上腕二頭筋長頭腱炎から肩関節の慢性痛に移行する理由と治療法

上腕二頭筋長頭腱炎を発症したあとに慢性的な肩痛に移行するケースをよく見かけますが、その理由と治療法について解説していきます。

私がこれまでに担当してきた患者では、やや高齢の男性で、重いものを運ぶような動作が続いた後に上腕二頭筋長頭を損傷していることが多いです。

その場合は肩関節屈曲や前腕回外の動作で肩関節前面に痛みを訴え、上腕骨の結節間溝部に圧痛を認めます。

炎症が強い時期は安静時痛も認められますが、そこから損傷部に負担をかけなければ痛みは緩やかに軽減していきます。

そこからなぜ慢性的な肩痛に移行するかですが、それを理解するためには上腕二頭筋長頭腱の走行を理解しておく必要があります。

肩関節包と上腕二頭筋長頭腱

通常、関節は「関節包」に覆われており、その上を靭帯や筋肉などが覆うことで関節を安定させています。

それが上腕二頭筋長頭腱の場合は、肩関節包の深層を通過して肩甲骨の関節上結節と上方関節唇に付着します。

そのため、関節包内や付近の腱部に炎症が起きると、肩関節の前上方関節包に短縮や癒着といった障害を残すことになります。

前上方関節包に短縮が起きると肩関節伸展時に痛みを起こしたり、夜間時痛をきたすことにつながります。

また、肩を動かしたときに上腕骨頭が正常な軌道を描けなくなるため、動かしづらさを訴える場合も多いです。

関節包の短縮は安静にしていても治癒することは難しいため、関節モビライゼーションやストレッチ指導を行うことが大切です。

具体的な方法としては、患者に仰臥位をとっていただき、肩関節をやや伸展位に保持した状態から施術者は患者の上腕骨頭を上方に突き上げます。

イメージとしては前上方関節包を上腕骨頭で押し伸ばすような感覚で行い、徐々に肩関節伸展の角度を上げたポジションから行います。

すでに炎症が落ち着いている場合は痛みがほとんどなく、伸張時に関節腔が広がって心地よさを訴えることが多いです。

炎症(痛み)の状態を確認しながら、可能なら在宅でのストレッチ方法を指導し、無理のない範囲で伸ばすようにしていきます。

もうひとつの痛みの原因として、上腕二頭筋長頭腱による過剰な牽引によって、上方関節唇が損傷しているケースがあります。

関節唇は線維軟骨ですが、遠位の二分の一には自由神経終末が認められるため、しばしば痛みの原因となります。

関節唇が損傷している場合、肩関節が内旋や水平内転する際に圧縮ストレスが加わり、肩関節前面に痛みが起こります。

肩甲下筋の筋力低下や後方関節包の短縮が存在すると、内旋や水平内転時に骨頭が後方に滑るスペースがなく、関節唇の圧縮を強めます。

そのため、治療では肩甲下筋の強化および後方関節包のストレッチを中心にアプローチしていきます。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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