下肢静脈瘤のリハビリ治療

下肢静脈瘤(Varicose Veins)の原因とリハビリ治療の方法について解説していきます。

下肢静脈瘤の概要

動脈の血液は心臓から送り出された勢いで全身を駆け巡りますが、心臓に戻すための静脈の血液はすでにその勢いを失っています。

そこで静脈内の弁の作用で逆流を防ぎながら流れを作り、筋ポンプの作用で押し上げるようにしながら循環を保っています。

そんな大切な静脈弁が壊れてしまうとスムーズに流れていた血液が滞ってしまい、血流が低下しまうことになります。

そして障害部位より遠位に血液が貯留することになり、静脈に沿った形で瘤(こぶ)が出現します。その状態を下肢静脈瘤といいます。

基本的に下肢静脈瘤は表在静脈に起こるため、見た目で容易に診断ができ、深部静脈血栓症のように診断に難渋することはありません。

また、あくまで血液の貯留が原因であるため、血栓が形成されたわけではなく、深部静脈血栓症のように命に関わることはほとんどないです。

ゆっくりですが血液も流れ続けているため、静脈瘤が生じた場所によっては自覚症状もほとんどなく、気付かれていないことも多々あります。

日本では1000万人以上の患者がいると推測されており、年齢が上がるほどに増加していくことが一般的です。

軽度のものまで含めると、70歳以上では75%の人に下肢静脈瘤が存在していると考えられています。

下肢静脈瘤の症状

静脈が浮き出るので見た目でもわかりやすい疾患ですが、その他にも浮腫やかゆみ、重だるさ、色素沈着、湿疹、こむら返りなどが起こります。

静脈瘤の存在はイコールで静脈の働きが悪くなっていることを示唆するので、毛細血管の血圧が上がり、組織液の量が増加してしまいます。

そうするとリンパ管による吸収量を上回ることになってしまい、結果的に脚がむくむといった状態になります。

浮腫を理解するにはリンパの働きについて知っておく必要があるため、「リンパ性浮腫のリハビリ治療」の記事を参考にしてください。

静脈瘤は仕事などで長時間立ち続ける人や妊娠・出産を何度か経験している人に好発することが知られています。

遺伝的な要因についても指摘されており、家族に下肢静脈瘤を患った人がいる場合は発症率が非常に高くなります。

瘤が出現する場所によって静脈瘤はいくつかに分類ができ、それぞれで治療法がやや異なるので各々で簡単に解説していきます。

1.伏在静脈瘤

下肢静脈瘤において全体の約70%を占めており、患者数が最も多いことに加えて広範囲に瘤ができることが特徴です。

伏在静脈の太さは4ミリ以上であり、表在静脈の中で最も大きく、血流が多い血管といえます。

そのため、他の静脈瘤と比較して血液が溜まる量が多く、下肢のだるさや浮腫といった自覚症状が起こりやすくなります。

伏在静脈には大伏在静脈と小伏在静脈が存在しており、大伏在静脈は脚の内側を足首から脚の付け根まで60〜80センチほど走行しています。

そのため、瘤ができる位置は大腿内側から内踝までと広く、障害部位より遠位に発生することになります。

小伏在静脈は足首からふくらはぎを通過し、膝窩部にて深部静脈へとつながっています。

そのため、膝窩部の弁が壊れている場合に発生し、ふくらはぎに集中した瘤が発生することになります。

細い血管の場合は硬化療法や弾性ストッキングで対応ができますが、伏在動脈は太い血管なので手術が適応となります。

2.分枝静脈瘤

伏在静脈から枝分かれした部分を分枝静脈と呼んでおり、そこに静脈瘤が発生している場合を分枝静脈瘤といいます。

あくまで伏在静脈から派生であるため、その発生部位も伏在静脈と同様に脚の内側を足首から脚の付け根までに起こります。

瘤はあまり大きくなく、血管の一部がボコッと浮き出ている程度です。

太さは2〜3ミリの血管であり、浮腫やだるさといった自覚症状に乏しく、セルフケアで十分に改善が可能な下肢静脈瘤といえます。

ただし、適切に対応しないと伏在静脈瘤に進行してしまうため、放っておいたら治るといった考え方はしないように注意してください。

若い女性などはスカートを履く機会も多いため、すぐに取り除きたい場合は注射を使ったフォーム硬化療法が適応されます。

3.網目状静脈瘤

膝窩部に発生しやすい静脈瘤で、青く細かい血管が網目のように浮き出ているのが特徴です。

太さは1〜2ミリと細い血管であるため、浮腫やだるさといった自覚症状はほとんどありません。

症状が進行して重篤化するケースは多くありませんが、美容目的で治療する人が多く、分枝静脈瘤と同様にフォーム硬化療法が適応されます。

4.クモの巣状静脈瘤

皮膚の中にある毛細血管にできる静脈瘤で、赤い糸のような血管がクモの巣のように広がってみえることが名付けられました。

太さは0.1ミリ以下と非常に細い血管であるため、自覚症状を訴えることはまずありません。

症状が進行して重篤化するケースもほぼありませんが、美容目的で治療する場合もあり、その際は細い注射針での硬化療法が適応されます。

深部静脈血栓症の存在

脚には表在静脈と深部静脈の二種類が存在しますが、深部静脈は表在静脈よりとても太く、全身の血液の約90%を運んでいます。

そのため、深部静脈に大きな血栓が形成されている場合のほうが、下肢静脈瘤より自覚症状は強くなることになります。

深部静脈血栓が形成される原因として多いのは、骨盤や股関節、膝関節などの脚に関する手術です。

大腿骨骨折の術後では、約40%に深部静脈血栓症(DVT)が出現するとの報告もあります。

代表的な検査にホーマンズ徴候があり、方法として、膝を伸展した状態で足首を背屈することにより、ふくらはぎに不快感が生じたら陽性とします。

感度も特異度も高くないために決定的な方法とはいえませんが、DVTを疑う徴候として知っておいた方が良い検査です。

より信頼性のある方法として、以下に示す五つの症状のうち三つ以上が出現し、他の疾病の可能性が除外できる場合はDVTの可能性が高いです。

1 脚の圧痛
2 脚の腫脹(片側性が多い)
3 両ふくらはぎ間の3cmを超える外周差
4 圧痕浮腫
5 表在性の側副静脈

リハビリテーション

壊れた静脈弁を治すことはできないので、リハビリテーションの考え方としては、どのようにして血流を改善させていくかが大切です。

徒手的なマッサージでは対症療法にしかならないため、運動療法や生活習慣の改善などにより、体質を変えていくことが必要です。

具体的には、運動療法ではカーフレイズ(踵上げ運動)やウォーキングなどを実施して、筋ポンプの作用を高めていきます。

浮腫が強い場合はなるべく下肢を挙上しておき、少しでも浮腫がひいた状態を保つようにしておくことが運動量の増加につながります。

しっかりとお風呂につかることも大切で、その際に膝の曲げ伸ばしをしたり、軽いマッサージを行うこともよいです。

弾性ストッキングの着用も有効で、毛細血管内の流体静力学的圧は約30mmHgであるため、圧はそれより高い30〜40mmHgが理想です。

軽度の静脈瘤ならセルフエクササイズで改善できる場合も多いため、患者には正しい知識を持ってもらうことが大切です。

再発しないように運動は習慣化してもらい、健康な状態を長く保てるようにアプローチしていってください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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