世界的な治療法の始祖たち

整形外科の外来リハビリをしていると、治療をするうえで徒手療法と運動療法の知識は必須と言える状況にあります。

今回は世界における治療技法の歴史について調べてみたので、簡単にですが代表的な人物と関連書籍を中心に紹介していきます。

①アンドリュー・テイラー・スティル

アンドリュー・テイラー・スティル(1828-1913:アメリカ:整形外科医)は、オステオパシーの創始者になります。

オステオパシーはギリシア語のOsteon(骨)とPathos(病理、治療)の2つを語源としています。

筋骨格系と病理の関連に着目し、骨格の歪みを改善することで健康を取り戻せるとしました。

スティルは、人間には自然治癒力があり、それは構造と機能が健全であるときに現れると考えていました。

筋骨格系のみでなく、動脈や静脈、リンパなどの循環器系、脳脊髄液の循環を含む脳神経系などにも手を使って治療を加えていきます。

オステオパシー医師の著名人にジョン・E. アプレジャーがおり、頭蓋仙骨治療(クレニオ・セイクラル・セラピー)の創始者になります。

頭蓋仙骨治療は、頭蓋の動きと仙骨の運動を調整し脳を包む硬膜の緊張を取り除き、血液やリンパ液、脳脊髄液などの体液の流れを促す方法です。

②ダニエル・デヴィッド・パーマー

ダニエル・デヴィッド・パーマー(1845-1913:アメリカ)は、カイロプラクティック(脊椎指圧療法)の創始者になります。

前述したオステオパシーとともに代表的な治療技法になりますが、両技法ともに創始時にはその理論の中にスピリチュアルな世界観を包含していました。

しかし、西洋医学と同居していくうえで、社会的な地位を得るためにスピリチュアルな部分は排除されていきました。

現在のカイロプラクティックは、関節アジャストメントもしくは脊椎マニピュレーションを特徴とする徒手療法のひとつとなっています。

③アイダ・ロルフ

アイダ・ロルフ(1896-1979:アメリカ:生化学博士)はロルフィングの創始者になります。

ロルフィングは、ボディワークの代表的な技法として、アレクサンダー・テクニークとフェルデンクライス・メソッドと合わせて「3大ボディワーク」と呼ばれています。

ロルフィングが他の2技法と大きく異なる点として、「積極的な手技を用いる」という部分が挙げられます。

なぜなら、ロルフィングはボディワークとして創始されたわけでなく、治療技法として生まれたものだからです。

初期は前述したオステオパシーの影響を強く受けており、ボディワークとして現在あるような形に成長するまでには、かなりの時間を要したとされています。

④フレデリック・マサイアス・アレクサンダー

フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(1869-1955:オーストラリア:俳優)はアレクサンダー・テクニークの創始者になります。

心身の不必要な緊張に気づき、それをやめていくことを学習する技法で、頭-首-背中の関係を大切に考えています。

ボディワークは日本語で身体教育技法であり、狭義の意味では、「治療を目的とせず、心理的な問題に介入せず、クライアントの身体構造および身体機能を改善するための、身体的な教育」とされています。

しかし現在の日本では、ボディワークは「身体に働きかける技法」として、ざっくりした意味で使われていることが多いです。

パトリック・J.マクドナルドは、アレクサンダー・テクニークを簡潔に説明すると以下のように答えています。

「間違った postural behaviour(姿勢を伴う行動、振る舞い、習性)に気づき、それを抑制し、良い postural behaviour に差し替える能力」

単に postural(姿勢)を修正するのではなく、姿勢を伴う行動を変えることに重点が置いており、不必要な緊張を取り除くことを目的としています。

⑤モーシェ ・フェルデンクライス

モーシェ ・フェルデンクライス (1904-1984:イギリス:物理学者)はフェルデンクライス・メソッドの創始者になります。

モーシェは若かりし頃にサッカーで膝を傷め、傷めたほうの膝をかばっているうちに、他方の膝も動か癖なくなりました。

そこで医者にかかりましたが全く治らず、ついに自分で治療の方法を探ることになり、そこから身体性の領域に深く踏み込んでいきました。

モーシェの研究はヨーガ、フロイト、パヴロフ、大脳生理学、解剖学、神経生理学など非常に多方面にわたっています。

彼もロルフと同様に初めのうちは手による触診によって患者の障害の原因を発見し、相手のからだに直接手をかけて治療していました。

しかし、評判を聞きつけて訪れるものが多くなるにつれて、徒手療法だけでは対応しきれなくなり、多人数を相手に言語によって伝達する「動きによるアウェアにス(気づき)」という方法が編み出されます。

フェルデンクライス・メソッドは、人間が生まれてから成長していく過程で学習する動きを通し、自分の可能性に気づき、よりより生き方を目指しています。

おわりに

リハビリテーションにしてもそうですが、治療法は大きく分けると「徒手療法」と「運動療法」の2つに分けることができます。

オステオパシーやカイロプラクティックは徒手療法に含まれ、ロルフィングやアレクサンダー・テクニーク、フェルデンクライス・メソッドなどのボディワークは運動療法に分類できそうです。

どちらが優れているということではなく、臨床的には両者ともに必要であるケースがほとんどです。

ボディワークに関しては、どの技法も「気づき」を大切にしており、単純に運動をすることに重点を置いてはいません。

ここは臨床的にも大事なところで、身体の使い方(姿勢を伴う行動)を教育し、従来の間違った使い方に本人が気づくように誘導します。

本人の気づきがなければ修正は困難なので、ここをどれだけ理解し、実践していけるかで予後も大きく変わっていくものと考えています。

偉人たちから学べることは現代でも多くあると思いますので、 興味がある方はぜひ参考にしてみてください!


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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