リュックサック麻痺
- 三角筋拘縮症 etc.
肩関節インピンジメント症候群
前述したように、三角筋の過緊張は上腕骨頭の上方変位を招き、肩関節インピンジメント症候群を起こす原因になります。
例えば、肩関節内旋運動に徒手抵抗を加えて痛みが生じる場合は、肩甲下筋の表層に位置する三角筋前部の過剰な収縮が問題です。
そのため、三角筋前部を肩甲下筋腱から引き剥がすようにリリースし、肩甲下筋が単独でしっかり動くように整えます。
同様に肩関節外旋運動で痛いなら棘下筋の表層の三角筋後部に、外転運動で痛いなら棘上筋の表層の三角筋中部にアプローチします。
腋窩神経麻痺
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肩関節周囲炎や腱板損傷では、関節包の短縮や肩周囲筋の過度な緊張を起こし、腋窩神経の通り道である四角間隙で神経が絞扼されます。
腋窩神経は肩関節外側の知覚領域を支配していますので、その領域に知覚異常が起こり、結果的に三角筋中部あたりの痛みを訴えるようになります。
腋窩神経麻痺の場合は、肩関節外側部痛の他にも、三角筋の萎縮や外転筋力の低下が認められます。